次回から続いて、「株主総会」がテーマです。
4.株主提案権と議事進行
株主総会では、多くの場合議題は会社(経営陣)から提案されます。例えば、新任の取締役候補者や、次期の役員報酬の金額などです。他方、株主にも議題を提案する権利があります。その一つが「議題提案権」です。これは、会社が議題として提出していない議題を、株主が新たに提案することを認める権利です(例えば、決算承認と役員報酬だけが提案された株主総会において、全く新しい「取締役解任の件」のような議題の審議を求めるなど。)。これは会日の8週間前までにすること、総議決権の1%又は300個以上の議決権を6か月前から持っていることという要件がありますが、適法な議題提案がなされたにもかかわらず無視をすると、取締役には過料の制裁(ペナルティ)があります。尚、取締役会非設置会社の場合、株式保有期間も保有割合も、さらに会日までの期間制限もなく、株主総会の場で突然議題提案をすることができます。非公開の取締役会設置会社でも、株式の保有期間制限がなくなります。
似たような概念ですが、会社が提出した議題に対し、会社とは違う提案をする権利を、「議案提案権」といい、これも株主に認められた権利です。例えば、会社が取締役の報酬を月額100万円と提案したのに対し、株主が月額10万円とする修正案を提案するような場面がこれに当たります。よく「修正動議」などと呼ばれたりもします。
また、株主は取締役に対し、議題に関連して質問をしたり、意見を述べたりすることができ、取締役には会社法により説明義務が課されています。議長が十分に質問をさせず、或いは意見を述べさせず、取締役による説明が十分になされないなど、議論が尽くされないまま強行採決がなされたり、修正動議を無視した採決をしたりすると、決議の方法が法令に違反したということで、株主総会決議取消の訴えの対象となるおそれがあります。このため、会社は対立が予想される議題について、想定問答を準備したり、株主が議案提案をしたときの対応のリハーサルをしたりなど、周到な準備をする必要があります。弁護士が経営陣の後ろに控えて議長にメモを渡したりする場面を見たことがある方もいらっしゃると思いますが、その多くが株主からの発言への対応についてアドバイスをするものです。
5.株主総会決議
株主総会決議にはいくつか種類があります。一番典型的なのは「普通決議」で、その議題に対し議決権を持っている株主の過半数が出席して、その過半数の賛成によって議決するものです。もっとも、普通決議については定足数の要件を定款で外し、出席株主の過半数で議決できることにしている会社がほとんどです。何らかの事情で定足数に満たないと、会社運営が困難になるからです。
次に、定款変更や新株発行、事業譲渡など特に重大な意思決定をする際に要求される決議の方法として「特別決議」があります。議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で「3分の1」までは軽減可能)が出席し、その3分の2以上の賛成により議決するものです。特例有限会社の場合、総株主の頭数の半数以上の出席と、総株主の議決権の4分の3以上の賛成が求められます。
さらに要件が厳格なもの(特殊決議と呼ばれます)もありますが、実際にこれが必要とされる場面は少ないので、ここでは割愛します。
尚、株主総会の出席や議決権行使は「委任状」によってすることも可能です。実務上、招集通知の中で、出席できない株主には委任状の提出を求め、委任する相手が空欄の場合は議長に委任するものとして取り扱う、と示している会社が多いです。委任状は、株主間又は会社と株主との間で意見が鋭く対立する議題において、どちらが多数を得るかによって会社の方針が大きく変わる場面で注目され、取り合いが繰り広げられます。これは「委任状合戦」或いは「プロキシファイト」と呼ばれます。
6.決議の瑕疵
ここまでに述べたように、株主総会決議には様々な要件や必要な手続があります。これに違反すると決議取消の訴えが提起され、違反が認定されると決議が実際に取り消されることになります。例えば役員報酬に関する株主総会決議が取り消されたら、役員は会社に報酬を全額返納しなければなりません(尚、役員は従業員ではないので、最低賃金などは適用されない点に注意を要します。)。それに、仮に結果として決議取消が認められなかったとしても、裁判に付き合わされてしまうこと自体が会社(経営陣)にとって重大な不利益です。
ですから、株主総会の招集から運営、決議まで全般にわたって、きちんと法令定款の定めに従った手続を踏んでいくことが重要なのです。経営陣の方針と対立する株主は、多少でも経営陣に脇の甘いところがあると、ここぞとばかりに攻撃してきます。株主総会決議取消の訴えはその格好の手段です。少なくとも招集手続については、準備さえしておけばかなりの高確率でトラブルを予防できます。
7.最後に
前回から2回にわたり、株主総会について掘り下げてまいりました。株主総会は取締役会や経営上の会議などと異なり、日常的な経営課題について話し合うものではなく、回数も普通は年1回だけですので、あまり強く意識されないのも無理からぬところはあります。しかし、株主総会は取締役が会社を切り盛りすることの最大の根拠でもあると同時に、反主流派に付け入る隙を与えるリスクを孕むものであります。予防できるトラブルも多いので、限られたリソースを本来の経営課題に集中できるよう、株主総会へのケアを十分に行うことをお勧めします。
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