先週は、相続が発生する前の準備事項として、遺言書についてお話をしました。今回の2つ目のテーマは、「相続開始後、いつ、何をする?」です。
近しい人が亡くなった場合、悲しみに暮れて日々を過ごすこともあると思います。ただ、相続に関する事柄は、意外と急いで動き出さないと、法律で定められた期間が過ぎてしまうということもあります。
「被相続人の死亡」による相続の開始(民法882条)後は、3か月、4か月、10か月、1年、3年という5つの期限に注意してください。以下それぞれについて説明します。
1 相続放棄・限定承認の熟慮期間
相続の方法は、借金など負の財産も含めて全て相続する「単純承認」、全ての財産を放棄する「相続放棄」、プラスの財産の範囲で借金など負の財産を背負う「限定承認」の3つの方法から選ぶことができます。
そして、「相続放棄」と「限定承認」については、法律上、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」と規定されています(民法915条1項)。特に、限定承認を行う場合には、手続が煩雑となりますので、早めに動き出すことが肝心です。
この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、いつを指すのかというと、かなり古い判例ですが、「①相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつ、②そのために自己が相続人となったことを覚知した時」を指すと判断されています(大審院決定大正15年8月3日)。①について、相続人と被相続人の関係が近しいものであれば、亡くなったことをその日に知ることになると思いますので、被相続人の亡くなった日が、相続放棄・限定承認の熟慮期間の起算日になるのが通常です。②については、前順位の相続人が相続放棄をして次順位の方が相続人になった場合を想定しています。
例外的に、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、「信ずるについて相当な理由があると認められるときには、」「熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算すべきものと解するのが相当である」と判断した判例もあります(最高裁判所判決昭和59年4月27日)。負債がないと信じていたら実は莫大な負債があることが判明した、という場合にも救済される可能性が残されていることになります。
なお、3か月以内に財産を調べきれず、相続放棄や限定承認をする可能性がある場合は、例外的に、期間を伸長することを請求することも考えられます(民法915条1項ただし書)。3か月の期限がくる前に家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てる必要がありますので、何にせよ早めに動き出さなければなりません。
2 準確定申告
被相続人の所得税の精算を行い、申告・納付する手続を「準確定申告」といいます。被相続人の亡くなった年の1月1日から死亡日までの収入や所得、当てはまる控除などの準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行わなければなりません(所得税法124条、125条)。
準確定申告は、全ての相続で行わなければならないというものではありません。例えば、収入が給与収入のみの場合は、勤務先が年末調整を行ってくれますので、準確定申告は不要です。一方、被相続人に事業所得や不動産所得などがあり、毎年確定申告をしていた場合には、この準確定申告は必ず行わなければなりません。公的年金のみで年間400万円以下であれば申告義務はありませんが、準確定申告をすることで所得税が還付されることもありますので、検討する価値はあります。
3 相続税の申告・納付期限
相続税がかかる場合には、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に相続税の申告・納付をしなければなりません。10か月の申告期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税が課されるリスクがあります。特に、財産規模が大きければこのペナルティも高額になってしまいますので、期限内に申告・納税することが重要です。
相続税の申告には、戸籍関係はもちろん、不動産登記簿・固定資産税評価証明書、金融機関の残高証明書・利息計算書・取引履歴、株式の残高証明書・配当金支払通知書・取引明細書、生命保険の支払通知書など多くの書類を準備する必要があります。相続財産が預貯金や上場株式など評価が明確な資産のみの場合、不動産が少ないまたは評価額が明確な場合などは、ご自身で調べながら自分で申告書を作成する方も多いと思います。国税庁のホームページには、申告書の記入例や記載要領もあり、それらを参考にしながら進められると良いでしょう。一方、相続財産に複数の不動産や事業用資産、非上場株式などが含まれる場合、小規模宅地等の特例など各種特例の適用を検討する必要がある場合などは、税理士に申告手続を依頼する方が多いのではないでしょうか。税理士に依頼して相続税の申告を行う場合、相続開始から4か月後ころには税理士を探して相談しておきたいところです。
もし、遺産分割協議がまとまらない場合でも、相続税は10か月以内に申告・納付しなければなりません。その際は、法定相続分で相続したものとみなして相続税額を計算するため、相続税の負担を軽くする配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えなくなってしまいますので、注意が必要です。
4 遺留分侵害額の請求権の行使
相続人に最低限確保されている遺産の取得割合を「遺留分」といいます(民法1042条)。その具体的な説明はまた別の回で行いたいと思いますが、遺言などで遺留分を侵害された場合、配偶者、子、父母(または祖父母)には遺留分を請求する権利が認められています。兄弟姉妹には遺留分はありません。
この点について、法律上、「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始のときから10年を経過したときも同様とする。」と規定されています(民法1048条)。この「行使」とは訴訟提起に限られず裁判外の行使も有効ですが、のちに争いになるリスクを考慮して、内容証明郵便で行使の意思表示を行うのが良いでしょう。
5 相続登記
最近の相続手続の改正ポイントとしては、令和6年4月1日から相続登記が義務化されたことです。以前は、登記簿の権利部の登記は任意とされていたため、申請期限が設けられていませんでしたが、所有者不明の土地が増えたことへの対策として、相続によって不動産を取得した人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記を完了しなければならなくなりました。この義務は、令和6年4月より前に相続した不動産も対象で、その期限は令和9年3月31日とされています。もし期限までに登記義務を行わなかった場合、10万円以下の過料をかされる可能性があります。
相続登記が完了していない不動産は、相続人全員で共有しているという扱いになります。その相続人が亡くなると、不動産の持分が次の相続人に引継がれ、更に次の相続人に引継がれ・・・と権利関係が複雑になってしまいます。相続人間での遺産分割協議や調停等の法的手続も長期化する可能性がありますので、期限に間に合わせるためにも早めに動き出す必要があります。
今回は、相続開始後に行うべきタイムスケジュールと手続の概要について、説明させていただきました。相続については、複雑な法的問題が絡むことが多く、手間や時間がかかるものも多くあります。
ニューポート法律事務所では、税理士や司法書士と提携しており、全ての相続手続きに対応しています。相続開始後の時間的制約に注意し、ぜひお早めにお問い合わせください。