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連載企画「実践!業態別契約書」⑥ライセンス契約書(前半)

連載企画「実践!業態別契約書」の8回目のテーマは、ライセンス契約です。

 詳しくは後述しますが、ライセンス契約とは、誰かが考えたアイデアやノウハウを使わせてもらう契約です。あまり意識されないところではありますが、パソコンやスマートフォンを使用するに際しては、恐ろしい数のライセンスを付与されています。

 今回から次回にかけて、ライセンス契約の前提となる「知的財産権」を中心に、ライセンス契約について解説してまいります。

1 ライセンス契約とは

 ライセンス契約は、ライセンスの対象となる権利の内容にもよりますが、「実施許諾契約」「利用許諾契約」などとも表記されます。
 ここでライセンスの対象となる権利は、多くの場合で特許や著作権といった法的保護の対象となる知的財産権や、法律上保護する制度はないものの独自性が強く収益力のあるノウハウやビジネスモデルです。ライセンス契約とは、これら知的財産権やノウハウなど「別の誰かが考えた収益力のあるアイデアやノウハウを使わせてもらう」という契約をいいます。
 法的保護の対象となる知的財産権は、権利者に無断で使用することはできません。もし無断で使おうものならば、権利者から損害賠償請求や使用の差止請求を受けることになります。収益性の高いノウハウ、典型的にはフランチャイズ店舗の運営方法なども、必ずではありませんが同様のリスクがあります。そのような事態を避けるために、第三者の知的財産権等を使用する際には、事前に許諾を受けておく必要があります。この際に締結するのがライセンス契約です。

2 知的財産権とは

 では、ライセンス契約の対象となる知的財産権にはどのようなものがあるのでしょうか。

⑴ 特許権

 最もわかりやすい例が特許権です。特許権は「発明」を用いて製品を製造等する権利を独占できる権利で、「発明」は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定されています(特許法第2条1項)。
 自然法則を利用した技術的思想とは、若干不正確ではありますが、「科学技術を応用して製造したモノや、モノを製造する方法」とご理解いただいて差し支えありません。科学技術ではないもの、人が人為的に考えたゲームのルールや、一般的な科学の法則に反する理論(典型例が「永久機関」)は、どれだけ素晴らしいものであっても特許の対象とはなりません。
 例えば、トヨタ自動車のハイブリッド車の基幹となるシステム「THSⅡ」は、トヨタが開発したハイブリッド車の部品や製造方法に関する発明の塊です。他社がこのTHSⅡを使ってハイブリッド車を製造するには、トヨタとの間でトヨタが持つ◯◯の特許権を使ってもいいですよ、という了解を取らなければなりません(これを「実施許諾」といいます。特許法では、特許技術を使ってモノを作ったり売ったりすることを「実施」というと規定されています(特許法第2条3項)。)。そして、許諾を受けた側(ライセンシーといいます。)は、この許諾に対する対価としてのライセンス料を支払うのです。尚、トヨタのハイブリッド車に関する特許技術の一部は、現在無償提供されているようです。
 他方、トヨタは「ハイブリッド車」という概念そのものについて特許権を持っているわけではありません。このため、日産自動車やホンダ自動車は、トヨタの技術とは違うアプローチでハイブリッド車を開発、製造することが可能であり、両社もそれぞれ多数の特許技術を有しています。
 もっとも、特許権は発明者に何でもかんでも独占させようという権利ではなく、実施権を独占させる代わりに、その技術の内容は公開され、経済産業省所管の独立行政法人工業所有権情報・研修館(略称INPIT)のサイトで誰でも見ることができるようになります。ご興味のある方は是非ご覧になってください(特許情報プラットフォーム|J-PlatPat [JPP])。また、特許権の有効期間は、出願の日から20年間で、原則として延長はありません。
 特許権は、特許庁に出願し、各種特許要件の審査をパスすることで登録され保護の対象となります。
 このように、特許権は、一定期間の独占的な権利を認める一方で、公開によって産業の発展を加速しようという意図のもとに創設された権利です。尚、同様の制度は世界各国にあり、特許権の場合「パリ条約」、著作権の場合「ベルヌ条約」、商標権の場合「マドリッド・プロトコル」等の国際条約によって、運用上の連携が図られています。

⑵ 実用新案権

 実用新案権とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である「考案」を保護する権利です。特許権と似ていますが、特許権の対象となる「発明」は高度に進歩的な技術であることが要件となる一方、実用新案権の対象となる「考案」は特許発明ほどの高度性は要求されません。このため、便利なパッケージの構造などで利用されることが多いです。
 また、特許権のような厳格な審査はなく、形式的な要件に当てはまっていれば登録されます(但し、後から要件を充たしていなかったとして有効性を争われることもよくあります。)。
 実用新案権も、特許権と同じように、出願した書類がINPITで公開され誰でも閲覧可能になります。有効期間は出願から10年です。
 このように、実用新案権は特許権と比べて登録のハードルが低い分有効期間等の点で保護の程度は弱いですが、第三者が実施するには実施許諾を受けなければならないという点では特許権と同様で、活用性の高い知的財産権の一つと言えます。

⑶ 意匠権

 意匠権とは、「意匠」つまり「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。)であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」を保護する権利です(意匠法第2条1項。一部省略しています。)。
 特許権の対象となる「発明」や実用新案権の対象となる「考案」は技術を対象とする権利であるのに対し、意匠はデザインを保護する点で違いがあります。また、意匠権は基本的に工業デザインが保護の対象であるのに対し、この後取り上げる著作権は芸術的な創作を保護する権利であり、商標権はロゴマークやブランド名を保護の対象とする点で異なっています。
 意匠権も、特許権や実用新案権と同様、特許庁に出願の上、審査を受けて登録・公開されます。現行法上有効期間は出願のときから最長25年ですが、令和2年3月31日以前に出願されたものは登録期間が異なります。

⑷ 商標権

 商標権とは、文字、図形、記号等を用いた商品やサービス等のロゴマークやブランド名(これを「標章」といいます。)を独占的に使用することができる権利です。
 登録された商標を、類似する範囲も含めて他者が使用することは禁じられ、ブランド力や知名度等にタダ乗りする行為や、自社のブランド力を貶める行為を予防することができます。
 商標権も、特許庁に出願して登録されて初めて権利として保護される対象となります。有効期限は登録から10年間ですが、特許権等の工業系の知的財産権と異なり、何度でも更新できます。特許権や実用新案権は、陳腐化した技術をいつまでも保護すると反対に技術革新の妨げとなるために保護期間を制限しているのですが、商標権は商標権者のブランド力を保護するもので、保護の対象が異なるためです。
 ちなみに、大手メーカーや保険会社の代理店は、そのメーカー等の提携先であることを明らかにするために、名刺、看板、パンフレット等でそのメーカー等のロゴマークを用いることがあります。これは、代理店契約や業務委託契約等に、そのメーカー等の商標を使用して良い、との規定があることで可能となります。商標の使用許諾契約を独立して締結していない場合でも、このような契約の中で商標の使用許諾=ライセンスがなされていることはよくあります。
 商標も、J-Platpatで検索できます。

⑸ 著作権

 著作権とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と定義される著作物に関する権利です。要するに芸術関連の創作を保護するものですが、その保護の範囲は広く、映画、音楽の実演家、レコード会社、放送事業者などの権利も保護の対象です。また、芸術とは違いますが、コンピュータープログラムも著作権による保護の対象となります。パソコンやスマホのアプリケーションをインストールするときに、「利用規約に同意しますか?」というダイアログが出てきて、「はい」を選択すると利用規約に同意したものとされてインストールが始まる、という場面をご経験の方は多いと思います。この利用規約には、アプリケーションの販売者が、ユーザーに著作物の利用許諾=ライセンスをするための条件が定められ、これに同意したユーザーのみ利用を許諾するという仕組みになっています。
 著作権は、上記4つの知的財産権と異なり、登録は必要なく、創作と同時に著作権が成立します。著作権は、著作物に関する様々な権利の集合体で、個別の権利を「支分権」といいます。支分権は、複製権、上演権、公衆送信権・送信可能化権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、翻案権など多岐にわたり、著作者や著作権者以外の者がフリーライドできないよう保護が図られています。
 また、著作権とは別に、著作者の権利を保護するために「著作者人格権」という権利が規定されており、これはライセンス契約をするに当たり重要な考慮要素となります。
 著作権が創作と同時に著作者に帰属すること、著作者人格権があるということは、デザインやWeb制作を外注した際に、そのデザインを別で流用できるか否か等に大きく影響してきますので、創作を伴う業務を外注する際には、契約書の内容に注意が必要です。

3 まとめ

 今回は、ライセンス契約の前提となる「知的財産権」の概要について解説してまいりました。
 特許権や実用新案権に関わるのは主にものづくりをする企業が中心ですが、商標権や著作権はどんな企業でも、自社の権利の保全や、他社の権利の侵害予防の点から、多かれ少なかれ関わりが生じる可能性がありますので、企業経営者の皆様には、概要レベルで良いので是非知っておいていただきたいと思います。  次回は、今回解説した知的財産権の概要を踏まえて、ライセンス契約の具体的な条項に沿って注意事項を解説してまいります。

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