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中小企業の災害対策(後編:災害時に直面しやすいトラブルにみる「平時」からの備え)

1 従業員を休業させたら、休業手当は必要か

 「工場は無事だったが、部品を仕入れている取引先が被災し、材料が入ってこないため従業員を休ませた」
 今やサプライチェーンは日本全国はもちろん、世界中が関わり得るので、災害で原材料が入らなくなるというのは十分有り得る話です。災害ではありませんが、実際に昨今ではロシア・ウクライナ戦争やイラン情勢によって物流が滞り、石油由来の工業製品などの生産計画に大きく影響が出ています。

 このような事態について、労働基準法26条は、使用者の責めに帰すべき事由により休業させた場合、平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならない旨を定めています。例えば工場が直接的に地震で被災し稼働不能な状態になった場合は、地震という不可抗力が原因ですので「使用者の責に帰すべき事由」には基本的に該当しませんが、自社の設備は無事で、取引先の被災という間接的な事情による休業である場合には、使用者側の事情による休業と判断され、休業手当の支払いが必要になることがあります。
 ここでいう「不可抗力」とは、事故の原因が事業の外部にあること(外部要因性)と、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること(回避不可能性)が要件となります。原材料や部品の供給途絶による休業でも、当該取引先に対する依存度や輸送経路の状況、代替品の調達可能性、災害発生からの期間等によっては「使用者の責に帰すべき事由」によるものではないと判断されることもありますが、休業手当の支払が必要になることの方が基本であると認識しておいた方が良いでしょう。
 少なくとも、「災害だから一律に払わなくてよい」というわけではない点に注意が必要です。

2 店舗が損壊した場合、家賃は払い続けなければならないか

 令和8年熊本地震に限らず、大規模な地震が発生すると、建物の倒壊や一部損壊などが多かれ少なかれ発生します。事務所や店舗、倉庫を自社所有ではなく賃借している場合、賃借している店舗や事務所の建物が地震で倒壊したり一部損壊したりした際、その後の賃料はどうなるのでしょうか。
 このような場合について、民法は以下のように定めています。

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)

第611条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

 賃借建物が一部損壊した場合で、これにより使用できなくなった部分の割合に応じて、賃料が減額されます(民法611条1項)。また、一部損壊でも、残る部分では使用に堪えないなどの事情があるときは、契約解除の対象になります(民法611条2項)。建物が全部滅失した場合には、賃貸借契約は当然に終了します(民法616条の2)。これらに類する規定が賃貸借契約書に設けられていることも多くありますが、もし契約書の規定がなかったとしても、民法の規定によって一部損壊や全部滅失の場合の契約関係が規律されることになります。
 但し、一部損壊の場合でも、何割が減額されるかはケースによるので、個別の判断が必要となります。「3割使えなくなったから3割減額だ!」などと勝手に判断して一方的に減額した賃料だけを支払うと、賃貸人が賃料不払いと受け取るおそれがありますので、対応は慎重にする必要があります。
 賃貸人との協議・交渉を円滑に行うために、被災時には速やかに被害状況を写真等で記録するなどして、客観的な資料を賃貸人と共有できる体制を整えておくことが有効です。

3 地震で納期に間に合わなかったら、取引先に損害賠償を払うのか

 モノの売買やサービスの提供において最も重要な要素の一つが「納期」です。納期を守ることはイコール信用でもあります。しかし、地震で工場や倉庫が被災したり、物流に障害が発生するなどした場合、納期どおりに納品できないことも当然起こり得ます。では、そのような場合にでも、損害賠償義務を負うのでしょうか。
 一般的に、契約当事者が納期の遅延のみならず契約に違反したことで、相手方に損害を及ぼした場合は、その損害を賠償をする義務を負います(債務不履行による損害賠償責任について、民法415条。)。ただし、このような損害賠償責任は、不可抗力など債務者に帰責事由がない場合には発生しないとされています。
 そして、地震や風水害といった自然災害は、不可抗力の典型です。人間の力が及ばないからです。大地震により工場が被災して製造ラインが停止した場合などは、損害賠償義務を負わないと考えられます。
 もっとも、自然災害が発生したとしても、別の輸送手段によって納品できる場合など、現実的な代替手段が存在するにもかかわらずそれを利用しなかった場合などには、帰責事由ありとされ債務不履行責任を負います。
 ここまでは契約書に明記していなくても、民法の一般的な解釈から導かれる結論ですが、特にモノやサービスを提供する側の場合、契約書を交わす際には不可抗力免責について明記しておくことをお勧めします。何をもって不可抗力事由とするかを契約書で予め明記しておけば、それが免責の対象になるか否かを巡る争いにはなりにくくなるからです。記憶に新しいのは新型コロナウイルス感染症です。政府による緊急事態宣言のため外出の自粛が求められたことで、経済活動にも大きく影響を及ぼしましたが、「外出禁止」ではなく「自粛要請」であったことから、自粛したことで製造や納品に影響が生じた場合に、これが不可抗力免責の対象になるか否かが問題となりました。平時のうちから、取引基本契約書の構成などを十分見直しておくと良いでしょう。

4 「備えていなかった」ことが、経営責任として問われることも

 やや視点を変えると、そもそも災害への備え(BCP:事業継続計画)を平時から講じていたかどうかは、取締役の善管注意義務との関係でも意味を持ちます。会社法上、取締役には会社の損害を防止するための体制を構築する義務があるとされており、想定される災害リスクへの備えを怠っていたこと自体が、事後的に経営責任として問われる可能性もあります。法的責任までには至らなくても、取締役としての適正性や能力に疑義を持たれかねません。
 逆に言えば、平時からの備えは、いざというときの対応をスムーズにするだけでなく、経営者自身を守ることにもつながります。
 ここまで見てきた個別の論点に加えて、平時の備えとして視野に入れたいのが、中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定制度です。防災・減災の取組をまとめた計画を策定して国の認定を受けることで、税制優遇(防災・減災設備の特別償却等)や低利融資、信用保証枠の拡大といったメリットを受けられます。計画の策定自体が、自社の災害リスクや対応手順を洗い出す良い機会にもなります。
 災害時のトラブルの多くは、「災害だから仕方がない」では片付けられず、契約書の内容や平時の備えの有無によって結論が変わってきます。今回ご紹介した論点も踏まえながら、一度、自社の契約書や就業規則、防災体制を見直してみてはいかがでしょうか。判断に迷う場面では、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

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