連載企画「実践!業態別契約書」の9回目のテーマは、前回に引き続きライセンス契約です。
前回はライセンスの対象となる知的財産権の概要について解説いたしました。今回は、これを踏まえて、ライセンス契約の上で注意すべき事項について、事例の多い特許権、著作権にフォーカスして解説してまいります。
1 特許権のライセンス契約
特許権のライセンス契約は、特許権によって保護された技術を使って、物を生産等することを特許権者に許諾してもらう際に締結します。特許技術を使って物を生産等することを、特許法分野の用語で「実施」といいます。
特許技術を使って物の生産等をする行為=実施は、特許権の中核となる権利ですので、特許権者の許諾なく第三者が業として実施をする行為は特許権侵害となり、差止めや損害賠償請求の対象となります。企業は研究開発のために莫大な費用と時間を投じますので、その投資を保護することが目的です。このような特許発明の実施を、使いたい側(これを「ライセンシー」と呼びます。)が特許権者(これを「ライセンサー」と呼びます。)に許諾してもらうのが特許のライセンスです。
特許発明を特定のライセンシー以外には許諾せず、一人のライセンシーが独占する形態の契約を「専用実施権設定契約」、特定のライセンシーが独占することなく、他のライセンシーへの許諾も有り得る形態の契約を「通常実施権設定契約」と呼んでいます。
以下、通常実施権設定契約を例に、注意すべき条項について解説します。
(1) ライセンスの対価に関する規定
上記のとおり、企業は莫大な投資をして研究開発をし、その一つの成果として特許を得るのですから、その技術を使わせてもらうためには対価が必要であることが原則です(トヨタのハイブリッド技術のように無償とする例もありますが、このような例は稀です。)。このようなライセンスに対する対価は、特許料、ライセンス料、或いはロイヤルティと呼ばれます(ここでは「ロイヤルティ」で統一します。)。
したがって、ライセンサー側もライセンシー側も、ロイヤルティについては、算出方法を含め明確に定めておく必要があります。
特許の内容にもよりますが、契約時に一括して支払われるパターン、特許発明の実施による売上や粗利の金額の割合に応じて定期的に支払われるパターン、或いはその両方を組み合わせるパターンが多いでしょう。特に売上額や粗利の額に応じて変動するパターンの場合、ライセンシーの報告ベースで金額が決まることになりますので、ライセンサーの側は、その報告が正しいのかを調査・監査する仕組みを契約書上整えておく必要があります。
(2) 第三者による権利侵害への対応に関する規定
通常実施権設定契約の場合、もし第三者が対象となる特許権を侵害していても(例えば無許諾で特許発明を実施しているなど)、ライセンシーはこの侵害の差止めを求める権利を持ちません。その権利はライセンサーが専有しているためです。
したがって、第三者による権利侵害に備えるためには、ライセンシーは契約書においてライセンサーによる権利侵害への対応の約束を取り付ける必要があります。
(3) 改良発明が発生した時の規定
特許発明の実施は、その技術を使ってものづくりをするということですので、当然その過程で新しい発明や特許発明の改良がなされることが有り得ます。そのような場合に、誰が特許権者となるのか、或いは共有するのかなどを、枠組みレベルでも予め決めておかなければ後に紛争の種となります。
ライセンサーにしてみれば、自社の技術がベースになる限り、その権利を少なくとも共有するような建付にする必要がありましょうが、ライセンシー側にすればその技術が実施の対象となる特許発明とは関わりがないものである限り単独で特許権を保有する建付にしたいところです。
その他、特許に関するライセンス契約は、細かいことを言えば幾らでも論点はあるのですが、ここではこのくらいに。
2 著作権のライセンス契約
著作権のライセンス契約は、「著作物利用許諾契約」と呼ばれます。例えば小説を漫画やアニメにするなどの二次利用をする場合、キャラクターを企業の宣伝等に用いる場合、新聞やニュース記事などのコピーを頒布する場合などに利用されます。
(1) ライセンスの対価に関する規定
これは特許権と同じで、著作物は著作者の創造的活動によって成り立つのですから、それを利用するための対価(ロイヤルティ)が発生するのは当然と言えます。
契約の形態によって一括払い、売上又は利益に対する連動、初期費用+売上連動などパターンは色々有り得ますが、重要なのは「金額や算出方法が一義的に明らかであるか」です。無償である場合も無償であると明記すべきです。
また、売上や利益に連動してロイヤルティが決まる方式の場合、これがライセンシーの報告に依存することも特許権のライセンスと同様です。報告が正確かどうかを確かめるための調査・監査に関する規定は、ライセンサーの利益を確保する観点から必要と言えるでしょう。
(2) 著作物が第三者の権利を侵害していないことの保証に関する規定
ライセンシーは、特に企業の広告等に用いる場合、ライセンスの対象となるキャラクター等が顧客に与えるイメージに期待して利用します。しかし、そのキャラクターが実は盗作であったなどの不祥事があれば、単にキャラクターの価値が低下するだけではなく、ライセンシーのイメージダウンにも繋がってしまいます。そこで、著作物利用許諾契約では、許諾の対象となる著作物が第三者の権利を侵害していないことを、ライセンサーが保証する条項を設けることが多いです。
ただし、著作権は特許などと違い、登録しなくても権利が発生します。このため、偶然類似する著作物が現れてしまっても、それは相互に著作権侵害にはなりません。著作権侵害は、特定の著作物に依拠して創作された場合を想定しています。このような著作権の特質を踏まえて、第三者の権利を侵害していないことの保証には、「ライセンサーが知る限り(合理的に知り得る限り)」などの限定が付されることもよくあります。
(3) 著作者人格権に関する規定
漫画をアニメ化したり、キャラクターをぬいぐるみなど立体化したり、キャラクターを食器や文房具等にプリントしたりといった、元からある著作物を別の著作物に形態を変える行為を、一般に二次利用と呼びます。著作権法では、このような二次利用を「翻案」と呼びます。
このような翻案を認めるライセンス契約にあっても、「著作者人格権」といって、著作者の人格を貶めるような改変をすることは認められず、もし行えば著作者の「同一性保持権」を害したとして差止め等を求められてしまいます。
そこで、ライセンシーにおいては、このような著作者人格権を行使しない旨の規定を設けることが望ましいと言えます。
(4) 翻案を認める規定
これはライセンス契約ではなく著作権を譲渡する契約に関するものですが、重要なので一言触れておきます。
著作権は譲渡の対象となりますが、翻案をする権利は「著作者」つまりもともと創作をした人に留保されるのが原則です。このため、著作権譲渡契約では、翻案も含めて自由に利用できるようにするための文言を設けることが「必須」となります。具体的には、「著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)」という文言を用いるのが一般的です。この文言がなければ、翻案をする権利は原著作者に留保されてしまうので、譲渡を受ける側は注意が必要です。
尚、著作権を譲渡する場合でも、上記(3)の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権等)は譲渡することができず、契約書で著作者人格権を行使しないことの約束を取り付けることが限界となりますので、この点も要注意です。
3 まとめ
知的財産に関するライセンス契約は、専門性が高く難解な契約書になることが多いです。それでも、要注意ポイントを知っておくだけで、自社の目的を達成することができるか否か、なんとなくでも理解することができます。
とはいえ、ライセンス契約のチェックは弁護士にご相談いただいた方が無難です。弊所でも日常的にライセンス契約のレビュー業務を行っていますので、どうぞお気軽にご相談ください。






