今回は、契約条項の中で「裁判管轄」という規定にまつわるお話です。
「本契約に関する紛争については、宮崎地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
このような規定が契約書の最後の方に設けられているものが多いですが、「契約書って最初の方から大事なものが並んでいそうだから、これはたいして重要ではないだろう」とのイメージをお持ちの方や「裁判なんかになるはずないので、こんな規定は必要ないのではないか」と考えて削除したことがある方はいらっしゃいませんか。
実は、この規定は、リスク管理の観点からは必要不可欠なものです。
確かに、契約相手との間で生じたトラブルが訴訟まで発展した経験をお持ちの方はそれほどいらっしゃらないかもしれませんし、そもそもこれまで契約トラブルを体験したことがない方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、契約書を作成するというのは「まさかこんなことになるなんて」という事態に備えておくということですので、想定されるリスクにはあらかじめ備えておくことが重要です。
上記の規定は宮崎地方裁判所に訴訟を提起するとの内容になっています。
このような契約条項がない場合、法律で定められたルールに従って決めることになります。
それでは、ここでいう「法律で定められたルール」はどのようになっているのでしょうか。
これは、「民事訴訟法」という法律で定められています。例外はあるものの、原則として、訴訟を提起する先の裁判所は、被告の住所地(会社の場合は本店所在地)を管轄する裁判所であるとされています(民事訴訟法4条)。
「被告」というのは「訴えられた側」を指します。そのため、例えば、こちらが物品を契約相手の会社に販売したのに代金を支払ってくれない、という場合には、契約相手の本店所在地の裁判所に代金の支払いを求める訴訟を提起する必要があります。
現在はオンライン化が進んでいますが、原則としては裁判所に出廷することが原則となっていますので、この事例で、こちらが宮崎にいるのに相手の会社は東京にある、という場合には、裁判が開かれる1~2か月に一度程度、東京の裁判所まで出廷しなければならなくなります。そして、出廷にかかる費用は自己負担となります。
そのため、交通費等の金銭的負担はもちろん、出廷のための移動を含めた拘束時間を考えると、負担は大きくなります。
そこで、上記のような裁判管轄に関する契約条項を入れておくことで、自分にとって負担の少ない裁判所に訴訟を提起することができます。
リスク分析をする際には、小学校・中学校あたりで出てきた「期待値」を参考にするとよいかと思います。
これは、リスクが発生する確率×リスクが発生した場合の損害の大きさ、で求められるのですが、リスクが発生する確率が1%しかないとしても、発生した場合の損害(交通費・移動時間等)を考えると決して安く(低く)はないため、「このリスクに備えておく必要はない」という判断は合理的行動とはいえないはずです。
今回の記事では、裁判管轄条項をとりあげてみました。
他にも、この条項はどういう意味なのか?などの疑問点ありましたら、取り上げてみたいと思いますので、弊所までお知らせください。
また、契約書のレビューなどもお受けしておりますので、必要な案件ございましたら、ご遠慮なくご相談くださいませ。