連載企画「実践!業態別契約書」も早7回目となりました。今回は、前回に引き続きコンサルティング契約書の後半です。
前回は「コンサルティング契約」の概要について解説させていただきました。そこで、今回は前回の内容を踏まえて、契約書の条項で具体的に注意すべき点について触れてまいります。
1 コンサルティング契約特有の注意点
(1) 業務内容の特定に関する規定
繰り返しとなりますが、コンサルティング契約書において最も重要なのは、コンサルタント側の業務の内容をどのように特定するか、です。
契約書に直接規定する方法でも、「決め方」を規定する方法でも、契約の実態にフィットしていればどちらでも差し支えありません。ただし、いずれの方法によったとしても、業務内容が明確になるようにすることが非常に重要です。
(2) クライアント側の協力や提出物に関する規定
分野の別を問わず、コンサルタントの基本的な業務は、クライアントが置かれた現状を詳しく分析し、これに基づいてクライアントが望む結果を得るための方法論を立案することにあります。コンサルタントが的確な立案をするためには、まずクライアントが置かれた現状の把握は極めて重要で、この前提が異なると、立案は的外れとなってしまいます。
しかし、コンサルタントはクライアントの内部のことは何も知らない状態から業務をスタートします。このため、クライアントの内部事情は、クライアントからコンサルタントに資料を提供したりレクチャーしたりするなどしなければなりません。このような実態を踏まえて、コンサルティング契約書には、クライアントの協力(本来の当事者である以上、「協力」という表現は本来適していないのですが)や資料の提供に関する規定を置くことがよくあります。
要するに、コンサルタントに丸投げではダメですよ、ということです。
(3) 第三者の使用・目的外使用禁止に関する規定
コンサルティング契約は、多くの場合、専門的な知識、技術、経験やノウハウを持ったコンサルタントが、クライアントの求めに応じて助言をしたり、解決策を立案したりするものになります。つまり、コンサルタントの知識や経験そのものが商品であり、これを用いた助言や提案がクライアント企業に有用であるからお金をもらうわけですので、顧客であるクライアント以外にコンサルタントの知識やノウハウを勝手に使われては「商売あがったり」となってしまいますので、契約書ではこれに対するケアが必須となります。
このため、コンサルティング契約では、コンサルタントがクライアントに提供した情報やノウハウ等を、自社以外で使用したり、第三者に使用させたりすること厳格に禁止する規定が設けられます。子会社や関連会社、或いは他部署での使用も、コンサルタントとクライアントで認識が異なるとトラブルの元になるので、使用できる範囲は厳密に定めておくことが望ましいです。
(4) 秘密保持義務に関する規定or秘密保持契約書/競業避止義務に関する規定
反対に、コンサルティングの場面では、クライアント側の情報をコンサルタントに開示することが必要になることも多いです。これは、そのクライアントの実情に応じた課題の解決をする以上、むしろ当然といえます。そうであるが故に、コンサルタントがクライアントの持つ情報やノウハウを流用することも、同時に防がなければなりません。
この対策のために、多くのコンサルティング契約書では秘密保持義務に関する規定を設けたり、秘密保持契約書(NDA)を締結したりしています。これらはコンサルティング契約に限らずとも取り交わしますが、コンサルティング契約ではより重要度が高く、詳細な規定を設けることも多いです。
また、コンサルタントはクライアント側の秘密性の高い情報を知ることになるため、悪いことをしようとすればクライアントのノウハウを盗用して市場で競合する事業をすることもできてしまいます。しかし、それはクライアントに対する背信行為であるだけでなく、現実の損害を及ぼしてしまいます。そのような事態にならないよう、コンサルタントによる競業行為を禁止する規定が設けられます。
(5) 知的財産の取扱に関する規定
コンサルタントがビジネスモデルやビジネススキームの構築に関与した場合、内容次第では知的財産権(特許権、実用新案権、著作権等)による保護の対象となることがあります。コンサルタントが納品したレポートやマニュアル等も著作権による保護の対象となり得ます。これらの知的財産権が誰に帰属するのかを予め整理するため、契約書上に規定を置くことになります。
(6) 委託料に関する規定
コンサルティング契約は、契約毎に業務内容が千差万別であるように、委託料(よく「コンサルティング・フィー」と呼ばれます。)の定め方も様々であり、一定の形はありません。そうであるが故に、コンサルティング・フィーについては、金額又はその定め方を、疑義が生じないよう明確に定める必要があります。毎月一定額、一括前払い、一括後払い、着手時と終了時など、契約の趣旨に合った金額と支払い方であれば方法は問われませんが、少なくとも、明確かどうかだけは注意しておかなければなりません。
(7) 途中で終了した場合の処理に関する規定
コンサルティング契約も、途中で終了することあります。中途で終了しても、コンサルタントから一定のサービスを受けた以上、クライアントはその度合いに応じた知識やノウハウの移転を受けているということになりますので、コンサルタント側からすればその程度に応じたコンサルティング・フィーを支払ってもらわなければならない、ということになるでしょう。他方、クライアント側からすれば、望んだ目的を達成できないのに、なぜお金を払わなければならないのか、という気持ちになることもわかります。前払の場合は返金するのかしないのか、という問題になります。
一律に正しい決め方があるわけではありませんが、間違いなく言えるのは、途中で終了した場合にコンサルティング・フィーをどうするかを予め決めておかないと、トラブルになるリスクが非常に高い、ということです。
(8) 免責規定
既に述べたとおり、コンサルティングという業務は、特定の成果を保証することが難しいタイプの契約です。他方、クライアントは自分では解決できない困りごとを抱えているので、コンサルティングに対し大きな期待を持っています。ここにコンサルタントとクライアントの認識のギャップがあり、それがトラブルのリスク要因となります。
コンサルティングはあくまでも助言や提案が内容であり、それを実行に移すかどうか、提案内容を100%実施するか、それとも一部の実施にとどめるのかなどはクライアントの経営判断事項です。したがって、成果が出るか出ないかは、言うなればサービスのクオリティの良し悪しに近い位置付けとなり、成果が出なかったとしてもコンサルタントの債務不履行にはなりません。もちろん、明らかな手抜きは債務不履行ですが、これは成果が出なかったからではなく、手抜きをしたことそのものが契約上の義務違反になるからです。
これは契約書に書かれなくても、コンサルティング契約の性質上、論理的に当然導かれる帰結なのですが、成果が出るか出ないかはクライアント側の責任であって、コンサルタントはその責任を負いませんよ、という規定をトラブル予防のために注意的に設けるのが一般的です。
2 まとめ
コンサルティングというサービスは、良くも悪くも形がありません。このため、何をもって成果とするのか、その評価が難しい契約です。スムーズな業務の遂行とトラブル予防のため、コンサルティング契約に際しては、コンサルタントは明確かつ契約上のリスクを十分にケア可能な契約書を準備しておく必要があります。
クライアントとして契約する場合は、自社に不利益な内容や明らかに相手方有利な規定がないかについて契約書のリーガルチェックを弁護士に依頼いただくと良いでしょう。







