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連載企画:会社の労務管理はしっかり!⑧

 今回は、労務管理についての連載企画第8回目として、退職・解雇の場面におけるリスク管理について説明します。
 労務トラブルのご相談の中で、最も紛争化しやすいテーマが「退職」と「解雇」です。
 日常的な残業管理や就業規則の不備は、是正すれば将来に活かすことができます。しかし、退職・解雇は一度判断を誤ると、後戻りがきかないという特徴があります。
 特に解雇については、企業側が「やむを得ない」と考えていても、裁判所の評価は必ずしも一致しません。その結果、解雇無効を前提とする地位確認請求や、長期間にわたる未払賃金請求に発展するケースも少なくありません。
 今回は、退職・解雇に関する法的整理と、企業が意識すべきリスク管理のポイントを、実務目線で説明したいと思います。

1 「退職」と「解雇」の法的な違い

 まず、大前提として「退職」と「解雇」は、法律上まったく性質の異なるものであるという意識を持つことが必要です。

⑴ 退職(合意退職・自己都合退職)

 退職は、原則として労働者の意思表示または労働者と使用者双方の合意によって成立します。民法上、期間の定めのない労働契約については、労働者による解約の申入れ日から2週間を経過することによって終了すると定められています(民法627条1項)。就業規則においても、2週間前の退職申出を求めている企業も多いと思います。
 実務上問題となるのは、仮に退職届が出されていたとしても「労働者本人の自由意思による退職か」という点です。

  ・強い退職勧奨があった

  ・事実上、選択肢がなかった

  ・解雇を示唆された上での退職

 等といった事情がある場合、後に退職の意思表示の有効性が争われることもあります。  

※退職勧奨について
 会社側が辞めて欲しいと思う従業員に対して退職を勧めることをいい、これ自体は何ら違法な行為ではありません。会社の人員削減の一環で行う場合もあれば、遅刻を繰り返す、業務上のミスが多い等の問題行動が見られる従業員に対して行う場合もあるでしょう。
 退職勧奨に応じるかどうかは従業員の自由です。長時間・多数回の面談や威圧的・侮辱的言動、退職以外の選択肢を示さない態度等、使用者から労働者に対する心理的圧迫があった場合は、違法な退職強要と評価されて、損害賠償命令が出されている裁判例もあるため、退職勧奨の進め方は慎重に行う必要があります。労働者に対して、退職金の上乗せ支給などのプラスとなる条件を提示することで、スムーズに退職合意に至るケースも多いと思います。

⑵ 解雇

 解雇は、使用者から労働者に対する一方的な契約解消です。労働者にとっては、今後の生活・収入に関わる重大な局面ですので、労働契約法16条において「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と非常に厳しく制限されています。
 また、原則として、解雇事由は就業規則などで定められており、従業員に周知されていることが必要です。
 法律上、解雇が制限されている場面もあるため、以下のような場面に当たらないかは注意が必要です。

  ・業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条)

  ・産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条)

  ・労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)

  ・労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇(労働組合法7条)

  ・労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条4号)

  ・女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)

  ・労働者が育児・介護休業などを申し出たことなどを理由とする解雇(育児・介護休業法10条など)

2 解雇の類型と裁判所が見るポイント

⑴ 解雇の種類

 まず、解雇には次の3種類があります。

   ・ 普通解雇

   ・ 整理解雇

   ・ 懲戒解雇

 いずれに該当するかによって解雇の要件が異なるため、違いを説明します。

⑵ 普通解雇

 普通解雇とは、整理解雇と懲戒解雇以外の解雇を指します。従業員に何らかの問題があり、このまま労働契約を継続することが困難な状況にある場合に選択されるのが、普通解雇となる場合が多いでしょう。例えば、能力や勤務成績が著しく悪く指導をしても改善される見込みがないとき、健康上の理由で長期にわたって職場復帰が見込めないとき、著しく協調性を欠くために業務に支障を生じさせ改善の見込みがないとき等に、使用者側は普通解雇とすることができないかを検討することになるでしょう。
 ただ、上記1で説明したように、労働契約法において解雇は非常に厳しく制限されています。そのため、例えば能力や勤務成績を理由とする解雇については、採用時にどのような能力を期待していたのか、具体的にどのような点が不足していたのか、改善指導や配置転換などの機会を与えたか、解雇以外の手段がなかったか等を慎重に検討しなければならず、単に「期待外れ」という評価だけでは解雇が無効と評価されることになります。

⑶ 整理解雇

 整理解雇とは、会社の業績悪化などの事情から、いわゆるリストラ(人員整理)をする際の解雇のことです。整理解雇の場合には、従業員側の落ち度がありませんので、より厳しい要件をクリアしなければなりません。
 整理解雇が有効・正当であると認められるためには、判例上、主に次の要件(要素)を満たす必要があるとされています。

  ・人員削減の必要性
   人員削減措置の実施が、不況や経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること

  ・解雇回避の努力
   配置転換や希望退職者の募集など、他の手段によって解雇回避のための努力をしたこと

  ・人選の合理性
   整理解雇の対象者を決める基準が客観的かつ合理的で、その運用も公正であること

  ・解雇手続きの妥当性
   労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行ったこと

 これらは、後々紛争に発展した際に資料として提示できるよう、整理解雇に至る経過(整理解雇実施に至る過程や人員選定に関する経営会議の議事録、労使協議の内容等)を書面に残しておく必要があります。

 ⑷ 懲戒解雇

 懲戒解雇とは、従業員に重大な非違行為がある場合におけるペナルティ(制裁)としての意味合いを含む解雇です。たとえば、従業員が会社のお金を横領した場合や、会社の機密情報を故意に漏洩させた場合などには、使用者側は懲戒解雇とすることを検討することになるでしょう。なお、懲戒解雇とする場合には、退職金規程などにおいて退職金の支給除外とされていることも多く、労働者が受ける不利益は非常に大きくなります。
 懲戒については、労働契約法15条に定めがあり、「懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効」とされています。1⑵で説明したように、解雇については労働契約法16条に定めがあるため、懲戒解雇は15条と16条をどちらも満たす必要があるということになります。
 具体的な検討過程としては、まず就業規則に根拠規定があるか(どのような行為があれば。どのような懲戒処分をするかについて具体的に記載しているか)、客観的な事実の証明ができるか(解雇理由が実際に行われたのか、会社に具体的にどのような損害が出たのか、客観的な証拠はあるか)、処分の相当性があるか(同様の事案で過去どう対応してきたか、過去に指導・警告や減給・降格等の他の懲戒処分をしたか、関連する記録は残っているか)という点を確認し、労働者に弁明の機会を与えて本人の主張を十分に聞き取ることが必要です。就業規則に「懲戒委員会を開催する」と規定されている場合には、その手続を適正に経ている必要があります。

⑸ 裁判所でも分かれる(懲戒)解雇の有効性

 会社に対して旅費の不正請求を100回にわたって繰り返した(不正受給額約54万円)従業員に対し、会社が懲戒解雇とした事案(日本郵便北海道支社事件)について、第一審では、「不正請求の事実を認めて全額返納したが、回数、金額などを踏まえると悪質性が高いこと、他の者に模範を示すべき立場であったこと」等を理由に懲戒解雇が有効と判断されました。しかし、第二審では「他の従業員も同様の不正受給を繰り返していたなど会社の旅費支給事務に杜撰ともいえる面が見られること、他の従業員は最も重くて停職3か月になっており他の従業員との関係で均衡を失すること、懲戒歴はなく営業成績は優秀で会社に貢献してきたこと等」を理由に懲戒解雇が無効と判断されました。
 また、5年にわたり蹴ったり叩いたりする、暴言や土下座強要等のパワーハラスメント行為を80件余り繰り返した従業員に対して、使用者が分限免職(一般企業での普通解雇に該当する処分)とした事案(長門市消防職員分限免職事件)について、第一審と第二審では「組織としてパワハラ行為の防止の動機付けをさせるような教育指導や研修等を行わなかったこと、更生の機会を与えなかったこと、他の従業員によるパワハラ行為と処分の均衡が図られているか疑問であること」等を理由に分限免職処分を無効としました。しかし、最高裁では「指導の機会を設ける等しても改善の余地がないと考えて不合理ではないこと、消防組織の職場環境の悪化は公務の能率の維持の観点から看過し難く、職員間の緊密な意思疎通を図ることは職員や住民の生命や身体の安全を確保するために重要であること、従業員の言動には報復を示唆する発言などが含まれており現に報復を懸念する他の従業員が相当数に上るため配置転換が困難であること」等を理由に分限免職処分を有効だと判断しました。

 

 以上、今回は、退職・解雇についての法的な整理と、裁判所で考慮されている要件やポイント等について説明しました。「できれば穏便に済ませたい」という思いと、「会社を守らなければならない」という判断の間で、経営者が悩む場面も多いでしょう。
 退職・解雇の場面における最大のリスク管理は、その判断を第三者(特に裁判官)に説明できるかという視点を常に持つということです。社内では当然と思える判断でも、外から見れば違う評価になることは珍しくありません。上記で説明したように、裁判所でもその有効性の判断が分かれることもあり、解雇処分を行うにあたっては、非常に慎重な判断が求められます。従業員を辞めさせることができるのか、どのように進めていくべきか等の迷った段階で、弁護士等の専門家に一度相談し、過去の裁判例も慎重に検討しながら進めることをお勧めします。

 ニューポート法律事務所は、多数の企業様より顧問契約を締結いただいております。解雇前の方針策定・アドバイスから、解雇後の紛争対応まで、幅広くサポートを行うことができますので、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

 

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