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「離婚」について知っておきたいこと(第6回)

 前回に引き続き、今回も財産分与についてお話していきます。

預貯金・現金

 これまでのお話してきたとおり、夫婦が婚姻中に形成した財産であれば財産分与の対象となりますので、婚姻時から別居時までの預貯金が財産分与の対象となります。
 これに対し、婚姻前に蓄えていた預貯金は、特有財産として財産分与の対象にはなりません。

 預貯金については、子供名義で口座を開設している場合もあり、これがどうなるかという問題が生じます。

 仮に、子供が祖父母から贈与を受けた金銭を口座に保管している場合は子供の財産であり、両親が財産分与の対象とすることはできません。

 他方、夫婦が協力して、子供名義の口座に、例えば将来の学費等の必要に備えて貯蓄しておくということもあります。
 このような場合は、名義は子供であっても、実質的には夫婦が婚姻中に形成した財産として、財産分与の対象となります。

 もっとも、実務上は、子供の将来に備えたものであるとして、当事者の合意によって財産分与の対象から外すという解決方法も採られます。
 離婚後の子供の養育は、必ずしも養育費のみでカバーできるとは限らない以上、このような解決方法も十分合理的なものと考えられます。

保険(生命保険等の解約返戻金)

 婚姻中、生命保険や学資保険を掛けるケースもしばしばみられますが、契約内容によっては、解約すると返戻金が発生するものがあります。
 このような場合には、保険も財産分与の対象となり、別居時を基準として解約返戻金が対象となります。
 なお、別居後離婚時までに、解約返戻金の額が増額することもありますが、この増額分は、夫婦が協力して形成したものではないため、財産分与の対象とはなりません。

 解約返戻金は、別居時点を特定して保険会社に照会することによって調査することができます。

株式

婚姻中に取得した株式も財産分与の対象となります。

 上場会社の株式の場合は株価(=財産価値)の把握は容易ですが、非上場会社の株式は、そもそも財産価値があるか、仮にあるとして、どのように財産価値を評価するか、という問題があります。
 このような場合は、公認会計士等の専門家に評価してもらうのが本則ではありますが、そのための費用がかかることから、当事者間で評価額の合意をすることが多いです。

 株式が財産分与の対象となる場合は、投資信託をしているケースのほかに、夫婦の一方が会社を経営しているケースがありますが、その会社の資産は、財産分与の対象にはなりません。
 これは、会社は夫婦とは別の権利主体であり、あくまでも会社の財産は会社の所有物であるからです。

では、株式が財産分与の対象となる場合、どのように分割がなされるでしょうか。
 分割方法としては、株式を現物分割(例えば、100株ある場合は50株ずつ分ける方法)することも考えられますが、対象となる株式が夫婦の一方が経営する会社の株式である場合は、その会社の支配権にもかかわってくるため、一方が取得して他方に評価額に相当する金銭を支払うという解決方法も採られます。

退職金

 退職金は、既に支給を受けている場合もありますが、将来、支給を受ける場合もあります。

 もっとも、社会状況や経済状況の変化は予測しがたいものですので、将来、退職金が支給されるか、支給されるとして給付額がいくらになるかも非常に予測しがたいこととなります。
 しかも、仮に将来の支給額を予測できたとしても、夫婦が離婚すれば、その後の退職金の形成に寄与・貢献することはないのではないか、という問題意識も生じます。

 このようなことから、実務上は、数年後に退職する予定で、その時点での退職金支給額が判明している場合に限って財産分与の対象とし、その額を現在の価値に引き直して計算することとし、10年後、20年後の退職給付金については財産分与の対象としないとすることがあります。
 他には、別居時又は離婚時に退職したとしたら得られる見込額を、稼働期間と婚姻期間で按分する方法も採られます。

扶養的財産分与

 本連載の第3回で軽く触れましたが、財産分与には、上記にみた清算的財産分与のほかに、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与もあります。

 結婚後、共働きであった夫婦が、例えば出産を機に妻が仕事を辞めてしまうことも少なくありません。
 こうしたケースで離婚すると、婚姻関係の解消に伴って、夫婦間の同居扶助義務や、これに基づく婚姻費用分担義務が消滅することになりますので、上記のケースでは、妻は自分で離婚後の生計を立てていかなければならなくなります。

 もっとも、離婚後すぐに就職先を探すことができるとは限らないところ、夫婦間に清算的財産分与の対象となる財産がなかったり、次に述べる慰謝料的財産分与も発生しない場合には、財産分与を求めることができないということになります。
 その一方で、夫の方は、清算的財産分与の対象財産がなくとも、離婚後を仕事を続ければ、妻の生活費を負担しない分、経済的には楽な生活を送れることになります。

 こうした事態は、理論上はそうなるとしても、公平を欠くことになるため、仕事をしている一方配偶者に、仕事をしていない他方配偶者が離婚後経済的に自立できるまでの間の生活費を財産分与として負担させるべきとの考え方があります。
 これを、扶養的財産分与、といいます。

 実務上は、離婚する夫婦に明らかな経済格差があり、一定期間の生活費が確保されるだけの清算的財産分与や慰謝料的財産分与がなく、当分の間生活できるような特有財産もない場合は、扶養的財産分与を認めるケースが多いです。

 金額については、離婚相手の生活費を全て負担しなければならないとすると、扶養義務がないのに自己の生活を犠牲にして生活を援助することになってしまうため、婚姻期間中の婚姻費用相当額が基準にされることが多いです。

期間については、感覚的には、離婚後1年間から3年間の分とするが多い印象です。
 支払については、特有財産があり一括払いができる場合もありますが、毎月一定額の支払いを命じるケースもあります。

慰謝料的財産分与

 婚姻関係の破綻原因を作った一方配偶者は、他方配偶者に対して慰謝料を支払う義務を負うこととなります。
 この慰謝料は、財産分与とは別に支払いを受けることができますが、財産分与において考慮することも可能です。
 こうした場合を、慰謝料的財産分与、といいます。

 なお、慰謝料の額の相場、は関心を持つ方もいらっしゃると思われますが、これはケースによって破綻の経緯や婚姻期間、破綻に関する責任の程度も様々ですので、一概にはいえません。
 ただし、(10年以上前の統計にはなりますが)東京家庭裁判所の過去の統計によれば、200万円以下で全体の約55%が収まり、300万円以下で約80%、500万円以下で約95%が収まるようです。

 今回までは、財産分与についてお話してきました。
 次回以降は、面会交流、年金分割についてお話していくことにします。

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