先週は、誰が相続人になるのかについてお話をしました。今回の4つ目のテーマは、「相続財産ってどうやって調べるの?」です。
相続人が誰かということと並行して、亡くなった人の遺産(相続財産)がどれだけあるかを調査しなければなりません。
相続財産調査は、遺産分割協議や相続放棄の判断、相続税申告を正しく行うために必ず行わなければいけません。
遺産分割をしてから新たに不動産や有価証券などの遺産が出てきた場合、再度遺産分割協議を行う必要があります。反対に、被相続人の借金などが後から発覚したら誰がどれだけそれを負担するのか話し合わなければなりません。
遺産の評価額が基礎控除の金額を超える場合、相続税の申告と納付をしなければなりません。相続税申告の際、漏れがあると申告漏れとなって高額な加算税がかかるリスクも発生します。
調査の結果、プラスの相続財産よりも借金などマイナスの相続財産のほうが多い場合、相続を放棄してしまったほうがいいこともあります。こちらの記事でお話ししたとおり相続放棄の熟慮期間は相続の開始を知ってから3か月ですので、相続財産調査は3か月以内に済ませるべきです。
以下、相続財産調査の基礎知識や調査方法等について説明します。
1 相続財産の範囲
まず、どのようなものが相続財産となるのかを把握し、プラスの相続財産とマイナスの相続財産に分けておく必要があります。
(1)プラスの相続財産
① 預貯金、現金
② 株式、投資信託、仮想通貨やFXの資産(デジタル資産)
③ 不動産(土地、家屋、建築物)
④ 自動車
⑤ 借地権などの権利
⑥ 貸付金
⑦ 宝石や絵画、骨董品などの動産類
⑧ 知的財産権(著作権など)
⑨ 事業用財産(農耕具など)
⑩ ゴルフ会員権
(2)マイナスの相続財産
① 借金(キャッシング、カードローン、各種ローン、個人からの借り入れ)
② 連帯保証債務
③ 未払い税
④ 未払い家賃
⑤ 未払いの光熱費、通信費
⑥ 損害賠償債務
2 相続財産調査の方法
(1)預貯金や現金の調査
金融機関を特定するために、被相続人の所持品から手がかりを見つけましょう。自宅内のタンスや引き出し、仏壇に、預貯金通帳や証書だけでなく、現金(いわゆるタンス預金)が保管されている可能性があります。最近ではネット銀行を利用しているケースもよくあります。通帳などの所持品から把握しきれないケースもあるので、パソコンのお気に入りサイトや利用履歴、メールなども調べてみてください。
金融機関が特定できたら、相続発生時の残高証明書の発行を請求しましょう。残高証明書は相続税申告の際にも必要となります。なお、残高証明書の取得は、相続人の1人からでも請求できます。金融機関ごとに若干異なりますが、少なくとも被相続人が亡くなったことが記録された戸籍(除籍)謄本、手続きをする人が相続人であることがわかる戸籍謄本は必ず必要になります。事前に手続きをする金融機関に電話をして確認しておいたほうがよいでしょう。
通帳の記帳や取引明細書の取得をして、取引の相手先を確認することも必要です。これにより、貸金庫の使用料の支払い、毎月借金やローンの返済、誰かからの振込などが確認できるため、財産調査に役立ちます。
(2)株式や投資信託の調査
株式を探したい場合には、どこの会社の株式かを特定しなければなりません。証券会社から届いている書類があれば、調べてみましょう。近年は、ネットの証券会社で取引をする方も増えていますので、メールの履歴も確認してみましょう。
取引している証券会社がわかれば、その証券会社へ情報照会をして銘柄と株数を確認し、残高証明書の発行を依頼しましょう。
取引先の証券会社がわからない場合、証券保管振替機構に情報照会すると、被相続人の口座の開設先を確認できます(ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合 |証券保管振替機構)。
(3)不動産の調査
不動産を所有している場合、固定資産税の納付書が届くのが一般的です。自宅などに不動産の権利証、登記識別情報通知書、全部事項証明書などが保管されていることもあると思います。
被相続人が多数の不動産を所有している場合や共同不動産がある場合は、自治体で名寄帳(固定資産税課税台帳)を取得しましょう。複数のエリアで不動産を所有している場合は、各自治体で名寄帳を取得する必要があります。これにより、納付すべき税額が発生していない(非課税)不動産がある場合も把握することができます。
(4)自動車の調査
車内に車検証が保管されていると思いますので、ダッシュボードなどを調べてみてください。車検証上の所有者がカード会社等の業者である場合、自動車ローンの残高がある可能性があります。業者に連絡をして、残ローンの金額を確認するようにしましょう。
(5)その他のプラス財産の調査
貴金属や高級品は、自宅の金庫や貸金庫に預けているケースがあります。自宅の金庫がどうしても開けられない場合は業者に相談してみてください。
骨董品や絵画なども相続の対象となります。換価性が高いものはリスト化し、それぞれの鑑定を依頼しましょう。
(6)借金の調査
被相続人の死後に債権者から督促状が届くことも多いため、まずは郵便物を確認することが重要です。自宅内に、借用書や金融機関への振込証が残っていることもあります。
また(1)に記載したように、通帳や取引履歴にて引落しや振込の履歴を確認することも役に立ちます。死亡直前まで引落が続いている場合、借入残高が残っている可能性があるため、カード会社等の業者に照会してみましょう。
返済が滞った場合、被相続人の携帯電話に債権者から電話があったり、ショートメッセージが届くということもあります。留守電の有無やメッセージ履歴も確認してみましょう。
以上の調査から、被相続人が何件かの借入をしていた場合、他にも借入があるかどうかを信用情報機関に問い合わせて確認することも重要です。郵送等での問い合わせが可能ですので、開示してもらいましょう。
・(一社)全国銀行協会・個人信用情報センター
本人開示の手続き | 全国銀行個人信用情報センター | 一般社団法人 全国銀行協会
・株式会社シー・アイ・シー
情報開示とは|指定信用情報機関のCIC
・株式会社日本信用情報機構
日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関
(7)連帯保証債務の調査
連帯保証債務は非常に調査が難しいものです。主債務者がきちんと支払っている限り、被相続人が払うことはなく督促もこないためです。また個人間の貸し借りも、振込ではなく現金で支払っているケースも多くあります。
被相続人が事業者だった場合は、他人や経営会社などの連帯保証人になっていたり、事業資金のため個人から借入をしているケースもありますので、自宅に手がかりが残されていないか、慎重に調査しましょう。
※ 返済の約束はしない!!
(6)及び(7)の調査の際に、返済の約束はしてはいけません。相続放棄をする可能性や、債務が時効により消滅している可能性があるためです。単に「遺産の調査をしている」とだけ伝えるようにしましょう。
3 遺産目録の作成
遺産の整理が終わり、評価も完了したら、遺産目録を作成しましょう。
決まった書式はありませんが、遺産の情報を整理するために、財産の特定ができること、評価額の根拠や資料を示すこと、を意識して作成すると、その後の協議等で非常に便利です。
裁判所のホームページにある書式と記載例を活用するのが良いと思います。
以上で相続財産調査は終了です。時間をかければ相続人自身ですることもできますが、労力の大きい作業です。特に、被相続人に遺産が多い可能性がある場合、遺産に不動産が含まれる場合、被相続人が事業をしていた場合などは、相続財産調査の範囲や作業が多岐に渡り、大きな負担となる可能性があります。また、漏れなく行う自信がない、平日に役所や銀行の手続きをするための時間確保が難しい、相続放棄まで時間的余裕がないという方も、弁護士等の専門家に相続財産調査を依頼することがお勧めです。
ニューポート法律事務所では、相続財産調査のみを依頼いただくことも可能です。また、遺産分割協議をご依頼いただく場合、前提となる相続財産調査も一括して対応をしています。ぜひ、お気軽にご相談ください。