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連載企画:「相続」について考えてみませんか⑤

 先週は、相続財産の調査方法についてお話をしました。今回の5つ目のテーマは、「遺産分割協議の進め方(不動産編)」です。

 相続人の調査(連載企画③)と相続財産の調査(連載企画④)が完了したら、具体的な遺産の分け方の話し合いを開始します。この遺産分割協議は、相続人が全員参加しなければなりません。
 遺産分割の方法は様々です。法定相続分に従って形式的に割り振っても良いですし、法定相続分を全く考慮せずに相続財産の割り振りをすることも、相続人全員が合意すれば問題ありません。
 相続財産の中に不動産がある場合、遺産分割協議は難航しやすい傾向にあります。それは、不動産は現金や預金のように、1円単位で平等に分けることができないためです。また、現に不動産を使用している相続人は「そのまま住み続けたい」と思うでしょうし、不動産を使用していない相続人からは「売ってお金で分けたい」という意見が出ることもあり、分け方や処分方法で意見が分かれやすいものです。さらに、不動産をいくらと評価するかについても様々な考え方があり、どの基準で評価するかが決まらずにトラブルに繋がりやすいといえます。
 以下、不動産の分割方法や評価方法等について説明します。

1 4つの分割方法
 不動産の分割方法には、(1)現物分割、(2)代償分割、(3)換価分割、(4)共有分割の4つの方法があります。それぞれについて、詳しく説明してきます。

(1)現物分割

 相続財産の形状・性質を変更することなくそのままの状態で相続する遺産分割方法を、現物分割といいます。
 たとえば、土地を特定の相続人が1人で相続したり、土地を法定相続分割合と同じ割合に分筆して複数に区分けされた土地を各相続人がそれぞれ取得するものです。もっとも、建物は分筆することができませんので、建物が建っている土地を現物分割する場合には、建物を解体しなければなりません。また、敷地面積の最低限度基準が定められている自治体もあるため、分筆自体ができないということもあります。
 現物分割は、相続手続きが簡単で分かりやすいというメリットがあります。誰か1人が相続するなら、その人名義に相続登記をすれば手続きが完了するためです。
 現物分割のデメリットとしては、公平に分けにくいという点が挙げられます。誰か1人だけが不動産を独り占めしてしまうと、他の相続人からは不満が出て遺産分割協議がまとまらなくなる可能性が高くなります。また、土地を分筆した上でそれぞれ取得するとしても、土地の形状や接道条件などの諸条件によって、分筆後の土地の資産価値に差が出るということも考えられます。土地を細分化することで、土地の活用方法が限定されてしまうということもあるかもしれません。

(2)代償分割

 相続財産を特定の相続人が現物で取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う遺産分割方法を、代償分割といいます。
 たとえば、相続人は妻と子供2人の計3人、相続財産は評価額1500万円の土地・建物のみの場合に、妻が単独で土地・建物を相続することにした場合、妻から子供2人に対してそれぞれ500万円の代償金を支払い、結果としてそれぞれが500万円相当の相続財産を取得したことになるというものです。
 代償分割は、相続人間の金銭的な公平・清算を図ることができるというメリットがあります。分筆できない土地でも建物でも公平に分割できる方法でもあります。
 代償分割のデメリットとしては、不動産を取得する相続人に「支払能力」が必要となる点が挙げられます。代償金を支払わねばならないので、資金がないと代償分割できません。また、代償金を計算するときに、不動産の評価も問題となります。   

(3)換価分割

 不動産の全部または一部を売却して現金化したものを、相続人間で分配する遺産分割方法を換価分割といいます。相続人たちが協力して不動産を売って諸経費を差し引き、手元に残った金額を法定相続割合に応じて分配することになります。
 換価分割は、売却代金を配分する点で公平感を保ちやすいというメリットがあります。不動産の評価で揉めるということもありません。売った代金で相続税を支払えるということも挙げられます。
 もっとも、価値があると認められなければ購入者が見つからなかったり、評価額を大幅に下回る価額でしか売却できない可能性もあります。売却の仲介手数料や測量費用などの支払いにより、思ったよりも手元に現金が残らなかったということもありえます。そもそも、被相続人から受け継いだ土地建物を失ってしまうことに抵抗感を感じる方もいると思います。

(4)共有分割

 不動産を複数の相続人で共有して相続する方法を、共有分割といいます。相続人の相続分割合に応じて共有持分を取得し、そのまま全員で共有状態にするのが一般的です。
 法定相続分に応じて不動産を共有取得するため、公平感のある遺産分割方法ではあります。
 もっとも、共有状態の不動産は、一人ひとりの共有持分権者は、自由に管理処分できません。不動産の処分行為(リフォーム、売却等)には共有者全員の同意が必要となってしまうのです。また、共有持分権者が死亡して次の相続が発生したときには、さらに共有持分が細分化されて「誰が権利者かわからない状態」になってしまうケースも少なくありません。

2 どの分割方法を選ぶべきか
 以上の4つの分割方法のうち、どれが適しているかは事案ごとに異なります。

(1)相続財産が広大な土地の場合

 建物のない広大な土地が相続財産に含まれる場合、現物分割を選択肢として考えることができます。分筆した場合でも、それぞれの土地の面積が一定程度以上あるのであれば、資産価値の大幅な下落は避けられるでしょう。もっとも、土地を分筆する場合には、接道条件や形状・立地条件などの条件について、慎重に協議するようにすべきです。
 建物がある場合でも、解体をするのであれば現物分割も可能ですが、解体費用の負担が発生する点に注意が必要です。

(2)相続人の誰かが居住を希望する場合

 相続人のうちの誰かが不動産に居住することを希望する場合は、代償分割がおすすめです。特定の人が不動産を取得し、他の相続人は不動産以外の預貯金などを相続することで、居住環境の維持を実現することができます。
 もっとも、不動産以外の相続財産がほとんどない場合は、不動産を取得した相続人はその他の相続人に対して代償金を支払わなければならず、それだけの資金力があるかが問題となります。支払うだけの資力を有していない場合は、換価分割にして今後の生活費を確保する等の方法を検討するべきでしょう。

(3)不動産を手放しても良い場合

 不動産を手放すことに相続人が賛成の場合は、換価分割が最も適しています。不動産を有効活用する予定がないのであれば、固定資産税や維持費・修繕費のコスト面を考えても、不動産を手放すことを考えることになるでしょう。

(4)共有分割はおすすめできない

 1記載のとおり、共有分割は公平感のある方法ですが、可能な限り避けた方が良いといえます。遺産分割の問題を、将来(次の世代)に先送りすることになってしまいます。

3 不動産の評価方法
 不動産の資産価値の評価方法としては、主に4つの評価方法があります。遺産分割における不動産の評価方法には決まりがなく、相続人同士で納得をして決めればどの評価方法でも法的には問題ありません。

(1)実勢価格(時価)

 不動産が、実際の売買市場で取引されるときにきまる成約価格のことです。不動産鑑定士による鑑定と不動産業者による査定の2つが考えられます。
 不動産鑑定士による鑑定は、売手・買手のいずれにも偏らない客観的な評価であるのため、全ての相続人が納得しやすい評価方法であるといえます。最も数十万円の鑑定費用が必要になることもあり、費用負担をどうするかが問題となります。
 不動産業者による査定は、物件の取引事例や売り出し事例を参考に、個別要因を加味して算定されます。売手の希望価格や不動産業者の売却希望物件の価格が含まれるため、不動産業者によって査定結果にばらつきが生じます。そのため、数社の査定を取得して平均する場合もあります。

(2)地価公示価格

 国土交通省が公表する毎年1月1日時点における全国の標準値における地価のことです。1箇所について2名以上の不動産鑑定士が調査を行い、国土交通省の土地鑑定委員会がその結果を審査して最終的な公示地価を定めています。
 公示価格は、(1)実勢価格(時価)の9割程度が目安とされています。

(3)相続税評価額

 相続税を計算するときの財産価値のことで、相続税法及び国税庁の通達で定められています。
 都市部などは毎年国税庁が発表する路線価図(道路に面した1㎡あたりの価格)を基に算定する路線価方式と、路線価が定められていない都市郊外について固定資産税評価額に所定の倍率を乗じて算定する倍率方式の2つがあります。
 相続税評価額は、(1)実勢価格(時価)の8割程度が目安とされています。

(4)固定資産評価額

 固定資産税課税台帳に記載された土地・建物の評価額であり、固定資産税・都市計画税の基準になる価格をいいます。その不動産が所在する市町村役場または都(府・県)税事務所で固定資産評価証明書を取得することで確認できます。
 固定資産評価額は、(1)実勢価格(時価)の7割程度が目安とされています。

 今回は、不動産の遺産分割を行う場合の分割方法と、その前提としての不動産の評価方法について説明しました。相続財産に不動産が含まれている場合、相続人同士の話し合いでは議論が前に進まず、いつまでも遺産分割が実現しないということにもなりかねません。
 どの不動産分割方法が適切かは、相続をめぐる状況や相続人それぞれの置かれた状況も総合的に考慮する必要があります。また、税理士や不動産鑑定士、土地家屋調査士などのサポートが必要な場面も出てきます。遺産分割協議が成立した後には、司法書士による相続登記も必要になります。
 

  ニューポート法律事務所では、ご相談者の希望や置かれた状況、他の相続人の状況を考慮し、メリット・デメリットを丁寧に説明した上で適切な不動産分割方法をアドバイスしています。不動産の遺産分割で困った場合は、一度ご相談ください。

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