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連載企画:「会社法」知ってますか?④-1

 今回のテーマは「役員」です。会社を現実に切り盛りする責任者として、会社の中心にいる役員が、実際にはどのような権限を持ち、どういった義務や責任を負うのかを中心に説明してまいります。

1.役員

 役員とは、会社で業務の執行や監督をする人のことで、取締役、監査役、会計参与の3つの役職を総称するものです。このうち「会計参与」は現行会社法で初めて採り入れられた役員の種類ですが、会計参与を設置している会社は少ないため(筆者もまだ巡り会ったことがありません。)、ここでは割愛させていただきます。

2.取締役

 いうまでもありませんが、会社の役員の中で中心となるのは取締役です。会社法では、取締役は「株式会社の業務を執行する」者と定められています。これだけではわかりにくいので少し具体化すると、「意思決定」をすることであると言い換えても良いでしょう。会社それ自体は法人であり、法人とはフィクション~実在しないけれども、人や財産の集合体をあたかも人であるかのように扱う存在~ですから、現実に法人としての会社をハンドリングする人(自然人)が必要です。その最も基本的かつ重要な役割である「意思決定」をする役割を担うのが取締役です。勿論、例えば工場で製品を製造したり、土木建築の現場に入ったり、営業をしたりといった収益のために必要な活動をすることも法人としての会社の活動の一端であり、大変重要なことではあるのですが、これは従業員を雇用したり外注したりすることで代替することが可能であることが多いです(当然、社長や役員がトップの営業パーソンであったり職人であることはよくあります。)。しかし、その会社の理念や、どのようにして稼ぐのか、誰に何をさせるのか、どことどのような取引をするのかなどの意思決定は、会社の在り方そのものを決定づけることになりますから、指揮命令を受けて働く従業員や契約によって動く外注先にさせることはできません。自分のことは自分で決めなければならないのです。取締役は、そういった会社の意思決定を任される立場であることになります。

 多くの会社では、取締役の中でも、役職の付く取締役とそうでない取締役に分かれています。役職の付く取締役の代表格が「代表取締役」です。代表取締役とは、複数いる取締役の中で、代表権を持つ取締役のことをいいます。「代表する」とは、平たく言えば、その取締役がしたことが会社のしたこととみなされる、ということです。反対に、代表取締役がいる会社の代表取締役以外の取締役には、代表権がありません。代表権がないということは、契約書等にハンコを突く権限がない、という意味とご理解いただけるとわかりやすいと思います(内部的に権限が付与されている場合は別。大企業などでは取締役ではない「部長」級の従業員に、対外的な権限が付与されていることがよくあります。)。

 では、「社長」「副社長」「会長」は、あるいは「専務取締役」「常務取締役」とはどのような立場なのでしょうか。実は、会社法には「代表取締役」と「取締役」の区別、つまり代表権があるかないかの違いしかなく、「社長」「副社長」「会長」「専務」「常務」を直接的に定める規定はありません。これは法人登記簿を参照すると一目瞭然です。これらは全て、会社が内部的に付けた役職であり、法的な概念ではないのです。尚、「社長」はほとんどの会社で代表取締役ですが、社長を退いた後のスーパーバイザー的な立ち位置や名誉職になることが多い「会長」は、代表権を持つ会社、持たない会社の両方あります。「副社長」も、どちらの例もあります。専務取締役が代表権を持っている会社もあります。これは会社の沿革や権限分配に関する考え方によっても異なってきます。

3.監査役

 監査役は、取締役の職務の執行や会計の処理が適法・適正に行われているかを監査することを主な任務とする役員です。

 別途もう少し詳しく説明しますが、取締役は、「善管注意義務・忠実義務」といって会社の利益や株主総会・取締役会で決定した方針に従って忠実に任務を遂行する義務を負っているほか、当然ながら法令・定款を遵守(=コンプライアンス)しなければなりません。監査役は、取締役や取締役の指示を受けた従業員が、これら善管注意義務・忠実義務に反する行為をしたり、コンプライアンス違反行為をしたり、或いは明確にこれらの義務やコンプライアンスに違反するわけではないものの不当な行為をしたり、そのような行為をしようとしているのを発見したときは、これを取締役や取締役会に報告し、やめさせたり踏みとどまらせたりすることを任務としています。それでも会社がやめない、例えば違法行為を黙認しているような場合には、取締役の職務の差止めや取締役に対する損害賠償請求の裁判を、会社を代表して提起する必要があります(これは「することができる」権限ではなく、「しなければならない」義務であり、監査役が漫然と放置していると、株主から責任を追及されることもあることに注意が必要です。)。

 また、このような違法不当な状態が発生しないよう、随時業務監査を実施することも、監査役の重要な役割です。

 このため、監査役には独立性を担保するための仕組みが会社法で定められています。取締役は可能とされている従業員との兼任も、監査役はできないと規定されています。

4.「執行役員」

 近年よく聞く肩書に、「執行役員」というものがあります。この執行役員は、会社法上の役員ではありません。現に、取締役や監査役は法人登記簿に記載されますが、執行役員はその対象にはなりません。

 その実態は、一般に「役員に準ずる待遇の従業員」であることが多い印象です。その役回りは会社によって、役員として処遇したい人がいるもののポストが空かないとか、肩書と裁量権を与えてモチベーションアップにつなげたい、など様々ですが、待遇如何によっては本当に単なる従業員となり、役員のつもりで解任や降格を命じたものの、その処分の有効性を争われるというトラブルに発展しかねない点、注意が必要です。

5.役員の選任・任期・終任

 取締役と監査役は、いずれも株主総会の普通決議(出席株主の過半数の賛成)によって選任されます。誰が会社の舵取りをするかによって会社の命運が決まるといっても過言ではないので、取締役の選任は、株主総会において最重要事項の一つです。このため、株主の間でも対立することの多い議題であり、取締役の選任を巡って前回【連載企画:「会社法」知ってますか?③-2】で言及したプロキシファイトが繰り広げられることもよくあります。典型的な例が、現経営陣を支持する勢力と、現経営陣を退陣させて人事を一新しようとする勢力の争いです。

 取締役の任期は、「選任から2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」です。平たく言えば任期は2年です。ただし、非公開会社(全部の株式が譲渡制限株式とされている会社)は、この任期を定款で最長10年まで伸長することができます。

 監査役の任期は、「選任から4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とされています。非公開会社の場合定款で最長10年にすることができることは、取締役と同様です。取締役と比べて任期が長いのは、監査役は取締役におもねることなく、独立した立場で権限を行使しなければならないことから、特に身分を保障する必要があるためです。

 取締役・監査役とも、任期満了、辞任、解任、死亡のいずれかが終任の事由となります(他にも欠格事由等がありますが、細かすぎるので割愛します。)。任期満了によって退任した場合、自動更新にはならず、改めて株主総会で選任決議をする必要があります(これを「重任」といいます。)。重任登記を含む役員の改選に関する登記をしないまま長いこと放置すると、商業登記法の規定により会社が「みなし解散」となることがありますので、役員が替わらない場合でも注意が必要です。

 また、「解任」は、株主総会決議でいつでもすることができますが、正当な理由なく解任すると、解任された取締役・監査役は会社に対し損害賠償請求をすることができるので、これも要注意と言えます。この損害賠償は、残存する任期に対する役員報酬額の全部又は一部、となる傾向にあります。ただし、監査役の解任には、株主総会普通決議で解任できる取締役と違い、特別決議(3分の2以上の賛成)が必要です。これも、監査役の独立性を確保する必要があるためであると説明されています。この取締役・監査役の解任は、トラブル含みとなることが非常に多いです。トラブルがあったから解任に至った、という見方もできますが。取締役・監査役の解任は、決議をする株主総会の招集手続等も論点になることが多いので、専門家に相談の上で実施する事をお勧めします。

 今回はここまで。次回は、取締役会、役員の権限と責任(特に競業避止義務と利益相反取引)、株主総会との権限の線引きをテーマにさせていただきます。

※ニューポート法律事務所では、役員の選解任、役員とのトラブル対応など、会社役員が関わる案件を多数取り扱っております。会社の組織体制等で気になること等がお有りの方は、お気軽にお問い合わせください。

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