一般の個人だけではなく、企業でもネット上での誹謗中傷に悩まされている方は少なくないのではないでしょうか。
「誹謗中傷」とは、根拠のない悪口を言いふらして、他人を傷つけることをいうとされています(大辞泉)。SNSが普及し、一般の人が情報を発信することが当たり前になった現代においては、その反動でネット上での誹謗中傷が深刻な社会問題になっており、このことは皆様もご承知のとおりです。芸能人がSNS上での誹謗中傷に耐えかねて自死を選んだことをきっかけに、それまで極めて軽い刑罰しか定められていなかった「侮辱罪」(刑法231条)が、「1年以下の懲役・禁錮又は30万円以下の罰金」まで引き上げられたことをご存知の方もいらっしゃると思います。
このような誹謗中傷は、個人だけではなく企業もターゲットにされます。例えば、X(旧Twitter)やInstagram、或いは匿名掲示板等での、特定の企業の商品やサービスに対する批評の範疇を超えた非難、経営者・従業員への人格攻撃等が典型例ですが、これ以外にも、Google、グルメサイト、或いは就活サイトでの口コミ機能を用いたパターンもあります。
誹謗中傷行為への対応方法は、大きく分けて2つあります。
その1つがサイト運営者への削除依頼、もう1つが法的手段です。
サイト運営者への削除依頼は、誹謗中傷をする書き込みが、そのサイトの利用規約や管理規則等に違反する場合に、その違反する書き込みをサイト運営者において削除するよう依頼する方法です。例えばX(旧Twitter)やGoogleでは、規則違反の書き込みを報告するための専用フォームが開設されており、このフォームを通じて誹謗中傷をする書き込みを削除してもらうことができます。
ただし、このような運営者への削除依頼は、問題のある書き込みであったとしても、削除の対象となるかどうかは運営者側が判断するので、削除依頼に必ず応じてもらえるわけではありません(特に外国資本のサイトは自社の基準を重視する傾向にあります。)。
尚、削除依頼が奏功して書き込みを削除してもらえた場合、その書き込みはそのサイトからは消えてなくなりますが、検索エンジンの検索結果に残った「キャッシュ」と呼ばれる閲覧履歴はしばらく時間が経過しないと消えません。すぐに消したい場合は、検索エンジン(GoogleやYahoo!)に対しても、キャッシュの削除要請をする必要があります。
誹謗中傷行為への対応方法のもう1つは、「発信者情報開示請求」と呼ばれる法的手続です。
発信者情報開示請求とは、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」、通称「プロバイダ責任制限法」に基づき、名誉毀損、プライバシー侵害、著作権侵害等(侵害情報)をする書き込みがある場合に、その書き込みがなされたサイト(コンテンツプロバイダ)や、侵害情報の書き込みをした者(発信者)が加入するインターネットサービスプロバイダ(経由プロバイダ)に対し、侵害情報の発信者を特定するに足る情報(氏名、住所等)の開示を求める手続で、これは裁判所に申立てをして行います。裁判所が要件を満たすと認めたときは、コンテンツプロバイダや経由プロバイダに対し、発信者に関する情報を開示するよう命じます。これによって判明した発信者に対し、誹謗中傷をする書き込みの削除や損害賠償を請求するのです。
ただし、この方法には一つ弱点があります。発信者が侵害情報を発信する際にコンテンツプロバイダのサーバにアクセスした日時等の情報(これを「ログ」といいます。)は、一定期間が経過するとコンテンツプロバイダのサーバから自動的に削除されてしまうことです。この期間が経過してしまうと、ログが削除され、発信者の特定ができなくなってしまいます。その他にも、裁判手続によらなければならないため、被害者が自力で開示まで持ち込むことは、なかなか難しいでしょう。
このように、誹謗中傷行為に対しては、有効な対策を実施することもできる場合がありますが、適時適切な手段を講じる必要があるため、専門家の関与が不可欠です。
弊所では、インターネット上での誹謗中傷行為への対応事例が多数ございますので、お悩みの方はお気軽にご相談下さい。