今回は、昨年から続いている労務管理についての連載企画第6回目として、ハラスメント問題と企業責任と対応について説明します。
「ハラスメント」とは、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりする様々な行為の総称です。パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティ・パタニティハラスメントのいわゆる「三大ハラスメント」だけでなく、ケアハラスメント、モラルハラスメント、アルコールハラスメント、スメルハラスメント、カスタマーハラスメント等、さまざまなハラスメント行為が問題視され、様々なニュースも流れています。私も知りませんでしたが、その他にも、エンジョイハラスメント(楽しさを押し付けること)、マッチングハラスメント(婚活アプリの利用者に対する嫌がらせ)というものも、あるようです。
これらのハラスメントの内、現在、法令や国の指針によって定義されているのは「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」「マタニティ・パタニティハラスメント」「ケアハラスメント」のみであり、これらは特に深刻なハラスメントとして企業には一定の防止措置を実施することが義務付けられています。その他は社会情勢から生まれたもので、特定の事柄に関連したいじめや嫌がらせが、分かりやすく名称化されたものです。
パワーハラスメントについては、過去のブログ(パワハラの定義の再確認、パワーハラスメント発生防止のためにどんな対策をしていますか?)でも説明していますので、今回は、セクシュアルハラスメント及び職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタニティ・パタニティハラスメント、ケアハラスメント)について説明していきたいと思います。
1 セクシュアルハラスメント
⑴ セクシュアルハラスメントとは何か
男女雇用機会均等法11条では、セクシュアルハラスメントについて
① 対価型:労働者の対応により、当該労働者が労働条件について不利益を受けること
② 環境型:性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること
の2つがあると定めています。
①の例としては、「上司が部下に対して、昇進したければ性交渉に応じるように求める」、「部下が求めを拒否したことを理由に降格させる」等、優遇の対価として性的な言動を要求したり、労働者の対応を理由に解雇・降格・減給にするなどの不利益を与えるものです。
②の例としては、「職場の休憩時間中に性的な内容の会話をする」、「懇親会のときの御酌を強要する」等の職場内での性的な言動を問題にするものです。
⑵ 違法性の判断基準
冒頭で、「ハラスメント」とは、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりする様々な行為であると説明しましたが、被害者が不快に思えば何でもセクシュアルハラスメントとして違法になるというものではありません。①対価型がセクシュアルハラスメントに該当するということは明らかな場合が多いですが、②環境型については、違法性の判断に悩む場合も珍しくありません。
裁判例では、違法性の判断基準に関しては、「被害者の主観的な感情を基準に判断されるものではなく、両当事者の職務上の地位や関係、行為の場所、時間、態様、被害者の対応等の諸般の事情を考慮し、その行為が社会通念上許容される限度を超え、あるいは社会的相当性を超えると判断されたときに不法行為が成立する」とされていますが、事案ごとに具体的な事情を考慮し判断していくほかない、ということになります。
2025年1月8日に、元自衛官が同僚からの性被害を訴えた事案で、国との和解が成立する見通しになったというニュースが流れました(【独自】五ノ井さん訴訟、和解成立へ 自衛隊性被害、国と元隊員)。報道されているところによると、複数の加害者から身体を触る行為や頬へのキス、陰部を触らされる等の被害を受けたとされています。具体的な和解内容は明らかではありませんが、報道内容が全て事実であるとすれば、男女差のある職場で、複数の加害者が性的な言動に及んだものは非常に悪質であり、判決となった場合には相当程度高額な賠償金の支払義務が認められた可能性があったと思います。
⑶ 企業側の義務
セクシュアルハラスメントを防止するため、企業が雇用管理上講じる必要があるものとして、厚生労働省は、
- 事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること
- 相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
- 相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること
- 相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
- 業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること
を指針として示しています(職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント))。
また、近年問題となっていた求職者に対するセクシュアルハラスメントの対策として、令和7年6月11日に公布された労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)により、求職者へのセクシュアルハラスメントの防止に関しても、企業は雇用管理上必要な措置が義務付けられることになりました(令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について)。この法改正は、令和8年中に施行予定であり、今後、厚生労働省から指針が示される予定ですので、注視しなければなりません。
2 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
⑴ マタニティ・パタニティハラスメントとは何か
法令や国の指針では、マタニティ・パタニティハラスメント、ケアハラスメントをまとめて「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼んでいます。
マタニティハラスメントとは、会社が働く女性の妊娠や出産を理由に解雇等の不利益な措置を行ったり、同僚や上司が精神的・肉体的な嫌がらせをすることです。近年は、父親が育児休業制度等を利用することに対する嫌がらせが社会的に注目され、男性の育児に対して行われるハラスメントがパタニティハラスメントという造語で説明されるようになりました。
このハラスメントには、
①制度等の利用へのハラスメント
②状態へのハラスメント
の2つがあるとされています。
①の例としては、「育休を取得するなら辞めてももらう」「定時に帰られると迷惑」と発言する等、妊娠・出産・育児の際に利用できる制度を利用したことをきっかけとする嫌がらせです。
②の例としては、「つわりで休むくらいなら辞めろ」「あなたが妊娠したせいで仕事が増えた」と発言する等、妊娠・出産自体や体調によって就業制限や業務の変更を受けたことなどの状態に関する嫌がらせです。
法令上の規制としては、男女雇用機会均等法がマタニティハラスメントを、育児介護休業法がマタニティハラスメントとパタニティハラスメントの双方を対象としていることになります。
⑵ ケアハラスメントとは何か
ケアハラスメントとは、会社が働きながら介護をしている従業員に対し、解雇等の不利益な措置を行ったり、同僚や上司が精神的・肉体的な嫌がらせをすることです。
このハラスメントはまだ認知度が低いことに加え、介護自体がいつまで続くか分からず、業務の見通しが立てづらいことが、ケアハラスメントを引き起こす原因となってしまっています。
⑶ 違法性の判断基準や企業側の義務
どのような場合に違法だと判断されるかの基準及び企業が行うべき措置は、1のセクシュアルハラスメントと変わりません。
営業所の所長が、妊娠中の女性労働者から軽易な労務への転換を求められたにもかかわらず転換せず、時間給の原告の勤務時間を一方的に圧縮したり、「制服も入らんような状態でどうやって働く?」、「妊婦として扱うつもりない。仕事する人としてちゃんとしていない人に仕事はない」等の発言がハラスメントに当たると主張された事案について、所長の発言自体に嫌がらせの目的があったとまでは言えないとしましたが、「相当性を欠き、社会通念上許容される範囲を超えたものであって、妊産婦労働者の人格権を侵害するものと判示したうえで、会社が、職員の面談又は妊娠の報告後、早期に業務軽減に対応しなかったことは、従業員の職場環境を整え、妊婦であった職員の健康に配慮する義務又は労働契約上の就業環境整備義務に違反した」として慰謝料35万円が認容されています。
そのほかにも、妊娠時に軽易な業務への転換を行った後、復職した後も降格されたままになったことについて、降格処分を違法とし、慰謝料約175万円が認容されています。
3 ハラスメント事案発生後の対応
⑴ まずは事実関係の調査
上記記載のように、企業には事前の予防・相談体制を構築し、良好な職場環境で労働者が就業できるよう配慮すべき義務があります。では、様々な対策を構築していたとしても、実際にハラスメント事案が発生してしまった場合は、どう対応すべきでしょうか。
まずは、訴えがあったことのみを以ってハラスメントだと決めつけず、事実関係を正確に把握するために、当事者からの聞き取り調査が必要不可欠です。この際に注意すべき点が、当事者のプライバシーに配慮し、二次被害・二次加害が発生しないようすることです。
ハラスメント被害者は、周りが思う以上に心に深刻な傷を抱えていることもあります。申告者に落ち度があるような言動は決してしないように注意しなければなりません。また、行為者側から聞き取りをする際には、必ず申告者から承諾を取った上で行うようにしましょう。
⑵ 加害者への適切な措置
まずは、申告者から隔離し、お互いが接触しない環境を作ることが重要です。席や部署の移動、在宅ワークへの切り替え等、物理的に申告者と距離を取れるようにすべきです。
加害内容に応じた処分として、懲戒解雇・配置転換・減給・戒告等のいずれの処分を下すべきかを検討します。重過ぎる処分は労働契約法15条により無効となるため、注意が必要です。
⑶ 再発防止策の策定・実行
ハラスメントの再発防止には、定期的な面談やハラスメント研修の実施が効果的です。実際、ハラスメントの事案を担当すると、加害者に明確な加害意思があることはそれほど多くありません。加害者は、無意識のうちにハラスメントを繰り返しているということも往々にあります。
そのため、従業員に正しいハラスメントの知識を身に着けさせるべきです。定期的な面談やハラスメント研修を受けさせ、従業員の意識を高めて行くことが重要です。
以上、今回は、セクシュアルハラスメントと職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて説明しました。ハラスメント対策に関しては、国からも次々と指針が示されているとおり、非常に厳しい制度設計が求められています。きちんとした防止策を講じ、いざ事案が発生した時には適切な対応を取らなければ、企業が多額の賠償義務を負うことになる可能性もあります。ハラスメント対策を怠ったことが訴訟等を通じて広く知られることになれば、企業イメージが失墜する事にもなりかねません。
ニューポート法律事務所では、最新の法改正や近時の裁判例等を踏まえながら、貴社に改善点や事案の対応についてご提案させていただきます。また申告者や加害者への聞き取り調査を担当することもできますので、お気軽にご相談ください。





