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連載企画:会社の労務管理はしっかり!⑤

 今回は、労務管理についての連載企画第5回目となります。今年最後のブログになるため、来年に国会での審議が予定されている労働基準法改正について説明いたします。

 

1 2026年労働基準法改正

 現行の労働基準法は、1987年に大規模改正されたものが基本となっており、企業オフィス内でフルタイム勤務をする従来型の働き方を前提に設定されています。多様化する働き方に十分対応できていない点が課題となっていたため、2019年から順次施行された働き方改革関連法では、労働基準法などの改正内容について施行後概ね5年を目途に検討・見直しを行う旨が附則に明記されています。
 さらに、コロナ禍以降、デジタル技術を活用したテレワークが定着し、副業・兼業も解禁される流れで増加するなど、企業環境や働き方は大きく変化しました。
 このような背景を受け、労働基準法の抜本的な改正が必要だと判断され、厚生労働省は、2024年1月に「労働基準関係法制研究会」を立ち上げ、2025年1月に報告書を公表しました(労働基準関係法制研究会報告書)。
 本報告書では、労働時間や休日制度、労働者の範囲や労使コミュニケーションの在り方まで含む包括的な改正案がまとめられており、企業が対応すべき範囲が非常に多岐にわたっています。
 

2 改正スケジュール

 本報告を基にした改正は、2025年中の厚生労働省での労働政策審議会分科会の議論を経て、早ければ2026年の通常国会で法案が提出され、2027年前後の施行が見込まれていましたが、2025年12月23日に改正法案の通常国会への提出は見送られたという報道がありました。高市政権が、「心身の健康維持と従業員の選択を前提にした労働時間規制の緩和検討」を厚生労働大臣に指示した影響もあるといわれています。
 今後は、本報告書の提言をどこまで取り入れるのか、高市政権における政治的スタンスも踏まえつつ審議が進む見込みです。
 

3 主な改正内容

 上記2のとおり流動的な部分もありますが、今回の改正では、労働者の健康確保と働き方の多様化への対応を軸に、8つの主要な改正項目が検討されています。

⑴ 連続勤務の上限規制

 現行の制度では、本連載4回目で説明したように変形休日制(4週間を通じて4日の休日)があるため、理論上は24日間の連続勤務が可能でした。しかし、長期間の連続勤務は健康リスクが高いことが問題視されてきたため、本報告書では「13日を超える連続勤務をさせてはならない」と提言されており、変形休日制を「2週間を通じて2日の休日」と見直し、連続勤務を最大13日までの上限とすることが検討されています。
 これは、特にシフト制を採用している業界への影響が大きい改正ポイントとなります。

⑵ 法定休日の特定義務

 現行の制度では、変形休日制を採用していない場合には「毎週少なくとも1日」の休日付与義務がありますが、どの曜日を法定休日とするかの特定義務はありません。現代の社会では、週休2日制をとる企業が多数を占めていますが、法定休日と所定休日が混在するため従業員にわかりにくい制度設計となっており、休日労働における割増賃金の対象となるかという点で労使間のトラブルの原因にもなっていました。
 そのため、本報告書では、法定休日をあらかじめ就業規則などで特定することを法律上義務付けることが提言されています。これにより、休日労働の割増賃金についても、明確な基準に基づき計算がしやすくなる見込みです。

⑶ 副業・兼業時の労働時間通算ルールの見直し

 現在の制度では、複数の雇用先で働いている場合、労働時間を通算して、時間外労働の割増賃金を計算するとされていますが、計算が非常に複雑です。
 本報告書では、労働者の健康確保のための労働時間通算は維持しつつも、割増賃金の支払いについては通算不要とする「分離方式」を導入する制度設計が提言されています。副業を認めやすい環境を整備し、柔軟な働き方を支援する制度改革になる見込みです。

⑷ 法定労働時間週44時間の特例廃止

 現在、特定業種の小規模事業場(常時10人未満の従業員を使用する事業場)に認められている「週44時間」の法定労働時間制が廃止される方向で議論が進んでいます。
 一律週40時間規制に統一されますので、対象となる業種ではシフト調整や人員配置の見直しが必要となりますので、早めの準備が望ましい改正ポイントです(ただ、現在週44時間の対象となる事業場の約87%は特例を利用していないという報告もされていますので、対応を要する企業は多くないのかもしれません)。

⑸ 勤務間インターバル制度の義務化

 終業時刻から次の始業時刻まで一定時間以上の休息時間を確保する制度である勤務間インターバル制度は、現在では努力義務にとどまっています。本報告書では、欧州の例に倣って原則11時間のインターバルを設けるよう義務化される方向であり、労働者の休息時間を確実に確保する狙いがあります。
 努力義務という背景から、現在は勤務間インターバル制度の導入企業は5.7%にとどまっているといわれていますので、就業規則やシフト調整など、企業における対策が必要となるポイントです。

⑹ 年次有給休暇取得時の賃金算定方法の変更

 現行法では、年次有給休暇取得時の給与は、平均賃金、通常の賃金、標準報酬日額のいずれかで計算することになっていますが、平均賃金や標準報酬日額方式では日給制・時給制の従業員に不利となる場合があります。そのため、改正では通常の賃金で支払う方式を原則にする方向で検討が進められています。
 これにより、日給制・時給制労働者の不利益を解消できるとともに、企業における給与計算業務がシンプルになる見込みです。

⑺ つながらない権利のガイドライン策定

 欧州では、勤務時間外の連絡禁止や権利行使による不利益禁止などの制度があり、日本でも勤務時間外や休日に仕事への連絡への対応を拒否できる「つながらない権利」の導入に向けて議論が進められています。
 法律による義務化ではなく、ガイドライン策定などによって労使間の協議を促す方向ですが、テレワークの普及によりプライベート時間と業務時間の境界が曖昧になりつつある現状を踏まえ、労働者のプライベートな時間を尊重し、緊急連絡の範囲や対応可否を明文化する取り組みが求められます。

⑻ テレワーク時の新たな「みなし労働時間制」

 現行では、在宅テレワークに関して事業場外みなし労働時間制や裁量労働制を利用している企業も多いですが、それらの制度は要件が厳しく、労働時間の把握とプライバシー保護の両立が課題となっていました。
 これに対応するため、在宅テレワークについて、実労働時間にとらわれず業務遂行を可能とする制度として、従業員の健康確保措置や本人同意を条件とした選択型のみなし労働時間制度を新たに導入する方向で議論されています。

 

4 法改正前に対応すべきポイント

 2026年改正、2027年施行が予定されている労働基準法大改正に備え、企業としても早めに社内規程や人事制度の見直し準備を進めると良いでしょう。具体的な対応ポイントについて説明します。

⑴ 就業規則や三六協定の見直し

 勤務時間・休日・副業ルールなど複数の領域の改正となるため、就業規則は全面的に見直す必要が出てきます。例えば、「法定休日は日曜日とする」と明確に定めたり、休息時間の確保方法や副業・兼業の許可基準等の明確化、勤務時間外の連絡ルールを服務規律に反映するなど、該当する条項の改定が必要となる可能性が非常に高いと思われます。
 また、変形休日制を利用している企業では三六協定の見直しは必須となります。

⑵ 雇用契約書・業務委託契約書

 「労働者」の定義に関する見直しも議論されているため、契約内容が適切かどうか(労働者に該当するにもかかわらず業務委託契約を締結していないか)は再確認する必要があります。誤った契約形態はトラブルに繋がりやすいため、整備をしておくべきです。
 また、勤務時間や休日等について、雇用契約書の雛形を見直す必要もあります。

⑶ 従業員への周知

 法改正を反映した労働時間管理ルールの変更点を従業員に説明し、新たなルール遵守に向けて従業員の協力を得ることも不可欠となります。特に、シフト作成や有給休暇申請の承認を行っている管理職については、法改正に備えて労務マネジメントの教育を実施することも重要です。

⑷ 勤怠管理システムの導入・更新

 法改正により、勤務時間の厳格な管理が必要となるため、従来型の手作業やExcelシートで労務管理を行っている企業は、これを機に勤怠システムの導入を検討されることをお勧めします。すでにシステムを導入している企業も、勤務間インターバルや法定休日の設定、有給取得時の賃金計算方法の変更など、システム面のアップデートが必要になるため、注意が必要です。導入しているシステムは法改正に対応済みなのか、どのようなタイミングでどのようなアップデートを行う必要があるのか、確認をしておくべきでしょう。

⑸ 人件費への影響についてシミュレーション

 労働時間規制の強化により、自社の人件費がどの程度増えるのかという点を事前に把握しておくことも重要です。週44時間特例廃止による割増賃金増加、連続勤務上限・勤務間インターバル導入による人材不足への対応と、⑷の勤怠システム導入にともなう業務プロセス改善によるコスト削減効果を分析しておくと、採用計画や予算策定の精度を高められると思います。


 

 以上、今回は、現在議論されている労働基準法改正について説明しました。今回の大改正では、企業によって対応を要する論点や負担も大きい一方で、労働者にとっては安心して業務に集中し、力を発揮できる環境を整える契機となるともいわれています。結果、企業にとっては、生産性向上や人材定着にも繋がり、結果的に企業競争力を高めることにもつながります。
 現在も議論が続いているところですが、単なるコスト増と捉えるのではなく、組織の生産性向上や働きやすい環境づくりを進めるための機会としてとらえ、最新の動向を注視しつつ改正に向けて計画的に備えをしておくべきでしょう。
 ニューポート法律事務所では、最新の法改正の動向を踏まえながら、貴社に改善点や導入すべき制度についてご提案させていただきますので、お気軽にご相談ください。

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