今回のテーマは「株主総会」です。ある意味、前回までの本連載の投稿は全て、今回の「株主総会」への布石です。
1.株主総会とは
株主総会とは、会社の構成員である株主が直接参加して、会社の基本的な意思決定を行うための議決機関です。
前々回の投稿【「会社法」知ってますか?②-1】で、「会社は誰のものか」という問いに対しては、法的には「会社は株主のもの」が答えであるとお示ししました。会社は株主のものですので、会社の基本的又は重要な意思決定をする権限は、所有者である株主にあるのが当然です。株主が株主総会で議決権を行使する権利は、いわば有権者が選挙で投票するようなものと喩えることができます。このため、会社法は株主総会の招集と議決について非常に厳格な規定を置いています。この点については後ほど説明します。
一方で、株式会社は巨大上場企業までカバーする会社形態ですので、特に上場企業の場合や、オーナーは単なる出資者という場合、株主は会社経営については素人です。親族経営の会社でも、社長や後継ぎは会社経営実務に携わっていても、株主を保有している親族は全く関わっていないということはよくあると思います。このため、株式会社の株主総会は、基本的かつ重要なことしか決定する権限を持たず、日常的な意思決定や専門的な判断の権限については代表取締役や取締役会が専有し、株主は関与することができないという建て付けが原則になっています。もっとも、取締役会を設置しない会社(※「取締役会非設置会社」といいます。取締役が複数いても、定款で「取締役会を設置する」という規定がなければ、取締役会非設置会社です。)。については、オーナー会社としての色合いが強くなりますので、株主総会に権限を付与することもできるようになっています。
2.株主総会の権限
繰り返しになりますが、株主総会は、会社の基本的又は重要な意思決定について権限を持っています。役員の選解任、役員報酬の金額の決定、配当の実施、株式譲渡承認、定款変更、新株発行、減資、事業譲渡、合併・会社分割といったものが典型例になりますが、いずれも会社の行く末に関わる重大かつ基本的な決定事項です。このような重大な物事の決定は、経営を任されている取締役ではなく、会社の所有者本人である株主が決めるべきである(というよりも株主以外が決めるべきではない)、という考え方がベースにあります。
例えば役員の選解任は、自分の持ち物である会社のハンドリングを誰に任せるかという重大事です。人選によっては大成功も大失敗も有り得ます。株式譲渡承認や新株発行は、誰を会社の仲間に入れるかにかかわります。定款変更や事業譲渡、合併などは会社の基本的な形を変えることになります。このため、株主総会決議事項と定められています。
他方で、株主総会は、後記のとおり招集手続や決議要件等が非常に煩雑であり、細々とした物事を決めるには不向きです。このため、何でもかんでも株主総会で決めることにしてしまうと、会社が大きくなればなるほど非効率であり、会社の本来の経営どころではなくなってしまいます。このため、取締役会設置会社では、法令で定められた重要な決議事項以外は株主総会では決められないことになっており、取締役会と株主総会の厳格な棲み分けがなされています。取締役会非設置会社の場合は、もともと株主の頭数が少ないことがほとんどであるため、会社の自由度を広げ、株主総会の権限を拡大することができます。
3.株主総会に関する手続
さて、ここからが本題です。株主総会での議決権行使は株主にとって最も基本的かつ重要な権利ですので、株主総会では株主全員に議決行使の機会を確実に与えられるよう、招集や議決などで厳格な手続要件を課されています。後に詳述しますが、この手続が法令の規定を遵守していなければ、その株主総会決議は取消や無効確認の訴えの対象になり、株主総会での決定が覆ってしまうので、株主総会に関する手続は厳守しなければなりません。
まず最も気をつけなければならないのが、招集手続です。株主総会を招集する際は、招集権者による招集の決定と、株主への招集通知の二段階に手続が分かれます。株主総会の招集は、取締役会設置会社の場合は取締役会が決定権限を持ちますので、まず取締役会の招集と議決を法定の手続に従って実施することが必要です。取締役会を開催せずに社長の一存で決めてしまうと、手続違反になります。尚、取締役会非設置会社の場合は、取締役の過半数の賛成により招集します。これも社長の一存というわけにはいかず、過半数が賛成したことを「取締役議決書」などの記録に残しておく必要があります。この招集事項の決定に際しては、最低限開催の日時・場所と議題を決めることが求められています。この日時・場所と議題を決めないまま招集すると、手続違反となるおそれがあります。
次に、株主への招集通知です。取締役会や取締役での合議によって決められた招集事項をもとに、会社は株主に対して招集通知をします。この招集通知は、会日の2週間前までにしなければならないのが原則です。ただし、非公開会社の場合は1週間前までにすれば足ります。この場合の「2週間(1週間)」とは、「中2週間(1週間)」であり、到達した日と会日の間に2週間(1週間)が丸々空いていることが要求されますので、要注意です。通知の方法については、公開会社の場合は書面によって通知すべきことが法律で定められていますが、非公開会社についてはこのような制限はありません。したがって口頭での招集通知も有効であると考えられています。しかし、招集通知をしたかどうかが問題になるのは、株主と会社(経営陣)が対立するときです。そのような場面で、「確かに口頭での通知がありました」などと馬鹿正直に認めることはまずありません。したがって、いくら信用のおける株主ばかりであっても、「必ず」書面で通知すべきでしょう。さらに万全を期するならば配達証明付書留郵便によるのが確実でしょうが、手間と費用がかかりすぎてしまいます。尚、株主がオーナー社長1人だけの場合は、招集手続をする必要はありません。
このような招集手続が法令に違反すると、株主総会決議取消の訴えの対象となるおそれがあります。
(次回へ続く)
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