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連載企画:「会社法」知ってますか?④-2

6.取締役会

 取締役会とは、「取締役会設置会社」における意思決定機関です。

 本題に入る前に、株式会社の機関設計の話をします。

 旧商法では、株式会社の機関はほぼ固定されていました。どんな株式会社にも、必ず取締役が3人以上と、取締役のうち1名以上の代表取締役と、その取締役による取締役会と、監査役が1人以上いることが必要でした。自由度があるとしたら、複数の監査役による監査役会を置いたり、監査法人または公認会計士による会計監査人を置いたり、といったものでした。その会計監査人も、実際には法令の規定で設置を義務付けられた大会社等が設置する例が主でした。しかし、過去記事で解説したとおり、現行会社法が施行されてからは、株式会社が旧有限会社を取り込んだ結果、取締役は1名いればよく、取締役会と監査役・監査役会の設置は任意になるなど、機関設計の自由度が飛躍的に高まりました(但し、取締役会設置会社には監査役の設置が必要となるなどの縛りはあります。)。このため、昔からある株式会社には取締役会設置会社が今も多いですが、現在は取締役会を設置せず、取締役数名のみで監査役も不在という、ミニマムな機関設計の会社も多くなっています。取締役会設置会社だった会社が、頭数を揃えるための名ばかり役員がいても仕方がないということで、定款を変更して取締役会や監査役を廃止する例も少なくありません。

 さて、本題の取締役会です。取締役会とは、取締役会設置会社において、株主総会からの付託を受けて会社を経営する意思決定機関です。あれ?会社のトップは社長じゃないの?と思われた方もいらっしゃるかも知れません。確かに対外的なトップは社長(代表取締役)であり、誰の名前で契約などをするかと言われれば、代表権のある社長であることが通常です。しかし、こと重要度の高い意思決定については、取締役会設置会社では取締役会の合議によって決めなければならないことになっており、これが取締役会が意思決定機関である所以です。代表取締役は、取締役会の権限で選ばれた代表者、という位置づけになります。

 取締役会でなければできない意思決定の典型例が、「重要な財産の譲り受けや処分」、多額の借財(金融機関からの融資等)、重要な組織の変更などです。会社の行く末を左右しかねないような意思決定は、社長任せにせず取締役全員の責任で話し合って決めなさい、とされているのです。このような権限の制約は、例えば不動産売買契約書や子会社を売却するときなどの株式売買契約書に現れ、「内部手続をきちんと踏んで、取締役会議事録の写しを提出すること」という条文が加えられることがあります。

 取締役会に求められる役割は、特に近年重要度を増しています。「内部統制」「コーポレートガバナンス」という言葉を耳にしたことがある方は少なくない(むしろ会社経営者ならば必ず一度は聞いたことがある)はずです。ごく簡単に言うと、企業の経営を監視・統制して、株主、顧客、従業員、社会一般に対して会社経営の適法性、公正性、透明性を確保する仕組みを作りましょう、という意味合いです。ワンマン社長の鶴の一声で物事を決めるのではなく、取締役の相互監視のもとに公正な会社運営をすることが、現代ではどの会社にも求められています(当然ながらこれは単なる制約ではなく、そうすることで会社経営も中長期的に良くなる、という考え方がもとにあります。)。取締役会は、旧商法の時代から、取締役に担当業務の執行状況を報告させ、それを他の取締役が監視し、違法不当な行為をしないよう牽制し合うことを重要な役割とされてきました。その基本的な考え方はずっと変わっておらず、ただ現代に至り、更に重要度が増してきたというわけです。

 取締役会で議決すべき事項は多岐にわたります。株主総会の招集、代表取締役の選定、株主総会の特別決議を踏まえた新株発行の諸手続などが典型例としてあげられますが、当然ながらもっと沢山あります(ここでは割愛します)。取締役は、取締役会には出席義務を負い(現実には欠席も有り得ますが)、これは監査役も同様です。取締役会を招集するには、代表取締役等の招集権者が、原則として会日の1週間前までに書面やメールでしなければなりません。このような招集手続は、定例会のような方式を採っている会社ではあまり意識されませんが、経営陣の交代を目論む反主流派の株主が、「株主総会の招集を決めた取締役会」の手続の瑕疵を理由に株主総会決議を覆そうと虎視眈々と見ている可能性があることを考えると、あまり軽視はできません。そして、議決した事項は「取締役会議事録」を作成し、保存しておく必要があります(様々なお作法がありますので、具体的な作成方法は専門家にご相談いただくのが無難です。)。

7.取締役の権限と責任

 上の項目でも触れましたが、株式会社には取締役会設置会社と取締役会非設置会社があります。取締役会設置会社の取締役は、内部的に権限を付与された担当業務を執行する権限と責任がありますが、単独での意思決定権限はありません。他方、取締役会非設置会社では、単独取締役の場合は単独で、複数の場合はその合議で意思決定をします。取締役会非設置会社で代表取締役を設置していない場合は、全ての取締役が意思決定権限を持ちます。

 取締役は、会社に対し「忠実義務」「善管注意義務」を負います。簡単に言えば、取締役が会社の利益を最優先に考え、誠実に職務を遂行しなければならないという義務で、どちらも大体似たような意味だとご理解いただいて差し支えありません。ここでいう会社の利益とは、経済的な利益は勿論ですが、法令定款の遵守なども含まれます。

 取締役が忠実義務や善管注意義務に違反して会社に損害を与えたときは、取締役は会社に対し損害賠償義務を負います。もっとも、これは故意過失による違法不当な行為によって会社が損害を被った場合のことであり、著しく不合理な判断をした場合を別として、経営判断が奏功せず会社に損失が発生した(=経営がうまくいかなかった)ことを理由として損害賠償義務を負うものではありません。そうでなければ、経営者は利益を求めてリスクを取ることができず、過度に萎縮してしまうからです。これをビジネスジャッジメントルール、といいます。

 忠実義務・善管注意義務が会社法の明文に現れているのが、「競業避止義務」と「利益相反取引の制限」です。

 競業避止義務とは、取締役が会社の事業と同様の事業を行ったり、競争関係にある他の会社の取締役になることを制限する義務です。取締役が会社と同じ業種の事業を別会社で立ち上げたり、取締役が競合会社の取締役等に就任したりする行為が典型です。これを解除するためには、取締役がその重要な事項を開示した上で、取締役会設置会社の場合は取締役会(該当の取締役は議決に参加できません)、取締役会非設置会社の場合は株主総会の承認が必要です。尚、注意しなければならないのが、競業避止義務は在任中の義務で、退任後を縛ることはできません。退任後にも競業を制限したい場合は、取締役との間で個別に合意をする必要があります(これにも注意が必要です。)。

 利益相反取引とは、取締役が会社の利益よりも自分自身の利益を優先するおそれのある取引をいいます。取締役は会社の利益を最優先しなければならないので、そのような取引は制限されています。典型例が、取締役が別に経営する会社との間で取引をしたり、取締役個人に会社がお金を貸し付けたり、第三者に対する債務を保証したりする行為です。これも、競業避止義務の解除と同様、会社の機関設計によって、取締役会または株主総会で承認を受けなければなりません。尚、取締役会等の承認を受けて利益相反取引をした場合でも、会社が損害を被った場合は、その取締役は損害賠償義務を負います。利益相反取引をした取締役だけでなく、承認の議決に賛成した取締役も原則として同様の責任を負いますので、注意が必要です。反対の場合はきちんと議事録に反対したことを記載してもらわなければなりません。

 このような忠実義務・善管注意義務は、監査役にも当てはまります。

8.取締役・取締役会と株主総会の権限の線引き

 株式会社全体の最高意思決定機関は株主総会です。他方、経営に関する意思決定は取締役や取締役会が行います。では、どこが線引きになるのでしょうか。

 これは、取締役会設置会社か、取締役会非設置会社かによって異なります。前者の場合、取締役会が大きな権限を持ち、株主総会は、役員の選任や決算承認、新株発行といった、法令に規定のある限られた事項のみ決定することができるにとどまります。これは、取締役会が取締役の業務執行を相互監視するシステムであることから、株主総会がいちいち監視しなくても良く、むしろ株主総会の権限を拡大しすぎると会社の身動きが取りにくくなる弊害の方が大きくなることを考慮した結果です。

 他方、取締役会非設置会社の場合、会社の定款次第では、株主総会の権限を拡大することも可能になっています。もともと小規模かつ株主や利害関係者も少数の会社が想定されており、会社のフットワークへの阻害を大きく考慮する必要がなく、会社の自由に任せて良いためです。

 この違いは、直接民主制と間接民主制の違いに引き直すとわかりやすいかもしれません。

 前回からの2回に渡って、会社の役員をテーマに解説させていただきました。役員は会社をハンドリングするキーパーソンですから、その権限や役割、責任に十分注意したいですね。

※ニューポート法律事務所では、取締役会の運営やコーポレートガバナンスなど、会社役員が関わる案件を多数取り扱っております。会社の組織体制等で気になること等がお有りの方は、お気軽にお問い合わせください。

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