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連載企画「実践!業態別契約書」③業務委託契約書

 連載企画「実践!業態別契約書」の4回目は、再び業務委託契約書を取り上げます。前2回とは違い、IT系制作物以外の業務委託契約に関する契約書について解説してまいります。

1 業務委託契約とは(再掲)

 2025年9月12日投稿の「連載企画「実践!業態別契約書」②業務委託契約書(IT系制作物)-1」の内容とも重複しますが、改めて業務委託契約の概要について触れておきます。
 業務委託契約とは、「お金を払って何らかの業務をしてもらう」ことを内容とする契約です。受託した側(以下「受託者」といいます。)が受託する業務の内容によっては、請け負った仕事を完成する(モノを作るなど)ことを内容とする請負契約に近いものと、最善を尽くして仕事をすることを内容とする(準)委任契約に近いものに大別されます。前回までのテーマであったIT系制作物に関する業務委託契約は、その両方を組み合わせたようなものでした。ただ、委託の対象となる業務の内容によっては、請負契約と(準)委任契約のどちらに近いのかすら区別しにくいこともあります。
 業務委託契約のわかりやすい例は、ビルの清掃、機械の保守、物の輸送、イラストや動画などの制作、経営について第三者からアドバイスをもらうコンサルティングなどです。自社の商品を第三者に預けて販売してもらう「販売委託」、自社の商品やサービスのセールスをしてもらう「営業委託」、研究開発の委託などもあります。一口に「業務委託契約」といっても内容は様々で、委託の対象となる業務の数だけ種類があり、また同じ当事者(サービス提供者)であっても個別の契約ごとに内容が違うということも当然にありますので、「そもそもどんな業務を委託するのか」を正確に特定することが、何よりも重要です。

2 なぜ業務内容の特定が重要なのか

 業務内容の特定がなぜ重要なのか。それは、「受託者が何をしなければならないのか」を明確にすることが委託業務のスムーズな進行・完成に必要だからです。これはオペレーションの面でも重要ですが、それだけではなく、委託業務がスムーズに進行しなかったり頓挫したりなどした場合に、何をもって受託者の契約違反とするのか、その線引きをすることになるのです。
 受託者が契約違反(債務不履行)となるのは、「契約上・法律上しなければならないことと定められた業務」を完遂しなかったときです。例えば物の売買契約であれば、売主の義務は対象の物の所有権を移転し引き渡すことなど比較的単純ですし(特殊な物や不動産の売買等、もっと複雑なこともあります。)、このため契約違反の事実も「目的物を引き渡さない」「目的物に不具合がある」などわかりやすいものが多いです。しかし、業務委託契約の場合、受託者が何をしなければならないかは契約書等で明確化しなければどこにも書いてありませんので、契約を履行したと言えるかどうかの判断基準が明確でなく、委託者の視点から受託者が契約違反をしたように映っても、それがなぜ契約違反なのかの説明に困難が伴います。受託者の側からも同様です。
 また、売買契約や賃貸借契約など民法が定める典型的な契約では、民法が大まかな紛争解決基準を示していますから、契約書がなくても当事者間の権利義務の内容はある程度特定されますし、不十分ながらも紛争解決の基準はあります(それでも不十分であることには変わりがないので、契約書は作成すべきです。)。しかし、業務委託契約は典型契約と違いお仕着せのルールすらありませんから、契約書で決めなければ当事者間の権利義務の内容も紛争解決の基準も存在しないということになります。
 契約違反になるのかならないのか、その明確な基準があるとないとでは、争点の数=解決までの工数が全く異なってきます。工数が違えば解決までに必要な時間やコストも変わります。業務内容を明確に特定することは、オペレーションの面で必要であるのは当然のことながら、それだけではなく、回り回って紛争予防と発生時のコスト増加を回避するという意味があるのです。

3 業務委託契約書における重要な規定

 以下、業務委託契約書で特に重要度が高い規定について解説していきます。

(1) 業務内容の特定

 業務内容を明確に特定することが必要であることは既に述べたとおりです。特定の方法は、契約書の本文中に明記することでも、契約書の「別紙」にしても、別途協議の上仕様書を定めることでも、或いは個別契約で定めるというものでも、その契約に適した方法であれば構いません。ここで決められた特定方法で、業務の内容を明確に特定することが重要です。

(2) 委託料

 繰り返しとなりますが、業務委託契約は良くも悪くも融通無碍な契約です。契約書で特定しなければ業務内容がわからないのと同じように、委託する側が支払うべきお金が何の対価で金額がいくらなのかも、契約書で特定しなければ誰にもわからないという事態が生じ得ます。
 こちらも、契約書で金額を明示する方法、金額ではなく算定方法を記載する方法、個別契約において定める方法などがあり、個々の契約毎に適した方法を用いることになりますが、紛争を予防するためには、一見して明らかになるような金額又は算定方法の規定を設ける必要があります。

(3) 再委託

 業務委託契約では、受託者が全ての業務を自ら遂行するとは限らず、業務の全部又は一部を再委託(外注)することを前提としていることが多々あります。例えば建築請負契約などは、ハウスメーカーが元請となり、大工仕事、電気工事、配管工事、造園工事など分野ごとに下請に出すのがむしろ通常です。
 ただ、再委託をすべきかそうでないかも、委託する業務の内容によります。例えば、荷物を宛先に運ぶことだけが目的の運送契約であれば別の運送業者に再委託しても大きな問題はありません。しかし、その運送業者独自のノウハウに着目して委託した場合だとどうでしょうか。勝手に再委託されて、どこの誰とも知らない業者が運ぶようなことがあれば、荷主としては大事な荷物が破損してしまうのではないか、と心配になってしまいます。
 このように、業務委託契約では、再委託を緩く認めた方が良いタイプの業務なのか、再委託を認めるべきではない契約なのかによって、再委託に関する要件を厳しくしたり緩くしたりという調節をします。
 また、再委託を認める建付けにする場合、秘密情報と個人情報の取扱に関する規定も設けると良いでしょう。

(4) 監査・報告

 業務委託契約の中には、研究開発、コンテンツ制作、あるいはマーケティング等の調査研究等、委託業務の遂行過程で、業務が明後日の方向に行ってしまっていないか、委託者がチェックした方が良いものがあります。このような業務では、受託者に対し、定期的に、又は委託者が要請したときに一定の報告をする義務を課す規定を置くことがあります。

(5) 完成/納品

 上記(1)とも関連しますが、業務委託契約の中には成果物や調査報告書等の納品をもって履行完了となるものがあります。そのようなタイプの業務の場合は、契約書において何をもって完成とするか、どのような方法で納品するかを明確化する必要があります。

(6) 知的財産の取扱

 コンテンツ制作や研究開発では、委託業務の遂行過程で著作物や発明、考案等がなされ、知的財産権の帰属が問題となることがあります。そのようなタイプの業務の場合、発生した知的財産権が誰にどのような割合で帰属するのか、利用権・実施権等の取扱がどうなるのかを、契約書で予め取り決めておくことが極めて重要です。

4 その他注意点

 業務委託契約においては、契約書の文言のほかにも、注意すべきことがいくつかあります。その中でも特に重要度が高いのが、①フリーランス法との適合性、②下請法との適合性です。
 フリーランス法については弊所ブログの2024年10月3日から4回にわたる投稿「フリーランス新法」を、下請法については2023年8月23日の投稿「知らなきゃマズい?下請法の話」を、それぞれご参照ください。
 また、業務委託の形式を採っているものの、実態は雇用契約であったり、労働者派遣であったりするようなこともあります。特に後者を「偽装請負」と呼びます。労働関係法規や労働者派遣法は、契約書のタイトルではなく実態を重視しますので、業務委託契約となっているから安心、というわけではありません。行政処分や刑事罰の対象となることもありますので、これらに限らず規制法令には注意が必要です。

 業務委託契約書は、出来合いの雛形がそもそも存在せず、オーダーメイドで作成するほかありません。少しでも気になるところがあれば、弁護士にご相談ください。

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