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連載企画:「相続」について考えてみませんか⑦

 今回の7つ目のテーマは、「遺産分割における法定相続分の修正(寄与分編)」です。

 遺産分割協議の方法としては、全員の合意があれば法定相続分と異なる割合としても良いのですが、合意が得られない場合は法定相続分を前提に具体的な遺産分割方法を考えていくことになります。もっとも、法定相続分のとおりでは不公平ではないか、という場合があり、その修正要素として寄与分と特別受益という2つの制度を民法は設けています。

 今回は、そのうちの1つ目、寄与分についてお話をします。

1 寄与分とは何か

  寄与分とは、共同相続人の一人が、被相続人の遺産の維持・増加に特別な貢献をした場合に、その共同相続人に通常の相続分よりも多くの遺産を承継させる仕組みです。
 たとえば、被相続人の生前、二女が、被相続人に豊かな生活を送ってもらいたいと思い、多額の支援・援助をしており、被相続人は二女の援助を受けて豊かな生活を実現できており、亡くなったときに二女が援助したお金が被相続人の遺産として残っていた場合を想定します。こうしたケースにおいては、相続手続に際し、二女の取得する財産を、通常の相続分よりも大きくしたほうが、公平の理念にかなうのではないか、という価値観が作用します。被相続人のために頑張った二女の取り分を多くしようという考え方に基づく仕組みが、寄与分です。
 これを要件としてまとめると、次の4つを満たす必要があります。

 ⑴共同相続人であること
 ⑵寄与行為が特別の寄与といえること
 ⑶被相続人の遺産が維持・増加していること
 ⑷寄与行為と遺産の維持・増加との間に因果関係があること

2 寄与分の類型

 過去の裁判例からすると、寄与分が認められるケースは次の4類型と言われています。実生活においては、類型を組み合わせた形での貢献も考えられます。

 ① 療養看護型

 被相続人の療養・看護・介護といった身体的・生活的支援を長期間にわたり、無償で提供した場合です。
 ただし、親族間には扶養義務(民法752条、877条)があるため、その範囲を超える「特別の寄与」(上記1の要件⑵)であったと認定されるには、通常を超える労力・時間・継続性が求められます。入院中の被相続人の見舞いをして身の回りの世話や雑用をしていたこと、通院時の送り迎えをしていたこと、被相続人宅の庭の手入れを季節ごとに行っていたこと等では「特別の寄与」として認められず、仕事を辞めて同居で10年間介護に専念したので介護職員を雇わずに済んで遺産が維持された場合など寄与分と認められる事案はかなり限定的です。また、そもそも療養看護が必要だったかの判断にあたっては、被相続人が「要介護2」以上であったことが目安とされています。

 ② 経済的寄与型

 被相続人の生活や事業に対して資金の提供を無償で行い、それによって財産の維持または増加に貢献した場合です。例えば、医療費や生活費の支援を長期間にわたり継続して行った場合や被相続人が取得する不動産の購入資金を援助した場合(住宅ローンを支払った場合)などです。
 資金の提供が貸付であった場合は寄与分としての評価はなされません。金銭提供の趣旨、継続性、目的の明確性などが寄与分認定において考慮すべき要素となります。

 ③ 家業従事型

 被相続人が営む家業(農業、自営業、商売など)に長期間、無報酬もしくは著しく低廉な報酬で従事した場合です。従業員を雇えば相応の人件費がかかる業務を身内が無償等で行っていた場合、その分の財産的利益が被相続人に残っていると評価されるということです。
 単に「手伝っていた」程度では、寄与分として評価をされません。そのため、業務の専従性、業務内容・程度、報酬の有無・額など、就労形態の具体性と経済的貢献を考慮することになります。

 ④ 財産管理型(不動産・金融資産の管理型)

 被相続人が保有していた財産(例:不動産、有価証券、預貯金等)を、相続人が無償で管理・維持して安定的な収益を確保したことにより、財産の減少を防ぎ、結果として遺産を維持・増加させた場合です。
 被相続人の代理人や受任者としての事務処理の範囲に留まる場合や報酬を受け取っていた場合は寄与分として評価をされません。被相続人の成年後見人として財産管理をしていた場合についても、公的な職務として行ったものですので、寄与分として評価されるのは難しいでしょう。

3 寄与分の算定方法

 次に、上記2で説明した寄与分の類型ごとに、裁判所がどのような計算方法で寄与分の額を決定しているのかについて、説明します。

 ① 療養看護型

 療養看護型については、療養看護のために第三者を雇ったとしたら、どのくらいの費用がかかったかということを想定しています。そのため、介護保険における介護報酬基準を参考に、被相続人との身分関係、被相続人の健康状態、療養看護をするに至った経緯、専従性の程度、寄与者が療養看護によって失った財産等を考慮して「裁量的割合」を裁判所は決定しています。
 付添介護人の日当額×療養看護日数×裁量的割合

 ② 経済的寄与型

 経済的寄与型については、出したお金が全て寄与分として裁判所が認めてくれるわけではありません。以下で「裁量的割合」としているのは、出したお金が被相続人の遺産形成にどの程度寄与しているかを、個別具体的な事情を勘案して調整されます。
 ・不動産を贈与した場合
 相続開始時の不動産価額×裁量的割合
 ・不動産を無償で貸した場合
 相続開始時の賃料相当額×使用期間×裁量的割合
 ・金銭を贈与した場合
 贈与金額×貨幣価値変動率(現在の貨幣(現金)価値に換算する)×裁量的割合
 ・不動産購入資金を援助した場合
 相続開始時の不動産価額×(出資金額÷取得当時の不動産価額)

 ③ 家業従事型

 家業従事型では、無報酬もしくは著しく低廉な報酬で行っていたことが要件ですので、以下の計算式で算出されています。
 通常得られたであろう年間の給付額×(1-生活費控除割合)×寄与年数-現実に得た給付
 「通常得られたであろう年間の給付額」は、相続開始時における、家業と同種同規模の事業に従事する寄与者と同年齢層の年間給与額(賃金センサスを参考)を基準にします。また、寄与者が被相続人と同居で家賃や食費等を支払っていなかった場合、被相続人から利益を得ていたとみなされ「生活費控除割合」に換算されます。少額であっても現実に給付を得ていた場合には、その分についても控除されます。

 ④ 財産管理型(不動産・金融資産の管理型)

 財産管理型の寄与分は、財産管理を第三者に委託した場合の報酬額を基準に算出します。具体的には、賃貸不動産の管理や修繕、売買契約の締結等を専門業者に委託した場合にかかる標準的な報酬額を基準に、個々の事案に応じて裁量的割合を考慮することになります。

4 寄与分の主張方法

    寄与分の主張をするには、まず当事者間で協議をすることになりますが、協議がまとまらない場合は、遺産分割調停の中で「寄与分を認めて欲しい」と主張することになります。寄与分に関する点のみを話しあう寄与分を定める処分調停の中で集中的に協議をすることも可能です。調停でも話がまとまらなかった場合には、自動的に審判手続に移行し、当事者の主張を踏まえて家庭裁判所が寄与分の有無や金額、割合等を決定することになります。
 寄与分を認めてもらうためには、証拠が必要です。類型ごとに考えられる証拠は次のようなものです。

 ① 療養看護型

 療養看護や看護費支出の事実が分かるもの(診断書、介護認定に関する書類、介護ヘルパーの利用明細、ヘルパーとの連絡ノート、介護日誌など)

 ② 経済的寄与型

 お金を出した事実が分かるもの(通帳の写し、振込通知書、不動産売買契約書、登記簿、カードの利用明細、家計簿など)

 ③ 家業従事型

 勤怠状況が分かるもの(タイムカード、職場の近所の方の証言、取引先とのメールのやり取りなど)、事業の状況が分かるもの(被相続人の確定申告書、税務署類など)

 ④ 財産管理型(不動産・金融資産の管理型)

     管理業務への従事や管理費支出の事実が分かるもの(メールのやり取り、通帳の写し、カードの利用明細など)

5 特別寄与料について

 上記1で説明したように、寄与分の要件として「共同相続人であること」が必要となります。被相続人と同居していた相続人の配偶者が長年にわたり被相続人の介護をしていたということもあると思いますが、残念ながら寄与分として評価することはできませんでした。
 この点の不公平を解消するために、令和元年の法改正により「特別寄与料」という制度が創設されました。これは、6親等内の血族・3親等内の姻族が療養看護やその他の労務の提供を無償でしていた場合、相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月、または相続開始の時から1年以内に、相続人に対して請求する権利を認めるものです(民法1050条)。当事者間の協議で解決できない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることもできます。
 特別寄与料の算定方法や主張方法は、寄与分の場合と同様になります。

 今回は、寄与分が認められる類型、その場合の算定方法や主張方法と、似た制度である特別寄与料について説明しました。
 相続人の貢献について共同相続人間で争いがなければよいのですが、寄与の有無・寄与の程度をめぐって、意見が分かれることも往々にあります。寄与分を主張できない他の相続人にとっては、自身の相続分を減らすことになりますし、特に療養看護の点については感情的な対立へと結びつきがちです。共同相続人間で意見が分かれた場合には、寄与分を認定できるのか、その評価をどうするか、といった点を判断するには、法律上の専門的な知見が必要になります。説得できるだけの証拠が十分か、という点も吟味しなければなりません。

 ニューポート法律事務所では、寄与分の主張を行う側、反対に他の相続人から寄与分の主張を行われた側、いずれについても豊富な経験がありますので、個々の実情にあった具体的なアドバイスを行わせていただきます。早期に一度ご相談ください。

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