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連載企画:「相続」について考えてみませんか⑥

 先週は、不動産の遺産分割協議についてお話をしました。今回の6つ目のテーマは、「遺産分割協議の進め方(預貯金編)」です。

 相続財産の中に預貯金があるということは、金額の多少はあると思いますがケースとして多いのではないでしょうか。銀行だけでなく、証券口座にも預貯金がある場合がありますので、漏れなく調べるようにしましょう。

1 亡くなったら預金口座は凍結される?

 被相続人が亡くなると相続が開始され、そのことを金融機関が把握すると、その時点で預貯金口座が一旦凍結されます。ここで「金融機関が把握すると」と記載したのは、現在、人が亡くなった時点で銀行口座が自動的に凍結される運用はされておらず、遺族などが金融機関にその人が亡くなったことを連絡するまで動いたままになっているということです。そして、金融機関が口座名義人の死亡を知った時点で残っていた預金の残高は、すぐには引き出せなくなります。預貯金も相続財産になるため、相続人の一部が勝手に引き出せると、抜け駆けが生まれてしまうおそれがあるからです。
 凍結された口座を解除し、払い戻しを受けたり解約したりするにはどうしたらよいか、以下、説明をします。

2 預貯金は遺産分割の対象

  預貯金も、前回お話しした不動産と同様に、遺産分割の対象となります。「わざわざ言わなくても、当然だろう」と思われるかもしれませんが、以前は、預貯金は法的には遺産分割の対象ではない、と考えられていました。
 つまり、預貯金は、法的に考えると金融機関に対する預金払戻請求権という金銭債権にあたります。そして、金銭債権である以上は、相続人同士でその権利を分けることができるため(可分債権といいます。)、相続の開始によって、当然に法定相続分割合で分割されて、各相続人に帰属するとされていました。例えば、相続人は配偶者と長男、長女の3人で、800万円の預貯金がある場合、配偶者は400万円、長男と長女はそれぞれ200万円ずつ単独で他の相続人の同意なく払い戻しを受けられると考えられていたのです。
 もっとも実務上は、相続人同士の紛争に巻き込まれることを嫌って、単独の払い戻しには応じてもらえない金融機関がほとんどでした。また、遺産分割の方法を定める際の調整に預貯金は便利ですので、相続人全員の合意の上で遺産分割の対象とすることも多くありました。
 そのような中、平成28年12月19日に最高裁判所が「預金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解する」とする判決を下し、従来の解釈が大きく変更されました。これにより、相続人全員の合意がなければ、法定相続分の範囲内であったとしても払い戻しに応じてもらえなくなりました。

3 遺産分割協議成立前の預貯金の引き出し

  上記2のとおり平成28年の最高裁決定を前提とすると、遺産分割協議を経ない限り預貯金の払戻しをすることができず、生活費や葬儀費用などの支払いが生じた場合などに不都合が生じることになってしまいます。相続人間で争いが生じてしまった場合、遺産分割が完了するまでには相当長期間を要する場合もあり、その間、一切払い戻しができないとなると特に被相続人の収入で生活をしていた家族にとっては死活問題です。
 このような不都合性を解消するため令和元年の相続法改正によって新たに導入された制度が「預貯金の仮払い制度」(民法909条の2)です。この制度は、遺産分割協議が成立する前であっても金融機関で所定の手続きをとることで、次のいずれか低い金額までであれば、各相続人が他の相続人の同意を得ることなく預金の仮払いを受けることが可能とされています。

① 相続開始時点におけるその金融機関の預貯金残高×その相続人の法定相続分×3分の1
② 150万円

 この上限額の設定は金融機関ごとですので、複数の金融機関に預貯金口座がある場合には、金融機関ごとに預貯金の仮払い制度を利用することも可能です。
 上記1のとおり、遺族などが金融機関に届けない限り口座凍結がされないのであれば、動いている間にキャッシュカードを使って引き出したらよいとも考えられます。しかし、キャッシュカードは金融機関の約款により、原則として本人以外の使用が禁じられています。また、相続人の一部が故人のキャッシュカードを使って無断で預金を引き出した場合、他の相続人から使い込みなどを疑われて大きなトラブルに発展するおそれがあります。そのため、たとえ暗証番号を知っていたとしても、被相続人のキャッシュカードを使った預金の引き出しは避けた方がよいでしょう。

4 預貯金の遺産分割方法

  預貯金を遺産分割する方法には、①口座を解約して、分割した預貯金を振込で受け取る方法と②預金口座ごとに相続して、名義変更する方法があります。

 ① 口座を解約して、分割した預貯金を振込で受け取る

 被相続人(亡くなった方)の口座を解約して、分割した預貯金を振込で受け取る方法です。この分割方法は、法定相続分や遺産分割協議の内容に応じて現金を分けることができますので、公平な分割を実現することができます。
 例えば、相続人は配偶者と長男、長女の3人で、800万円の預貯金がある場合、法定相続分通りに分ける場合は、配偶者が400万円、長男と長女はそれぞれ200万円ずつを分割することになります。金融機関に被相続人名義の口座は解約を依頼し、それぞれ相続人名義の口座に振り込んでもらいます。
 ただし、中には、払戻しを受けた後の現金を、各相続人の取得分に応じて個別に送金することには対応していない金融機関もあります。このような場合は、代表となる相続人を決め、この代表相続人が一旦全額を受け取ったうえで、代表相続人から各相続人にそれぞれの取得分を振り込んでもらう必要があります。

 ② 預金口座ごとに相続して、名義変更する方法

 2つ目の預貯金の分け方は、預金口座ごとに相続をして、それぞれが口座を名義変更して自分の口座に切り替える方法です。振り分けられた相続人が、各自で払戻しの手続きをすることになるため、代表相続人に負担をかけることがなくなります。
 しかし、預貯金口座によって通常は残高が異なるため、相続人間に取得金額の不平等が生じてしまう可能性があります。もし相続人間の不平等が問題になるようであれば、現金など、預貯金以外の相続財産によって調整することなどの方法を併せて採ることも検討しましょう。

 今回は、預貯金の遺産分割を行う場合の分割方法と、そもそも預貯金は遺産分割の対象になるか、分割前の引き出しは可能かという点を説明しました。
 被相続人の資産や収入をもとに生活していた相続人にとっては、遺産分割協議が長期化して預金が引き出せない期間が続くことは死活問題ともなりかねないでしょう。

 ニューポート法律事務所では、相続人間で問題になった後だけでなく、預貯金を含む財産の調査や相続の手続きなど、トラブルを未然に防ぐようにお手伝いすることができます。遺産分割でお悩みの方は、早期に一度ご相談ください。

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