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連載企画「実践!業態別契約書」⑤コンサルティング契約書(前半)

 連載企画「実践!業態別契約書」の6回目は、コンサルティング契約書を取り上げます。
 「コンサルティング」とは課題の解決に向けた助言や指導をすることを意味します。今や、小売や建設といった伝統的なビジネスモデルでも、顧客の困りごとをどう解決するか、という視点は非常に重要なものとなっており、ある意味あらゆる商売にコンサルティング的要素が含まれているといっても過言ではありません。
 消費者のニーズが多様化し、ビジネスの構造も専門化、複雑化するに従って、経営者自身だけでは判断が難しい事項が増え、新しい視点を取り入れる必要性も高まっています。コンサルティングは、こうした経営者の経営判断の助けとするために活用されます。
 このようなコンサルティング契約を締結するにあたり、両当事者それぞれの立場からどのような注意が必要かを紐解いてまいります。今回はコンサルティング契約の概要と特徴、次回で注意すべき条項について解説いたします。

1 コンサルティング契約とは

 上記のとおり、コンサルティングとは課題の解決に向けた助言や指導をいいます。英語の”consult”がもとになっており、これは「相談を聞く」「助言を求める」といった意味を持っています。コンサルティングを提供する側を、一般にコンサルタントといいます。
 コンサルティング契約は、需要者(一般には経営者が多い)がコンサルタントに経営上の助言を求め、その対価を支払うという契約をいいます。
 コンサルティング契約においてコンサルタントが提供する業務は「助言」であり、それが結果として上手くいくことを保証するものではありません(※上手くいかなかったときに法的責任を負わないというだけであって、そのコンサルタントの手腕に対してマイナス評価がなされないというわけではありません。)。したがって、コンサルティング契約は、受託者が受託した業務について結果の責任を負わず、仕事をすること自体が義務の内容となる「準委任契約」に該当することになります。(詳しくはこちらをご参照ください:連載企画「実践!業態別契約書」②業務委託契約書(IT系制作物)-1連載企画「実践!業態別契約書」③業務委託契約書
 コンサルティング契約の在り方は様々ですが、経営戦略の構築に関わるいわゆる戦略コンサルティングがその典型例と言えましょう。その他にもITに特化したコンサルタント、M&Aを専門とするコンサルタントなど、分野や業種ごとに多種多様なコンサルタントが存在しています。また、「中小企業診断士」という、企業経営のコンサルティングを職域とする国家資格もあります。

2 コンサルティング契約における契約内容特定の重要性

 既にお気づきのとおり、コンサルティング契約は、クライアントである企業が、コンサルタントに経営上の課題に対する解決策の立案等を委託し、コンサルタントがこれを受託するという、一種の業務委託契約です。
 業務委託契約の回でも言及しておりますが、業務委託契約において最も重要なのは受託者が実施する業務の内容の特定であり、これはコンサルティング契約でも同様です。コンサルタントが提供するコンサルティング、例えば経営戦略、IT、財務、マーケティング、広報・広告戦略、M&Aといった大きな目的を定めた上で、コンサルタントが具体的にどのような業務を通じて指導・助言をするのか、どんな成果物を納めるのか、どのくらいの頻度で打合せをするのか、クライアント側から出す資料はどんなものか、などです。コンサルティング業務の大きな枠組みを契約書で定めて、細かな内容を仕様書等で定めるようなやり方もよく採用されます。
  「コンサルティング」「指導」「助言」、いずれもその言葉は入れ物のようなもので、内容を具体化しなければ何をするのかが判然としません。クライアントはこんなことをしてほしい、という希望がありますし、コンサルタントもこんなサービスを提供できる、という札を持っています。これが合致したから契約に至るわけですが、口頭ではなくメール等の文字情報で遣り取りをしていたとしても、コンサルタントの提供する業務とクライアントのニーズやクライアント側が分担する役割などに関する認識が、整理された形で一致しているとは限りません。この認識が言語化の上で整理されていなければ、クライアントのニーズとコンサルタントの業務がミスマッチを起こしてしまい、不信や不満に発展するおそれがあります。また、コンサルタントの側からしても、「ここまではやるけど、これ以上は業務の範囲外」という限界値を決めておかなければ、業務が青天井に増えていくリスクがあります。
 建築請負契約のように目に見える成果物があればまだわかりやすいのですが、コンサルティング契約にはどうしても曖昧な部分が残されてしまいがちなので、契約書で業務の目的や内容を明確にすることが、コンサルティング契約においては非常に重要です。建築で設計図面が必ず作成されるのに近い考え方です。

 ITの回でも、業務委託契約の回でも、代理店契約の回でも同じようなことを書いている気がしていますが、それくらい、契約書で業務内容を特定することは重要なのです。余談ですが、時々、弁護士が契約書を作成する作業を、雛形を弄るだけと誤解されている方がいらっしゃいます。何の叩き台もないと作りにくいのも確かですので、雛形を利用することはありますが、弁護士が契約書作りで最も力を入れるのは、その契約書でしようとしている契約の内容の特定です。契約の内容、つまり契約での登場人物、商品やサービスの内容、その提供までのフロー、お金の流れ、必要な許認可等を資料や聴き取りから把握し、履行の過程でどのようなイレギュラーのリスクが有り得るか、そのリスクを契約書の規定でヘッジできるのか、できるとしてどのような文言にすればよいのかを検討し、雛形の文言を調整したり、オリジナルで書いたりします。そのような作業を経たプロダクトが契約書なのです。

 今回はここまで。次回、コンサルティング契約書で注意すべき条項について触れてまいります。どうぞご期待下さい。

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