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連載企画:「離婚」について知っておきたいこと(第2回)

 前回は、離婚の4つの方法(協議・調停・審判・裁判)と手続の基本的な流れについてご紹介しました。
 今回は、離婚における主な争点の内容や対応方法について詳しく解説していきます。

離婚事件における主な争点

 前回記事の末尾でご紹介したとおり、離婚に際して当事者間で争点となる事項は、主に以下のものが挙げられます。

・親権(監護権)
・養育費、婚姻費用
・財産分与
・慰謝料
・面会交流
・年金分割

 以下、それぞれみていきましょう。

親権・監護権

 夫婦間に未成年の子がいる場合、離婚時にはどちらが親権者となるかを必ず決める必要があります(民法819条)。
 そのため、離婚届には親権者を指定する欄がありますが、ここを空欄にすると受理されませんし、調停・訴訟いずれの手続による場合でも、親権者が指定されることとなります。

 「親権」は、ドラマ等にも出てくる比較的馴染みのある法律用語ですが、「監護権」はそうでもないように思われますので、ここで両者の違いをみてみます。
 まず「親権」は、子供の利益のために監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限であり義務です。
 ドラマ等のセリフとして、例えば「○○の親権は私のものよ!」、「いや、オレのものだ!」というものが想起されるように、親の「権利」としてイメージする方も多いかもしれません。
 しかし、民法820条で「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」と定められているとおり、親権は権利であると同時に義務でもあります。
 そのため、先のセリフを冷静に分析すると、義務を引き受けることを激しく争っているという見方もできることになりますが、例えばイギリスでは、日本の親権に相当する概念は「Parental Responsibility(親の責任)」とされており、より義務であることが明確にされているといえるでしょう。

 「親権」は、未成年者の子の財産を管理する権利義務である「財産管理権」と、監護養育する「身上監護権」に分けられるところ、後者がいわゆる「監護権」です。
 監護権の内容には、子の居所を定める権限、職業の許可をする権限等があり、近年の民法改正までは、「懲戒権」の規定も定められていました。
 この懲戒権は、「親権者が子を監護教育するに当たり、子の非行・過誤を矯正善導するために、その身体又は精神に苦痛を加える制裁であり、一種の私的な懲罰手段である」と理解されていました。
 ただし、しつけと称した体罰や虐待を正当化する口実となるという問題点から、令和4年の民法改正で削除されました。
 昔の子育ては体罰許容というイメージがありますが、例えば江戸時代後期に著わされた「養育往来」(大河ドラマ「べらぼう」の主人公・蔦屋重三郎が活躍していた時代から約50年後に出版された育児書)では、子供を折檻することが戒められているそうで、昔のその昔までたどれば、案外、現代的価値観とそれほど違いはないのかもしれません。

 親権と監護権は、理論上は分けて帰属させる余地があるものの、例えば親権者が海外赴任する等の例外的な事情がある場合に限定され、実際は離婚後の父又は母のどちらかに親権と監護権の両方を帰属させることが通例です。

 親権が離婚調停や訴訟で争点となっている場合は、父母については生活歴、就労状況(職業、職務内容、勤務時間、通勤方法・時間等)、経済状況、心身の状況、家庭状況(住居の状況、同居家族の状況等)、親族等の援助の可能性、監護方針(今後の養育方針、監護環境、親権者に指定されなかった側との面会交流の状況、考え方等)が考慮されます。
 また、子が15歳に達している場合は、子の意見を聴かなければならないとされています。
 裁判所が子の親権者を指定するにあたっては、父母の双方が「子の監護に関する陳述書」と呼ばれる書面を提出して、上記の考慮要素に関する主張や裏付け資料を提出するほか、「家庭裁判所調査官」と呼ばれる、心理学や教育学の知見を持った専門職が、父母の双方や子との面談を行う等して調査し、その結果を報告書の形でまとめ、専門的見地から意見を述べることが行われます。
 家裁調査官による調査結果は、親権者を審判で指定する場合に重視されます。

養育費・婚姻費用

 養育費とは、子の監護や教育のために必要な費用のことで、子が経済的・社会的に自立するまでの衣食住に必要な費用、医療費、教育費がこれに当たります。 
 養育費は、子を監護している親が、他方の親から受け取ることができるものです。離婚によって親権者ではなくなった場合でも、親子の関係が消滅するわけではありませんので、子に対する民法上の扶養義務に基づき負担すべきこととなります。

 これに対し、婚姻費用は、離婚成立までの期間における相手方配偶者+子の生活に必要な費用のことです。
 夫婦間で離婚が成立するまでは、配偶者の一方は他方に対して民法上の扶養義務を負うことから、収入の多い方が少ない方に対し、別居から離婚成立までの間に渡していない生活費があれば渡す、という制度です。
 なお、離婚成立後は、夫婦間の扶養義務は消滅する(子に対する扶養義務のみが残る)ことから、婚姻費用の支払いは要しないこととなります。

 養育費や婚姻費用は、「基礎収入」や「生活費指数」といった考慮要素を基にした計算式によって算定されるところ、この早見表が、以下のリンクの「養育費・婚姻費用算定表」です。https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html 【裁判所HP】

 この表では、子の人数に応じて、養育費や婚姻費用が定められています。
 縦軸が義務者(養育費支払義務を負う側)、横軸が権利者(養育費を請求する側)であり、例えば「(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)」について、義務者が給与年収600万円、権利者が給与年収300万円だとすると、子に対して支払うべき養育費は、縦軸と横軸が交差するのは4万円~6万円の真ん中になりますので、月額5万円である、という見方をすることとなります。
 ただし、例えば再婚等で元配偶者との間に子がいて、その養育費も支払っている、という場合は、この表は当てはまらないため、表の基となっている計算式によって算出する必要があります。

 先に述べたように、養育費は親が子に対して負う扶養義務に基づくものであるところ、この義務は「生活保持義務」と呼ばれ(これに対して、例えば兄弟姉妹間は「生活扶助義務」と呼ばれます。)、原則として義務が軽減されることはありません。
 すなわち、上記の例では、「年収は600万円あるけれども、生活や趣味その他に色々出費がかさむので値引きしてほしい」という主張は通らない、ということとなります。

 養育費の終期は、近年、成年年齢が18歳に引き下げられる民法改正が行われましたが、従来どおり、20歳までが原則的終期と解釈されています。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00230.html 【法務省HP】

 ただし、子が大学に進学する場合などは、一般的な卒業時期を考慮して、22歳の3月まで、とする例もあります。

 養育費の額に関する取り決めは、調停や訴訟等の裁判手続を介した場合は、裁判所が作成する書面によって公的に確定されるものの、協議離婚の場合はそうでないため、合意の証拠となる書面を作成して、後の紛争に備える必要があります。
 この書面は、当事者間で任意に作成したものでも構わないのですが、万が一支払いが滞った場合に給与等の差押え(強制執行)をして回収する手段を確保する意味では、公正証書によることが推奨されます。
 公正証書は、「公証人」という専門家(元判事や元検事の出身が多いです。)の関与のもと、各地の公証役場で作成できる、公的な証明力を持つ文書ですが、文案の作成や準備を弁護士等の専門家を活用するとスムーズです。
 当事務所では、協議離婚に際しての公正証書作成のサポートも承っております。

 それでは、次回以降は、今回の記事でご紹介したものの残り(財産分与、慰謝料、面会交流、年金分割)について、ご説明していくことにします。

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