前回に引き続き、今回も財産分与についてお話していきます。
財産分与の対象財産の確定についての基準時
対象財産確定についての基準時とは、どの時点の財産を財産分与の対象とすべきか、という問題です。
これは、原則として夫婦間における経済的な共同関係が消滅したとき、つまり離婚前に別居が先行していれば別居時、別居していない場合は離婚時、です。
別居が先行していれば別居時となるのは、別居した夫婦は、特別の事情がない限りそれぞれ別の経済生活を営んでいるため、共同財産の形成に貢献するということはないからです。
対象財産の評価についての基準時
これは、対象財産が確定した場合に、その対象財産の評価をどの時点ですべきかという問題です。
これについては、別居後に離婚した場合には、別居時(=対象財産の確定時)と離婚時(=財産分与請求権の発生時)とで評価額が異なることがあるため、原則として財産分与請求権が行使された時点(=分与時)である、とする考え方が有力です。
実務上は、不動産や株式等、別居時と分与時で評価額が変動することがありうるものについては分与時の評価額、預貯金や保険の解約返戻金などは、基本的に変動がないため別居時の評価額、と扱われています。
具体例でみてみましょう。
不動産が財産分与の対象となる場合、別居時の評価額が2000万円であったとしても、分与時に1500万円に下落していれば、対象財産の評価額は1500万円ということになります。
また、預貯金が財産分与の対象となる場合において、別居時には残高が300万円、分与時には500万円であったときは、別居中に200万円増えたことになるものの、この増加分について他方の配偶者が寄与・貢献することはありません。
そのため、この場合の預貯金の評価額は300万円、ということになります。
では反対に、別居時には財産分与の対象となる預貯金が1000万円あったものの、預金名義人が生活費として使ってしまい、500万円にまで目減りした場合はどうでしょうか。
この場合は、別居後は夫婦の経済協力関係がないと考えるため、預貯金の評価額は別居時の1000万円となります。
寄与度
これは、共同生活において形成した財産について、どちらがどの程度寄与(貢献)したか、という問題です。
実務においては、特段の事情がない限り、対象財産の形成については、夫婦の寄与・貢献は同等であり、夫婦は各自2分の1の持分を有する、とされています。
寄与度の計算をする場合には、①対象財産全体について寄与度を考慮する方法と、②個々の積極財産ごとに寄与度を考慮する方法があります。
①は、積極財産(財産として価値があるプラスの財産)と消極財産(名義を問わず、夫婦が婚姻生活を営むに際して負った債務であるマイナス財産)に分けて、その合計額を差し引き計算し、財産分与の対象額を算出した後、これを2分の1にして財産分与額を算出する方法です。
他方、②は、例えば以下のように考えます。
自宅である土地建物の購入額が4000万円、夫が結婚前に蓄えた財産(=特有財産)から2000万円を負担し、残額を住宅ローンで支払い、婚姻生活中に住宅ローンを完済したとします。
この場合は、夫の寄与度として、特有財産から2000万円を負担したことを考慮して、財産分与の対象財産としては2000万円であると考え、これに財産分与の対象となる他の積極財産の合計額から消極財産を控除したものを加えた後、これを2分の1にします。
この考え方は、特有財産や実家からの援助が充てられているケースにおいて用いられることが多いです。
債務の清算
実務では、財産分与の対象となる不動産や預貯金等の積極財産がある場合は財産分与を請求することができるものの、積極財産がなく(婚姻生活を営むために負った)債務(=消極財産)しかない場合は、清算すべき対象財産がないため財産分与を請求することはできないとされています。
積極財産と債務の両方がある場合は、積極財産の評価額から債務を控除して、その結果プラスがあれば財産分与請求権が認められるものの、プラスがないときは積極財産がないものとして財産分与請求権は認められないとされています。
以上は夫婦間における債務の清算の問題ですが、財産分与の計算結果がマイナスになり財産分与請求権が認められない場合でも、債権者に対する債務がなくなるわけではありません。
そのため、債権者に対しては、その債務の名義人となっている夫婦の一方は、引き続き、債権者に対して債務を弁済する義務を負うことになります。
特に実務上よくある問題は、住宅ローンです。
婚姻期間中に取得した自宅不動産は、夫名義になっているケースもよくみられますが、結婚前の財産(=特有財産)や親から贈与を受けたものでない限り、夫婦の実質的共有財産であると考えられます。
このように考えると、その購入代金のための債務である住宅ローンも、同様に夫婦が平等に負担すべきであり、仮に夫名義で住宅ローンを借りて、夫名義で自宅不動産を購入した場合も変わりはないこととなります。
もっとも、住宅ローンは、婚姻関係が継続していれば夫婦の収入から支払われますが、離婚時に残ローンがある場合は、これをどうするかを決めなければなりません。
この場合において、自宅不動産の評価額が2000万円、残ローンが1000万円である場合は、評価額-残ローン額が1000万円となりプラスが生じるため、夫婦の一方が自宅不動産を取得し、取得した一方配偶者から他方配偶者に500万円を支払い、その後、取得者が自分で住宅ローンを支払う、という解決方法がありえます。
ただし、夫婦のいずれもが取得を希望しない場合は、売却して住宅ローンを返済した残金を等しく分けあうという解決もありえます。
もっとも、自宅不動産の評価額が2000万円、残ローンが2500万円の場合で、他の対象財産を合計してもプラスにならない場合(例えば、預貯金が200万円の場合は、夫婦の財産をトータルでみてもマイナス300万円)は、分与すべき財産がないこととなり、財産分与請求権は認められないということになります。
そこで、このような場合は、例えば、自宅不動産を売却して住宅ローンの一部弁済をし、残ローンは借入名義人が支払いつつ(債権者との関係では借入者に変更は生じないため)、支払額の2分の1を他方配偶者に求償(立替払いの請求)をする方法、夫婦の一方が居住して住宅ローンの支払いをする方法について協議することとなります。
このような場合は、居住者が住宅ローン債務者の名義人でないとき、例えば、夫名義で住宅ローンを借りて自宅不動産を購入したケースにおいて、妻が子とともに引き続き居住することを希望するときは、借入先の金融機関に対し、住宅ローンの借り入れを妻名義へ変更するよう打診することもありますが、妻が夫と比較して収入が乏しいような場合は、返済能力の関係から実現はなかなか難しいのが現状です。
次回もさらに財産分与について深堀していくことにします。







