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連載企画:「会社法」知ってますか?⑤

 今回が会社法に関する連載企画の最終回です。最後のテーマは「会社の計算」について解説してまいります。

1.会社の計算とは

 株式会社や合同会社といった会社の目的は、言うまでもなく営利です。営利すなわちお金を稼ぐためには、何が自社の強みで何が弱みなのか、どこかに削れる無駄がないか、限られたリソースを何に投入すべきなのか、などの判断を、適時適切に繰り返していかなければなりません。そのためには、お金や資産、負債といった財産の状態や収支の状況を正確に把握できることが必要不可欠です。また、自社の経営の観点だけならば財産や収支の把握がいい加減でも自己責任の範疇ではありますが、会社には利害関係者が沢山います。その代表が株主や金融機関です。会社が正確な情報を提供して初めて、オーナーである株主は株主総会での議決権など適切な株主権を行使することができます(会社経営者や管理職の方であれば、社員からいい加減な報告書や稟議書が上がってきたら…とご想像いただければ理解が早いかと思います。)。金融機関や投資家も同様で、経営状態に関する正確な情報がなければ与信や投資はできません。

 このような必要性から、会社法は、「第五章 計算等」という独立の項目と「会社計算規則」(法務省令)を設けて、会社の計算、つまり会計のことについて規定しているのです。

2.会社法における会計のルール

 実は、会社法では、会社の会計のルールそのものは決められていません。唯一、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う」とだけ規定されています(会社法431条)。会計には会計のルールがあり、時代によって考え方も変わる上、「公正妥当と認められる企業会計」のルールも複数有り得るため、それを全て法令でカバーするのは困難であることがその理由です。

 代表的な会計のルールとしては、公益財団法人財務会計基準機構に設置された企業会計基準委員会が定める企業会計基準(「財務会計」と呼ばれることもあります)と、税務申告をするに当たり参照される会計ルール(税務会計・租税会計)等があります。国際的に展開する企業の場合、「国際会計基準(IFRS)」への準拠が必要となることもあります。連結による決算を選択することもあります。このように、会計のルールも一つではないのです。中小企業の場合、税理士さんに依頼して、法人税・所得税確定申告と消費税申告をするために必要な会計処理を行い、このプロセスの中で作成される決算書をもって決算報告に用いるということが多いので、中小企業経営者の皆様にとっては、税務会計のルールの方がなじみ深いのではないでしょうか。

 会社法は、会計の細かな方法を決めていない代わりに、一般に公正妥当と認められている会計のルールに基づいて正確な会計を行うことを要求しています。そして、毎事業年度の終了後、「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「株主資本等変動計算書」「個別注記表」とこれらの附属明細書(これらを「計算書類」といいます。)を作成し、監査役設置会社では監査役の監査を受け、株主総会の承認を得なければなりません。また、これら計算書類は、定時株主総会の日の2週間前(取締役会非設置会社は1週間前)から5年間、会社の本店に備え置かなければならないとされています。 

 ところで、貸借対照表及び損益計算書とは別に、「キャッシュフロー計算書」という決算関係の書類があり、これら三種で「財務三表」と呼ばれることがあります。実際にキャッシュフロー計算書を作成されている企業も多いですが、キャッシュフロー計算書は会社法で作成が義務付けられてはいません。ただ、会社経営上キャッシュフローの把握は非常に重要であるため、作成義務がなくても作成することをお勧めします。

3.会計帳簿閲覧権

 会社法は、会社に対し、正確な会計帳簿を作成し、その会計帳簿の閉鎖の時から10年間保存することを義務付けています。この会計帳簿の保存義務は、上記の計算書類を5年間備え置かなければならないこととは別の義務です。

 また、総株主の議決権の3%以上の議決権又は発行済株式(自己株式を除く)の3%以上を有する株主は、会社に対し、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧・謄写(コピー)を請求することができます。ここでいう会計帳簿とは日記帳、元帳、仕訳帳等のことです。関連資料としては、伝票や、契約書も含まれることがあります。このような会計帳簿閲覧謄写権は、会社からの情報提供だけでは株主の権利保護には不十分な場合があることから認められているものです。

 株主がこの権利を濫用するおそれもあるため、一定の場合(例えば株主が競合他社である場合など)に閲覧謄写請求を拒否できる場合が定められていますが、このような事由に該当しない場合は、基本的に会社は閲覧謄写をさせなければなりません。正当な理由なく拒絶すると、裁判所が提出を命じることもできます。

 会社は、株主からいつ見られるかもわからないことを認識した上で、会計帳簿を作成する必要があります。

4.株主配当

 株式会社は営利企業として、発生した剰余金を株主に配当することができます。これは、一般・公益財団法人やNPO法人(特定非営利活動法人)、医療法人などといった法人と株式会社との決定的な違いと言えるでしょう。

 株主に対する剰余金の配当は、原則として株主総会普通決議をもって実施します。また、剰余金の配当は、会社法が定める「分配可能額」の範囲でしかすることができません。分配可能額の計算方法は、

 ①   分配時点における剰余金の額
 ② +)臨時決算をした場合の利益
 ③ +)臨時決算をした場合の自己株式の処分対価
 ④ -)分配時点の自己株式の帳簿価額
 ⑤ -)事業年度末日後に自己株式を処分した場合の処分対価
 ⑥ -)臨時決算をした場合の損失
 ⑦ -)その他法務省令で定める額

であり、分配時点における剰余金の額の計算方法は、

 ⑴   資産の額
 ⑵ +)自己株式の帳簿価額の合計額
 ⑶ -)負債の額
 ⑷ -)資本金・準備金
 ⑸ -)法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

です。細かいので覚える必要は全くありません。しかも、純資産額が300万円未満であると、配当は実施できません。また、配当を実施した場合、配当額の10分の1に相当する金額を、資本準備金又は利益準備金として計上しなければならないことになっています。これは債権者保護のため、一定の金額を内部留保させることを目的としています。

 何が言いたいかというと、剰余金を配当するに当たっては、厳格な財源規制があって、これをクリアしなければならない、ということです。尚、分配可能額を超える配当をした場合、その議案を提案した取締役は、会社に対して、配当を受けた株主と連帯して、配当された金額を支払う義務を負います。誤った配当をしたら、言い出しっぺの取締役が責任を取りなさい、ということです。

★総まとめ

 これまで約2か月近くにわたり、会社の設立から運営に関する根拠法である「会社法」に関する投稿をしてまいりました。ここで取り上げたテーマ以外にも、会社法に関する論点や押さえておくべき制度は膨大な量があります。

 企業のコンプライアンスの重要度がますます高まる昨今、そのコンプライアンス対策を効果的なものにするためにも、会社の仕組みや株主との関係を今一度整理し、これを適正化していくことが必要だと考えます。本稿が、会社経営者の皆様にとって、自社の体制をより改善していく契機となれば幸いです。

おわり

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