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取引先が倒産!売掛金はどうなる?――破産手続で知っておきたいこと

・取引先から突然、支払いができないと言われた
・取引先が破産したが、売掛金がまだ残っている
・請求書を送っているのに、破産手続が始まったらどうなるのか
 企業を経営していると、取引先の倒産は決して他人事ではありません。特に中小企業の場合、1社の取引先に対する売掛金が大きいと、自社の資金繰りにも影響する可能性があります。
 取引先が破産した場合、原則として、通常の取引と同じように直接支払いを求め続けることはできません。では、売掛金を回収するために、どのような手続を取ればよいのでしょうか。
 今回は、取引先が破産した場合の売掛金の回収について、破産手続の仕組みと、債権者が確認しておきたいポイントを解説します。

1 破産すると、売掛金はどうなる?

 取引先が破産手続開始決定を受けた場合、破産手続開始前の原因に基づく売掛金は、原則として「破産債権」となります。
 そのため、債権者が通常の取引と同じように取引先へ直接支払いを求めて回収するのではなく、破産手続の中で債権の届出を行い、配当を受けるというのが基本的な仕組みです。
 破産手続では、破産管財人が破産会社の財産を調査・管理し、必要に応じて財産を換価して配当原資を確保します。そして、破産債権者については、法律上の優先順位に従って配当が行われます。同じ順位の破産債権については、原則として債権額に応じて按分されます。
 したがって、「1000万円の売掛金があるから1000万円回収できる」というわけではありません。

2 まず確認したいのは「破産手続開始決定が出たのか」

 取引先から、「弁護士に相談している」「破産する予定だ」「会社をたたむ」と言われただけの場合と、裁判所から破産手続開始決定が出た場合では状況が異なります。まだ破産手続開始決定が出ていないのであれば、通常の債権回収として、督促、内容証明、訴訟、仮差押えなどを検討できる場合があります。ただし、すでに資産がほとんどない場合には、訴訟をして判決を取得しても、実際の回収につながらないことがあります。
 一方、破産手続開始決定が出た後は、破産手続によらずに個別に回収することが原則としてできなくなります。そのため、取引先が「危ない」と感じた段階で、現在の売掛金の額、支払期日、担保や保証の有無などを確認しておくことが重要です。

3 破産直前に支払いを受けた場合――「否認権」に注意

 取引先の経営状態が悪化すると、「破産する前に、何とか自社の売掛金だけでも払ってもらいたい」と考えるのは自然なことです。
 しかし、破産直前に特定の債権者だけが支払いを受けることには注意が必要です。
 破産法160条から176条には「否認権」という制度があります。
 否認権とは、破産手続開始前に破産者が行った一定の行為について、破産管財人がその効力を否定し、流出した財産を破産財団に戻すための制度です。
 例えば、支払不能状態にある会社が、特定の取引先にだけ売掛金を全額支払った場合、他の債権者から見れば、その取引先だけが優先的に回収したことになります。そこで、破産法では、一定の要件の下で、このような債務の弁済を否認することが認められています。
 特に、支払停止後や破産手続開始の申立て後の弁済については、支払の時期や支払不能との関係、債権者側の認識等の一定の要件のもとで否認の対象となり得ます。また、それ以前であっても、破産債権者を害することを知って行った行為について否認される可能性があります。
 否認権が行使されると、破産管財人から、「受け取った金銭を破産財団に返還してください」と請求されることになります(破産法167条)。そのため、破産しそうな取引先から支払を受けた場合には、「破産前に急いで回収すれば安心」と考えるのではなく、支払いの時期や経緯を記録しておくことも重要です。

4 債権額に争いがある場合――破産債権の査定

 破産手続では、単に債権者が「1000万円あります」と届け出れば、その金額がそのまま認められるわけではありません。例えば、納品した商品に不具合があったので、代金を減額すべきだ、既に500万円は支払っている、契約違反による損害賠償請求権があるので、売掛金と相殺したいなど、破産管財人や他の破産債権者から異議が出ることがあります。
 この場合、破産債権の調査手続の中で、債権額や優先順位などが争われることになります。破産管財人が債権を認め、届出をした債権者から異議がなければ、その債権は確定します。一方、債権額などについて異議がある場合には、「破産債権査定申立て」を行い、裁判所に債権額等を判断してもらう手続があります。さらに、査定の決定に不服がある場合には、原則として「破産債権査定異議の訴え」を提起して、通常の民事訴訟によって争うことになります。
 既に破産手続開始前から売掛金について訴訟が行われていた場合には、その訴訟を破産手続との関係で受け継ぐことになります。したがって、取引先が破産した場合でも、既に裁判をしているから何もしなくてよいとは限りません。破産手続上の債権届出や調査手続との関係を確認する必要があります。

5 法人破産では、売掛金はどのくらい戻ってくる?

 売掛金を持っている会社にとって最も気になるのが、結局、何%くらい回収できるのか」という点でしょう。
 法人破産全体について「平均配当率は○%」と一律に示せる公的な統計はありません。法人だけに限定したものではありませんが、裁判所の司法統計(裁判所・司法統計年報)では、破産事件全体において、配当まで至らずに「異時廃止」で終了する事件が多数存在することが分かります。また、民間の倒産実務の解説では、通常の担保・優先権のない一般債権について、配当率は「0~5%程度」とされることが多いと説明されています。つまり、一般の売掛金については、「全額回収できることを当然の前提としてはいけない」というのが実務上重要なポイントです。
 もっとも、これはあくまで一般的な傾向であり、個々の破産事件によって大きく異なります。例えば、会社が所有している不動産を高額で売却できた場合や、破産管財人が売掛金・損害賠償請求権等を回収できた場合には、比較的高い配当率になることもあります。実際、株式会社レナウンの破産事件では、確定普通破産債権約73億6500万円に対し、最後配当を含めた配当率が63.3%になると報じられています(東京商工リサーチ「法人としての『レナウン』が消滅へ」)。反対に、負債が大きい一方で財産がほとんど残っていない場合には、配当率が極めて低くなることもあります。
 したがって、「破産したからもう全く回収できない」と決めつけるのも、「破産管財人がいるからある程度は戻ってくる」と考えるのも適切ではありません。破産財団にどのような財産があるのかを確認することが重要です。

6 担保や保証人がある場合はどうなる?

 売掛金について担保や保証人がある場合には、通常の一般破産債権とは回収方法が異なります。

① 抵当権がある場合

 例えば、取引先が所有する不動産について抵当権を設定している場合、その抵当権者は「別除権者」として、原則として破産手続によらずに抵当権を実行することができます。具体的には、抵当権を実行して競売により不動産を換価したり、破産管財人との協議により任意売却を行ったりして、その売却代金から優先的に回収します。
 不動産の売却代金が被担保債権の全額に足りなければ、回収できなかった残額については、原則として破産手続上の一般の破産債権として扱われることになります。したがって、抵当権がある場合でも「全額回収できる」とは限りません。

② 保証人がいる場合

 取引先の代表者や第三者が連帯保証人となっている場合には、主債務者である会社が破産しても、保証債務まで当然に消滅するわけではありません。そのため、保証契約の内容を確認した上で、保証人に対して支払いを請求することができます。
 特に中小企業では、代表者が会社の借入金や取引債務について個人保証をしているケースがあります。ただし、「代表者だから当然に保証人」というわけではありません。代表者個人が保証契約を締結しているのか、誰が保証人となっているのか、連帯保証なのか、保証の範囲はいくらなのかを契約書等で確認する必要があります。
 保証人から回収できた場合、その分について破産手続上の債権額を二重に回収できるわけではありませんので、破産手続との関係も整理する必要があります。

③ 譲渡担保がある場合

 売掛金や動産などについて譲渡担保が設定されている場合には、担保権の対象となっている財産を処分・回収することによって債権を回収することを検討します。例えば、特定の売掛金について譲渡担保が設定されている場合には、債務者である取引先から支払いを受けるなどして担保権を実行することになります。
 もっとも、譲渡担保は設定方法や対抗要件、担保目的財産の特定、第三債務者への通知・承諾の有無などによって具体的な取扱いが異なります。そのため、破産した取引先に対して譲渡担保を設定している場合には、契約書や担保設定の資料を確認した上で、破産管財人との調整を行うことが重要です。

④ 所有権留保がある場合

 例えば、「商品の代金が完済されるまで、商品の所有権は売主に留保する」という所有権留保の特約が契約書に定められている場合があります。この場合、売買契約の内容や代金の支払状況等によっては、売主が商品の所有権を保持しているため、破産法62条の「取戻権」を行使できる可能性があります。
 破産法上、破産手続の開始は、破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利に影響を及ぼしません。また、一定の場合には、買主がまだ代金を全額支払っておらず、商品が到達地で受け取られていない段階で破産手続が開始された場合について、売主による取戻しが明文で認められています。
 実務上、所有権留保がある場合には、売買契約書を確認する、所有権留保の対象商品を特定する、 未払い代金を確認する、破産管財人に所有権留保を主張する、商品の引渡しを受ける方法について管財人と協議するという流れで対応します。
 もっとも、商品が既に転売されている場合や、加工・混合されて特定できなくなっている場合などには、取戻しが難しくなることがあります。また、所有権留保の内容や対抗関係によって結論が変わるため、単に「契約書に所有権留保と書いてあるから必ず取り戻せる」と考えることはできません。

7「売掛金と買掛金を相殺したい」――相殺にも注意

 取引先が破産した場合、「こちらには1000万円の売掛金がある。一方で、こちらも取引先に300万円の買掛金を支払う予定だった。だから300万円を相殺して、700万円だけ破産手続に届け出ればよい」というケースがあります。
 破産法は、一定の場合に破産債権者による相殺を認めています。これは、取引関係にある当事者の公平を考慮した制度です。
 ただし、破産手続では相殺が無制限に認められるわけではありません。例えば、破産手続開始後に新たに破産財団に対する債務を負担した場合や、支払停止後など、相手方が経済的危機にあることを知った後に、相殺をする目的で新たに債務を負担した場合などには、相殺が禁止されることがあります。
 また、破産手続開始の申立て後に破産者に対する債務を負担した場合についても、一定の要件のもとで相殺が禁止されます。例えば、取引先の破産申立てを知った後に、あえて破産会社から債権を買い取って自社の債務と相殺する、といった行為には注意が必要です。
 そのため、お互いに債権と債務があるから、相殺すればよいと単純に判断するのではなく、売掛金がいつ発生したのか、買掛金がいつ発生したのか、破産手続開始の申立てはいつされたのか、支払停止があったのか、それを自社がいつ知ったのかなどを確認する必要があります。

8 取引先が「破産する」と言った段階でやっておきたいこと

 取引先の資金繰りが悪化していることを知ったら、破産手続開始決定を待っているだけではなく、早めに自社の債権を整理しておくことが重要です。

① 売掛金を一覧にする

 取引先ごとに、売掛金残高、支払期日、最終入金日、未払いとなっている請求書などを整理します。

② 契約書を確認する

 契約書に、所有権留保、担保、保証人、相殺、期限の利益喪失などの条項がないか確認します。

③ これ以上の取引をどうするか検討する

 既に支払いが滞っている取引先に、さらに商品を納品すれば、自社の債権がさらに増えることになります。新たな取引を継続するのか、前払いに切り替えるのか、取引を停止するのか、慎重な判断が必要です。

④ 相殺できる債権がないか確認する

 自社が取引先に対して売掛金を持っている一方で、自社側にも取引先に対する支払債務がある場合には、相殺が問題となることがあります。
 ただし、前述のとおり、破産手続では相殺についても一定の制限があります。

⑤ 担保・保証を確認する

 抵当権、譲渡担保、所有権留保、保証人などがないかを確認します。
 一般の破産債権として配当を待つよりも、別の回収手段を検討できる可能性があります。

9 「倒産の噂」の段階こそ早めの確認を

 取引先の倒産を知った場合、「破産手続が始まってから弁護士に相談すればよいとは限りません。
 むしろ、破産手続開始前の段階であれば、状況によっては取り得る手段が多い場合があります。例えば、債権の保全、担保の確認、相殺の可否、今後の取引停止、商品の引渡しの停止など、早い段階だからこそ検討できる事項があります。
 もちろん、取引先との関係や今後の取引継続もありますので、すべての場合に強硬な回収策を取るべきというわけではありません。重要なのは、自社がどれだけのリスクを負っているのかを早い段階で把握することです。

 取引先が破産した場合、未回収の売掛金が自動的に消滅するわけではありません。
 一方で、通常の取引のように直接回収できるわけでもありません。
 まず、破産手続開始決定が出ているのか、自社の売掛金はいくらなのか、債権届出が必要なのか、担保や保証人はあるのか、相殺できる債権はあるのか、所有権留保などの権利はないかを確認する必要があります。また、取引先の経営状態が悪化していることを知った段階で、早めに債権を整理し、今後の取引について検討することも重要です。
 売掛金は、会社の資金繰りに直結する重要な財産です。取引先が危ないかもしれないと感じた段階で、契約書や債権の状況を確認し、必要に応じて早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

 ニューポート法律事務所では、取引先の経営状況が悪化した場合の売掛金回収について、内容証明による請求、仮差押えなどの債権保全、担保・保証人の確認、相殺の検討、取引先の破産手続開始後の債権届出や破産管財人との協議など、状況に応じた対応を検討しています。
 「取引先が破産するかもしれない」「大きな売掛金が未回収になっている」など、今後の回収に不安がある場合には、早い段階でご相談ください。

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