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連載企画:「相続」について考えてみませんか

 前回まで、会社法に関する連載企画を解説してきましたが、今回から、相続についての連載を始めさせていただきます。最初のテーマは、「遺言書って必要?」です。

 皆様は何か「終活」されていますか?「終活」という言葉が初めて使われたのは、平成21年の雑誌連載だったようです。翌年には新語・流行語大賞にノミネートされるなどして、世間一般にもこの言葉が広まりました。
 終活でやるべきこととして、エンディングノートの作成や生前整理など諸々あると思いますが、今回は「遺言書」のお話をさせていただきます。

1 遺言書のメリット

 遺言書は、亡くなったあとに自分の財産を自分の意思で処分する方法です。遺言書が無ければ、法定相続分に基づいて遺産分割協議を進めることになりますが、相続人同士で意見の衝突が起きることも珍しくありません。遺言書があることで、残された家族が遺産分割協議で揉めることを防ぐこともできます。
 また、相続人ではない方(内縁関係の人、生前お世話になった知人や団体など)に財産を渡したい、という場合も、遺言書がなければ実現困難です。

2 遺言書の種類

 遺言書には、大きく分けて公正証書、自筆証書、秘密証書の3つの種類があります。

① 公正証書(民法969条)

 公証役場で作成する遺言書であり、法律の専門家である公証人が確認し、作成後には原本を公証役場で保管してくれます。形式的な部分のみならず、内容面もチェックの上で作成されますので、遺言書が無効となるリスクはほぼありません。また、遺言書を紛失する心配もありません。
 デメリットとしては、公証人に作成してもらうための費用が発生する点です。また、事前に必要書類の提出をし、公証人と遺言書の内容を協議・修正しながら完成させますので、遺言書ができあがるまで時間を要します。
 なお、公証役場は公証役場一覧 | 日本公証人連合会で調べることができ、全国どこでも自由に選ぶことができますが、通常はご自宅近くが便利ではないでしょうか。

② 自筆証書(民法968条)

 遺言者が全文を手書きする遺言書です。気軽に作成でき、いつでも書き直せるというメリットがありますが、必ず次の5つのポイントを守る必要があり、有効・無効の争いが生じやすいデメリットがあります。

・本人が全文を手書きで書くこと(添付する財産目録以外)
 第三者による不正や偽造変造を防ぐため、全文を手書きしなければなりません。ただし、相続財産の目録はパソコンで作成したものでも良いですし、通帳の写しや不動産の登記事項証明書を添付することも認められるようになりました。

・作成日を記載すること
 よくある「1月吉日」という記載は認められません。

・氏名を自筆で書くこと
 住所は要件ではありませんが、人物を特定するためには入れるのが望ましいです。

・印鑑を押すこと
 名前の後に押します。認印でも構いませんが、しっかりと消えることのないように押さなければ、消えてしまった場合には無効になりかねません。

・訂正には印を押し、欄外にどこを訂正したか書いて署名すること(民法968条)
 また、紛失する心配や、相続開始後に不利な内容を見つけた相続人が破棄してしまうデメリットもありましたが、2020年7月から法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度が始まりましたので、この制度を利用することで安全性が高まります(制度利用には費用がかかります)。

③ 秘密証書(民法970条)

 遺言書の内容を秘密にしたまま遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらうものです。公証人が遺言書の封紙面を作成するので、②のデメリットである偽造変造を防ぐことができます。もっとも、公証人や遺言書の内容面には関与しませんので、②と同様に作成時にはご自身で気を配る必要があります。

3 どの遺言書の形式を選ぶべきか

 2のとおり、どの形式にもメリット・デメリットがあり、どの遺言書を作成すべきか悩まれることかと思います。
 資産が多い場合や不動産が複数ある場合は、相続人同士で意見の衝突が起こりやすい傾向にあります。その場合は、安全な①公正証書で作成することをお勧めします。
 資産が預貯金のみ等のシンプルな場合は、費用を抑えられる②自筆証書を検討しても良いと思います。ただ、自宅に保管することの心配(改ざんや紛失の可能性)がある場合は、法務局での保管制度を活用しましょう。

4 遺言執行者は必要か

 遺言書には、遺言執行者(遺言書の内容に沿って相続手続を実行する責任を持つ人)を明記しておくことができます(民法1006条)。遺言執行者は、財産の名義変更や分配、その他必要に応じた手続きを行うことができ、特に複数の相続人がいる場合や、不動産や預貯金、株式など多様な資産がある場合に、相続手続きをスムーズに行うことができるというメリットがあります。
 弁護士などの専門家を指定することもでき、相続人間で感情的な対立がある場合でも、遺言執行者が介入することで確実に遺言の内容を実行できるというメリットがあります。

5 作成時の注意点

 法定相続人には、相続財産から最低限得られる「遺留分」が法律上保障されており、遺言書でもそれを完全に無視することができません。せっかく後々の争いを防ぐために遺言書を作成したにもかかわらず、遺留分を無視してしまったために、結局相続人同士で争いが生じてしまうということも珍しくありません。遺留分を考慮した財産分配を検討するか、予め遺留分を放棄してもらう手続き(家庭裁判所の許可)を検討する必要があります。
 また、遺言書の作成後に財産状況や家族構成に変化があった場合は、遺言書の見直しの必要がないかを考えるべきです。遺言書を作成し直して複数の遺言書がある場合は、通常、一番新しい日付の遺言書が優先されます。もっとも、紛争の原因となることを防ぐため、古い遺言を撤回する旨を新しい遺言に明記した上で、古い遺言書は確実に破棄するようにするべきです。

 以上、遺言書について簡単に説明をしましたが、それぞれにメリット・デメリットがありますし、財産や相続人の状況によって選ぶ形式や記載する内容は様々です。「終活」も早い段階から始めるのが重要といわれていますが、遺言書も早い段階から準備することで後見制度の利用や遺言執行者の指定などもスムーズに行うことができます。

 ニューポート法律事務所では、相談者に最適な遺言書の作成をサポートさせていただきます。「遺言書を作成した方が良いのか」、「どんな遺言書を書けば良いのか」とお悩みをお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

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