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連載企画「実践!業態別契約書」④代理店契約書

 連載企画「実践!業態別契約書」の5回目は、代理店契約書がテーマです。
 「代理店契約」とは何か?契約の締結においてどのようなことに注意すべきかについて、解説します。

1 代理店あれこれ

 「代理店」といえば、広告代理店、保険代理店、販売代理店などが典型例といえるでしょう。では、そもそも「代理店」とは何でしょうか。これらの業態から考察していきます。
 広告代理店の基本的な業態は、商品やサービスの広告をしたい事業者(広告主)に代わって商品やサービスに関する広告戦略の立案や広告物の制作をしたり、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等広告枠を持つメディアと交渉をしたりすることです(総合広告代理店の場合)。メディア側の広告枠をメディア側に代わって販売するという側面もあります。
 保険代理店は、生命保険会社や損害保険会社から委託を受けて、需要者(保険契約者)と保険会社が保険契約を締結する際の代理や取次をし、保険会社から手数料を得るという業態であり、保険代理店において実際に契約に関与する「保険募集人」は、保険業法の規定に基づいて内閣総理大臣の登録を受けなければなりません。保険代理店は、本来の立ち位置は保険会社の代わりに保険を販売する立場ですが、現実には、保険契約者のニーズに沿って適切な保険商品に関する助言をするなどのコンサルティング業の側面も大きいと言えます。
 販売代理店は、例えば機械などのメーカーが製造した製品を、需要者に対して販売するという業態です。メーカーの営業を代理するような立ち位置になります。製品を販売してメーカーから手数料を受領する形態や、メーカーから製品を仕入れてこれを需要者に販売し、差益を得る形態などがあります。
 どれも「代理店」の名を冠してはいますが、それぞれビジネスモデルや業務内容は大きく異なります。

2 そもそも「代理」とは

 では、「代理」とは何でしょうか。
 代理の概念は民法に規定があり、以下のように規定されています。

 第九十九条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
 2 略

 代理行為のわかりやすい典型例は、親が子どものために子ども名義の預金口座を開設する行為です。金融機関での預金口座の開設は、金融機関との間で契約をすることによって可能になりますが、子ども自身の名義で開設する際は親(親権者)が代わりにします。その場合、金融機関との関係で預金の持主となるのは子どもですが、実際に契約をするのは親になるので、契約(意思表示)をする人と契約に基づく権利義務が帰属する人が異なるというギャップが生じます。これを可能にする概念が「代理」です。「本人以外の誰かがした契約の効力を本人に帰属させるための仕組み」と言い換えてもよいでしょう。
 私達弁護士も、この「代理」という概念に基づいて日々業務に当たっています。例えば、交通事故の被害に遭った方から、加害者に対する損害賠償請求の依頼を受けたとします。弁護士は、様々な資料から依頼者に発生した損害の額を算定し、加害者本人や加害者が加入する保険会社、あるいは加害者が依頼した代理人と交渉して、最終的に合意が取れたときに示談書を交わします。通常、この示談書には、「事故当事者●●代理人 弁護士 ××××」と記名し、弁護士の印鑑で押印します。そして、この示談によって支払われるお金は、依頼者(被害者)ご本人のものとなります。
 当たり前のことのように聞こえますが、示談書に署名(記名)押印をしているのは弁護士なのに、依頼者ご本人に支払われるお金の額が示談書記載の金額に限定されるのは、弁護士が依頼者ご本人から委任状をいただき、代理権を授与されているからです。

3 代理店は何を代理するのか

 上記要約すると、代理とは、「代理人が『●●代理人××』の名義で、本人●●のために契約をし、その効果が本人●●に帰属する」という概念です。
 そこで現れる疑問点は、代理店とは何を代理するのか?ということです。

 結論めいたことを言うならば、少なくとも広告代理店、保険代理店、販売代理店が、民法が定めるところの「代理」をすることは稀です。
 例えば広告代理店が広告主に代わって広告の企画立案や制作を行う場合でも、メディアと広告契約をするのは広告主であって広告代理店ではなく、広告代理店の立ち位置はメディアと広告主の仲介となります。これは法的には「仲立ち」と位置付けられます。また、企画立案や広告制作は広告代理店と広告主との間で完結する業務であり、広告の内容を決めるに当たってメディア側との調整も必要ではありましょうが、これも広告代理店がメディア側との間で直接に契約をするものではありません。
 保険代理店の場合は、保険契約の当事者は保険会社と保険契約者であり、代理店あるいは募集人は保険契約の契約書には当事者としては出てきません。募集人として保険証券等に記載されることはありますが、それは保険契約の当事者となるわけではありません。保険代理店の業務も「仲立ち」と位置付けられ、保険代理店は保険会社からこの「仲立ち」の業務への対価として手数料が支払われることになります。
 販売代理店では、メーカーが用意し、予めメーカーの押印がなされている契約書のフォーマットを使って顧客と契約するような契約形態の場合は、保険代理店と同じく「仲立ち」と位置付けられます。メーカーから製品を仕入れて最終需要者に販売する形態の販売代理店の場合、その実質は卸売又は小売業であり、メーカーとの契約は「継続的売買取引」に近いものとなります。
 このように、「代理店契約」に基づいて日々業務に当たる業態でも、本来の意味での「代理」をしているとは限らないのです。

4 では代理店契約とは何か

 前置きが長くなりましたが、結局何が言いたいのかというと、「代理店契約」あるいは「代理店」と名乗ることを内容とする契約は必ずしも一義的なものではなく、業務の内容によって実態が変わってくるということです。
 つまり、「代理店契約」というタイトルだけで契約当事者間の権利義務や発生し得るリスクを特定することはできず、そのビジネスモデルごとに、契約書や契約書に基づいて作成する仕様書等において業務内容を特定した上、支払われる費用が何の対価であるのかなどを明らかにするという作業が必要不可欠になるということです。業務委託契約の回でも似たような記述をしていますが、それもそのはず、広告代理店と広告主との契約や、保険代理店と保険会社との契約の実質は、代理店に対し広告の企画立案や保険商品の販売を委託し、その業務内容に応じて手数料を払うという内容の業務委託契約であるといえます。
 したがって、代理店契約でも、業務内容の特定や、委託料の算定方法といった、業務委託契約で注意すべき事項がおおむねそのまま当てはまります。なお、代理店側で「●●代理店」という表示や、保険会社・メーカー等委託側の社名・ロゴマーク等を使用してよいかどうかは重要な要素ですので、使用の可否は勿論のこと、使用してよい場合の使用の条件等は、契約書できちんと定めておくべきです。

 ただし、「販売代理店」の形態の場合、少々事情が異なります。
 販売代理店という名称は、特定のメーカーの製品を取り扱う卸売業又は小売業が、メーカーとの契約の中で「●●代理店」と名乗ることを許諾されて用いることが多いです。メーカーによっては「特約店」「取扱店」などと称させることもあります。
 この販売代理店の形態が「仲立ち」と「継続的売買取引」の大きく2つに分類されることは既出のとおりですが、代理店側は、自社がメーカーとの間で締結しようとしている契約がこのどちらに当たるのかを明確に区別しなければなりません。
 これらの形態の間では、主に在庫商品が誰のものになるのかと、売掛リスクを誰が負担するのか、この2点で大きく違いがあります。仲立ち形態の場合、売買契約の直接の当事者はメーカーと最終需要者で、代理店は関与しません。この場合、製品の所有権はメーカーから最終需要者に直接移転し、代金も最終需要者からメーカーに直接支払われます(※代理店が代わりに集金をしたり振込先となったりすることはありますが、そのお金が誰のものかというとメーカーのものになる、という意味です。)。在庫商品は最後までメーカーの所有であり、売れ残りのリスクはメーカーが負担します。
 他方、継続的売買取引の形態の場合、代理店はメーカーから製品を仕入れる立場となりますので、製品の所有権はメーカーから代理店に移転し、代理店は仕入れ代金をメーカーに支払います。そして、代理店が最終需要者に製品を販売することで、製品の所有権が代理店から最終需要者に移転し、代金が代理店に入ります。代理店がメーカーから仕入れた製品が売れ残ったら、メーカーが返品を許容する場合を除き、その売れ残りのリスクは代理店が負担し、最終需要者が売掛金を払わない場合の焦げ付きリスクも代理店の負担となります。

 このように、代理店とメーカーの契約関係によって、代理店の負うべきリスクが大きく変わってきます。また、上記2つの形態はあくまで典型例であり、契約が内包するリスクは個々の契約毎に異なりますので、契約締結の際には十分に契約内容を確認し、リスク分析をすることが重要です。

 今回ご紹介した典型例以外にも、代理店契約というタイトルの契約は数多あります。代理店契約は業務内容次第で千差万別であり、一つ一つリスクの内容もオペレーションも違ってきます。商談で聞いていた話と契約書では内容が違う、ということもままあります。代理店契約は企業の根幹に関わる契約であることが多いので、多少ご面倒でも、弁護士にレビューを求めていただくことが望ましいと言えます。

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