連載企画「実践!業態別契約書」の2回目は、IT系の制作物に関する業務委託契約書を取り上げます。システムの新規開発やパッケージシステムの導入といった大掛かりなものから、ホームページなどWeb制作のような身近なものまで、現代の企業活動とIT系制作物は切っても切り離せません。本稿では、このような制作を委託する場合、あるいは事業者として受託する場合の契約書について、今回と次回の2回に分けて解説していきます。
1 そもそも「業務委託契約」とは
例えば売買契約は「お金を払ってモノの所有権を得る」という契約です。賃貸借契約は「お金を払ってモノを使わせてもらう」契約、請負契約は「お金を払って仕事を完成(モノを作るなど)してもらう」という契約と定義できます。では、業務委託契約とは何でしょうか。
業務委託契約を一言でいうなら、「お金を払って何らかの業務をしてもらう」という契約です。そうすると請負契約と近い感じがしますが、請負契約は「完成させること」が主眼で、完成させなければ契約を完全に履行したことにはなりません。これと相対立する概念が「委任契約」と「準委任契約」です(以下、これらを併せて「(準)委任契約」ということがあります。)。(準)委任契約は、請負契約と違って、仕事を完成させること自体が目的ではなく、結果がどうあれ仕事をすること自体が目的となります。
委任契約の例の一つが弁護士の業務です。弁護士が依頼者から裁判の業務を引き受けた場合、裁判に勝つことそれ自体を目的とすることはできません。勝てるか勝てないかは、裁判所の判決を見るまでわからず、勝つことを保証することはできないからです。ここでの弁護士の任務は、裁判に勝つように最大限努力することです。契約の目的が「裁判に勝つこと」か、「裁判に勝つよう最大限努力すること」かの違いは、裁判に負けたときの責任にあります。前者の場合、裁判に負けたら弁護士は契約違反となり債務不履行責任を負います。後者の場合、裁判に負けたときに契約違反となるのではなく、手抜きやミスが原因で負けてしまったときに契約違反となる可能性が生じます(※なお、弁護士が勝訴を保証することは、日弁連の規則で禁止されています。)。
業務委託契約は、相手に何らかの業務をしてもらう契約ですので、その業務が仕事の完成を目的としているのか、仕事をすることそれ自体を目的としているのかによって、請負契約に近くなることも、(準)委任契約に近くなることもあります。このため、業務委託契約書では、その契約が何を目的としているのか、委託する側は何をしてほしいのかを正確に特定することが極めて重要です。業務委託契約書を作るに当たっては、これが全てのスタートとなります。
IT系制作物に関する契約は、委託の内容や履行のフェーズによって請負契約に相当する部分と(準)委任契約に相当する部分とが絡み合うことが多くあります。
2 IT系制作物の業務委託契約
IT系制作物に関する業務委託契約の主立ったものとしては、①独自のシステムやアプリの開発、②パッケージ製品として販売されているシステムやアプリの導入、③Web制作があります(分類していけば他にいくらでも挙げられます。)。
①独自のシステムやアプリの開発
既存のシステムやアプリでは自社のニーズに合わない場面などで、自社の実情に合わせてシステムやアプリの開発を委託することがあります。これは言わばゼロからのスタートになるので、「そもそもどんなものを作りたいのか」を委託側が定義しなければなりません。とはいえ「こんなことができたらいいな」と「技術的に可能かどうか」は別問題なので、技術面の専門である受託者(システム開発事業者)が委託者(ユーザー)のニーズを言語化する作業が必要となります。
②パッケージ製品の導入
グループウェア、販売管理システム、電子カルテといった汎用性の高いソフトウェアを企業が導入する場面は多々あります。とはいえ、それぞれの企業や事業所によって細かなニーズは異なりますから、文書作成ソフトや表計算ソフトのように「あとは使う側で頑張れ!」というわけにはいきません。これらパッケージ製品は、ライセンスを購入するだけではなく、その企業が使いやすいように設定をカスタマイズしたり、社員が使えるようにすることが必要です。このため、受託者は委託者(ユーザー)側のニーズを引き出し、それをパッケージ製品の機能のどこを使ってどのようにカスタマイズすれば解決できるかを考え、実装する作業をします。
③Web制作
わかりやすい例が企業のホームページの作成や、ECサイトの構築です。システムの開発などと比べると、委託者(ユーザー)側としても「こんなものを作りたい」というイメージはしやすいですが、例えば商品の販売を増やしたい、社員の募集に繋げたい、といった根っこのニーズとユーザーのイメージが噛み合っていないということは少なくありません。Web制作は広告戦略やマーケティングに親和的であり、Web制作事業者は広告やマーケティングの観点から委託者の本当のニーズを探り、それに合った見せ方や機能を実装するという作業をしていきます。
このように、IT系制作物の委託契約の場面では、単に「頼まれたものを作る」のではなく、「何を作るのか」「どんなものを作りたいのか」の地点から受託者が関わっていく必要があることが多くあります。
そして、このような「どんなものを作るのか」を定義して初めて、成果物の仕様を決めることができます。仕様を決めて初めて、「作る」という作業をすることができるに至ります。
このようなコンサルティングに近い業務は、上記1の「準委任契約」に当たります。例えば住宅などの建物を建築する場合に建築士が設計図面を作成する業務をイメージしていただくと良いかもしれません。
IT系制作物の業務委託契約は、濃淡はあれど、準委任契約と請負契約の複合的な契約となるのです。
次回は、IT系制作物の典型的な契約の条項について、委託者・受託者それぞれが注意すべき点を解説してまいります。








