先週は、相続開始後の5つの期限についてお話をしました。今回の3つ目のテーマは、「相続人となるのは誰?」です。
被相続人の死亡により相続が開始した場合、まず最初に確認しなければならないのは、「誰が相続人なのか」ということです。
相続の場面では、被相続人が意外なところで婚姻歴や離婚歴があったり、認知や養子縁組をした子供がいたりという例もあり、その人の存在自体を知らなかったというケースもあります。こうした相続人の確認漏れが起きると、せっかく時間をかけて話し合った遺産分割協議が無効となってしまいますので、相続を円滑に進めるために不可欠な工程です。遺産分割協議の前に、相続税の申告前に、相続放棄を検討する前に、まずは正確な相続人調査を行いましょう。
なお、相続人調査のための書類の多くは、遺産の名義変更や解約手続きでも必要となります。そのため、実際には相続人調査という意識はなく、「銀行に必要だと言われたから」、「保険会社に提出しないといけないから」等の理由で相続人調査をしていることも多いと思います。
以下、相続人調査の基礎知識、どこまで調べるかや具体的な調査手順について説明します。
1 法定相続人とは誰か
まず民法上の法定相続人の範囲と順位を理解する必要があります。ルールは次のとおりです。
① 配偶者は常に相続人
② 第1順位:子(実子のみならず養子・認知された子も含む)
③ 第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
④ 第3順位:兄弟姉妹
第2順位、第3順位は、上位順位の相続人が誰もいない場合にのみ相続人となります。つまり、被相続人に子がいる場合、父母や兄弟姉妹が相続人になることはありません。
また、被相続人より先に、上記ルールに従った相続人が死亡している場合、死亡した相続人の子(第1順位の場合は孫、第2順位の場合は甥姪)が相続人となります。これを、「代襲相続」といいます。代襲相続は、相続人が「相続廃除」や「相続欠格」に該当する場合でも発生しますが、一般的には相続人死亡のケースかと思います。
2 相続人調査の進め方
① 被相続人の死亡から出生まで連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍を取得する
まずは、被相続人の最後の(死亡時の)本籍の戸籍謄本を取得します。最近は、免許証にも本籍の記載がないので、被相続人の本籍が分からない場合も多いと思います。その場合は、本籍付の住民票(除票)を取り寄せて、被相続人の最後の本籍を確認します。
死亡時点の戸籍謄本を入手したら、従前の本籍地を確認した上で、一つ前の書類を集めるというように、一つずつ順に遡っていく必要があります。入手した書類を時系列で並べ、兄弟姉妹がいるか、認知された子がいないか、既に死亡した子に代襲相続がないか、を確認していかなければなりません。慣れていない方にとっては、古い除籍謄本・改製原戸籍を読み解くのは非常に負担が大きい作業かと思います。
② 相続人全員の現在の戸籍謄本を取得する
相続人全員の現在の戸籍も、①と並行して集めていく必要があります。他の相続人の協力を得られるのであれば、それぞれの相続人に取得してもらうのが簡易でしょう。
もし相続人の中に所在不明や連絡が取れない人がいる場合は、①の被相続人の戸籍謄本を辿って、相続人の現在の戸籍謄本を取得しなければなりません。
③ 第3順位の場合、被相続人の父母の死亡から出生までの連続した戸籍謄本等を取得する
相続人が第3順位の場合、被相続人の父母及び祖父母の戸籍も収集しなければなりません。被相続人の兄弟姉妹は、被相続人の父や母の子どものため、被相続人の兄弟姉妹を漏れなく把握するためには、被相続人の父や母の子どもが誰か(何人いるか)を把握する必要があるためです。
【戸籍の種類について】
戸籍簿は、姓が同じ夫婦と未婚の子を単位に編成されています。戸籍には次の種類がありますので、請求の際には間違えないようにしましょう。
・戸籍謄本(戸籍全部事項証明):戸籍簿の全員に関する情報が掲載されたもの
・戸籍抄本(戸籍個人事項証明):戸籍簿の一部の人に関する情報が掲載されたもの
・除籍謄本:戸籍簿から、構成員全員が死亡や婚姻などで抜けて戸籍が閉鎖されたもの
・改製原戸籍謄本:戸籍のコンピュータ化や法改正によって戸籍が作り変えられることにより閉鎖されたもの
【戸籍証明書等の広域交付について】
令和6年3月1日から、戸籍証明書等の広域交付が始まり、最寄りの市区町村で戸籍謄本等を請求できるようになりました。これにより、欲しい戸籍の本籍地が全国各地にあっても、1箇所の市区町村の窓口でまとめて請求できるようになりました。
しかし、兄弟姉妹や叔父・叔母などの戸籍謄本を請求することはできず、郵送や代理人による請求もできません。請求者本人が窓口に出向いて行う必要がありますが、この制度により、必要な戸籍を集める負担が大きく軽減されるようになったと思います。
この制度、弁護士や司法書士等の専門家が利用する「職務上請求」にも利用できると大幅な効率アップになり非常に助かるのですが、残念ながら職務上請求では使えない制度です。
3 相続人の所在調査
2で相続人が誰かということが分かったら、次は相続人と連絡を取らなけばなりません。相続人の住所が分からない場合は、相続人の現在戸籍の附票を取得するようにします。戸籍の附票は、その本籍地における住民票の異動履歴が記載されていますので、最新の住民票上の住所が判明します。
ここで「住民票上の住所」と記載したのは、実際に相続人が住んでいる居所とは限らないということです。引っ越した場合には14日以内に住民票の異動しなければならず、怠った場合は5万円以下の過料となると定められています(住民基本台帳法52条)。しかし、実際には引っ越し後も住民票の異動手続を行っておらず放置している方もいます。
その場合、附票にある異動履歴から親族や同居の家族をたどり、居所不明者の情報を集めていく必要があります。どうしても相続人の行方が分からないという場合は、失踪宣告制度(民法30条)が利用できないかを検討することになります。
今回は、相続開始後にまず行うべき相続人調査について説明させていただきました。相続人調査では、複雑な事例では2~3か月以上かかることも珍しくありません。前回お話しした5つの期限も意識しながら、早めに着手するのが得策です。
相続人調査は、自分で行うことも可能です。しかし、相続人が誰なのか分からない場合(被相続人と生前にほとんど音信が無かった等)、連絡の取れない相続人がいる場合、被相続人が市区町村をまたぐ転籍を繰り返している場合、相続人が兄弟姉妹(甥姪)である場合、などは相続人調査が大変になる傾向にあります。また、平日に役所に出向いたり、郵送手続きを行うことが必要となるため、仕事をしながら進めるには大きな負担になると思います。
ニューポート法律事務所では、相続人調査のみを依頼いただくことも可能です。また、遺産分割協議をご依頼いただく場合、前提となる相続人調査も一括して対応をしています。ぜひ、お気軽にご相談ください。