本年5月に当ブログで、カスタマーハラスメント略して「カスハラ」に関する法改正が令和8年10月1日に予定されているとお話ししました(カスハラの【前編】【後編】はこちら)。
同じく令和8年10月1日から、企業による「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」、いわゆる「就活セクハラ」への防止措置も義務化されます。
これまでも、採用活動中の学生や求職者に対する不適切な言動は問題となっていました。しかし、今回の法改正によって、企業には、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止するための具体的な措置を講じることが法律上求められることになります。
採用活動を行う企業にとっては、採用担当者だけの問題ではありません。社長や役員、現場社員が面接や会社説明会、インターンシップ等に関わる場合にも注意が必要です。
今回は、10月1日から何が変わるのか、企業は何を準備すればよいのかについて解説します。
1「就活セクハラ」とは
今回の改正で対象となるのは、事業主が雇用する労働者による「性的な言動」により、求職者等による求職活動等が阻害されるものです。
対象となる「求職者等」には、企業の求人に応募する人だけでなく、採用活動に参加する人や、インターンシップ、教育実習、看護実習などの実習を受ける人も含まれます。また、「求職活動等」には、対面での面接だけではなく、オンライン面接やSNS等を利用したやり取りも含まれます。
例えば、採用担当者が応募者と個人的なSNSでやり取りをしたり、オンライン面接を行ったりする場合も、今回の規制の対象となり得ます。
実際に、厚労省の調査では、インターンシップ中に性的な冗談やからかい(38.2%)、食事やデートへの執拗な誘い(35.1%)、インターンシップ以外の場面(採用面接・説明会など)では、食事やデートへの執拗な誘い(33.2%)と高い割合で「就活セクハラ」を受けたという結果が明らかにされています(厚生労働省:令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書)。
2 どのような行為が問題となるか
厚生労働省が示している例として、インターンシップ中に労働者が求職者等に性的な冗談やからかいを意図的・継続的に行い、その結果、求職者が苦痛を感じて活動に集中できなくなるケースや、求職者が社員を訪問した際に性的な関係を求められ、その結果、求職活動への意欲が低下するケースなどが挙げられています(厚生労働省:リーフレット「2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」)。
もっとも、就活セクハラに該当するかどうかは、単に「性的な発言があったか」だけで決まるものではありません。具体的な言動の内容、行われた状況、相手との関係、求職者への影響などを踏まえて判断する必要があります。「冗談のつもりだった」、「本人は嫌がっていなかった」、「採用の場ではなく、食事の場だった」といった事情だけで問題にならないとは限りません。
特に採用活動では、企業側と求職者との間に立場の違いがあります。採用担当者からすれば何気ない誘いであっても、求職者からすれば「断ったら採用に影響するのではないか」と感じる可能性があります。
3 企業にはどのような措置が必要なのか
今回の改正では、企業に対して大きく分けて次のような措置が求められます。
① 方針を明確にして周知する
まず、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを行ってはならないことを会社として明確にし、労働者に周知・啓発する必要があります。また、違反した場合には厳正に対処すること、その対処の内容についても周知・啓発することが求められます。
採用担当者だけに口頭で注意するという方法ではなく、社内方針として明確にしておくことが重要です。
② 採用活動のルールを決める
今回の制度では、採用活動等に関するルールをあらかじめ明確にすることも求められています。
例えば、以下のようなルールが挙げられます。
☑ 面接は会社内の指定された場所で行うこと
☑ 面接担当者を複数名とすること
☑ 採用活動で使用するSNSを指定すること
☑ 応募者との私的なSNS交換を禁止すること
☑ 採用活動に関連する個人的な飲食を原則として行わないこと
特に中小企業では、「社長と応募者が直接LINEでやり取りする」「採用担当者が個人の携帯電話から連絡する」といった運用が行われることがあります。このような運用そのものが直ちに違法というわけではありませんが、トラブル防止の観点から、連絡手段や面接方法を会社として決めておくことが重要です。
③ 相談窓口を整備する
求職者等から相談を受ける窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知することも必要になります。「採用活動中のことだから、人事担当者に相談してください」というだけでは不十分な場合があります。
相談を受けた担当者が適切に対応できるよう、誰が相談を受け、誰が事実確認を行い、会社としてどのように対応するのかという流れも決めておく必要があります。
④ 問題が起きた場合に迅速に対応する
実際に相談があった場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません。事実が確認された場合には、被害を受けた人への配慮、行為者への適切な措置、再発防止策などを講じる必要があります。
また、相談者等のプライバシーを保護するための措置や、相談したこと等を理由として不利益な取扱いをしないことについても、あらかじめ定めて周知することが必要です。
4 採用担当者だけに任せてはいけない
就活セクハラ対策で特に注意したいのは、採用担当者だけにルールを周知して終わらせないことです。
例えば、社長が最終面接を担当する会社や、現場の社員がインターンシップの指導を担当する会社では、それらの人も対象となります。また、就活セクハラは「採用担当者が故意にセクハラをした」というケースだけではありません。採用活動後に個人的な連絡を続けたり、食事に誘ったりする中で問題が生じることも考えられます。そのため、採用活動に関わる社員全体に対して、具体的な事例を踏まえた研修を行うことが重要です。
5 10月1日までに会社が確認しておきたいこと
令和8年10月1日の施行を前に、企業として少なくとも次の点を確認しておくとよいでしょう。
☑ 就活セクハラを禁止する方針を定めているか
☑ 採用担当者・役員・面接担当者に周知しているか
☑ 面接やインターンシップの実施ルールが決まっているか
☑ 応募者との連絡方法を決めているか
☑ 相談窓口を設置しているか
☑ 相談を受けた場合の対応手順が決まっているか
☑ 相談者のプライバシーを守る仕組みがあるか
☑ 相談等を理由とする不利益取扱いをしないことを周知しているか
今回の改正は、「セクハラをしてはいけない」という従来から当然に求められていたことを確認するだけのものではありません。企業として、採用活動の場面についても、事前のルール作り、相談体制、問題発生後の対応まで含めた仕組みを整えることが求められます。
採用活動は、企業にとって人材を確保するための重要な活動です。
一方で、採用担当者と求職者との間には、採用する側とされる側という立場の違いがあります。そのため、企業側が「悪気はなかった」「親睦を深めるつもりだった」と考えていたとしても、相手にとって大きな負担となることがあります。
令和8年10月1日からは、求職者等に対するセクシュアルハラスメントについて、企業に防止措置を講じることが義務付けられます。採用担当者だけでなく、役員やインターンシップの指導担当者など、採用活動に関わる社員全体にルールを周知し、会社として適切な体制を整えておくことが重要です。
今回の法改正を機会に、採用活動における連絡方法や面接体制、相談窓口などを一度見直してみてはいかがでしょうか。








