前回に引き続き、「株式」がテーマです。今回は株式の管理、株式譲渡、自己株式取得についてお話ししていきます。
1.株式の管理
前回も触れましたが、株式とは会社のオーナーとしての地位、或いは会社の細分化された持分です。これが意味することは、株式それ自体には実体が存在しないということです。
そもそも会社は「法人」です。法人の反対の概念は「自然人」、生き物である人です。法人は生きた人そのものではありませんし、「法人」という物があるわけでもありません。しかし、人が集まった団体は、それを構成する人(役員や従業員)を通じて物を売ったり買ったり、サービスを提供したり、建物を建てたりなど、生きた人と同じような経済活動をします。そのような団体は人と同じように扱った方が便利なので、法律によって権利義務の主体と位置付けられています。これが法人です。
つまり、法人は、それ自体には実体がないにもかかわらず、便宜上の理由で創設された、概念上の存在なのです。
そうすると、概念上の存在である会社(=法人)の株式も同じく概念上の存在ですので、例えば工業製品のように「株式」というものを一つ一つ数を数えて管理することはできません。ただ、それでは色々と不便なので、実体のない株式に無理矢理実体を与えたのが、「株券」です。株券とは、「この株券を持っている人が、株券に記載された株式の持主ですよ!」ということを証明するための有価証券です。昔の会社法では、株式会社は原則として必ず株券を発行して、株主に交付しなければならないことになっていました。
しかし、特に親族経営の中小企業では、現実に株式の取引が発生することは少ないことも相俟って、本当は発行しなければならない株式を敢えて発行しないということもしばしばあり、しかも時代はペーパーレスに向かっていましたので、現行会社法では、特段の定款の定めがない限り、株券は発行しないのが原則であるものと定められました。
これによって問題になるのは、「影も形もない株式の持主が誰か」をどうやって特定するかです。株券があったときは、株券の所持者を一応株主と推定すれば足りる場面もありました。しかし、その株券は今は存在しません。そこで重要になるのが「株主名簿」です。
会社法は、株式を発行している会社に対し、株主の氏名・名称、住所、所有する株式の数、株式を取得した日を記載した株主名簿の作成を義務付けています(会社法121条)。これは株券の不発行が原則となる前からのことです。株式の譲渡や相続などによって株式を取得した者が会社に対し株主名簿の書換え請求を行い、会社がこれに応じて名義を書き換えることで、会社は誰が株主であって、その保有株式数がいくつであるのかをアップデートしながら把握していくことになります。そして、この株主名簿を都度アップデートしていく以外には、誰が株主で何株保有しているのかに関する情報を把握する方法はありません。ですから、株主名簿をきちんと管理していくことは極めて重要です。
尚、法人税申告書の別表2にも株主名と保有株式数を記載する欄がありますが、これはあくまでも税務申告に必要であるものであり、株主名簿そのものではありません。
また、株主名簿の書換えに当たっては、株主名簿の書換え請求に相当の根拠があるのかどうかを慎重に確認する必要があります。例えば、株式の売買を原因とする場合は、株式譲渡契約書を添付してもらうことが必須となります。親族間の譲渡などで起こりがちですが、十分な根拠に基づかずに名義を書き換えてしまい、会社が書換え後の名義によって株主総会の招集などをしてしまうと、「本当の株主に株主総会招集通知がなされていない」などとして株主総会決議取消の訴えを提起されてしまうおそれもあります。株主配当をする場合にも、「本当の株主なのに配当金をもらっていない」などとして配当金の支払を請求され、二重払いをしなければならない事態となることも有り得ます。
このように、株主総会でのトラブルを未然に防止し、或いは株主間のトラブルに巻きこまれないようにするためにも、株主名簿の適時適切な管理は非常に重要です。
2.株式の譲渡
株式は、譲渡制限がある場合を除いて、自由に譲渡(売買、贈与等)することができます。わかりやすいのは上場株式です。毎日凄まじい数の株式が、主に投資の目的で、株式市場で取引されています。当然ながら、非公開会社や上場していない会社でも株式の譲渡は起こります。非公開会社や非上場会社の場合は、上場会社とは違い、投資目的というよりも事業承継を始めとする会社の支配権・経営権の遣り取りのために株式の譲渡がなされることが多い印象です。
株式の遣り取りをする際も、基本的には「売買」です。コンビニでおにぎりを買ったり、ディーラーで車を買ったりするのと本質的な違いはなく、ある財産とお金を交換することを内容とする契約をすることになります。
ただし、株式譲渡の場合、上記1.のとおり、株式には実体がありません。おにぎりであれば現物を手に取ってレジで精算することでおにぎりの所有権を取得しますし、車であれば運輸局(支局)で名義変更をするなど、物(有体物)の売買の場合所有権の移転が目に見える形で発生します。しかし、株式にはおにぎりや車のような実体がありませんから、物に対する現実の支配(これを「占有」といいます。)や登記・登録のように、所有権移転が一見してわかるような事情もありません。このため、株式譲渡をした事実は、契約書を作って残しておく以外に証明する方法がないのです。したがって、株式譲渡の際には、契約書を作成することが極めて重要です。
ただ、一口に株式譲渡契約書といっても、親族や既存の株主の間で、既に事情のわかっている会社の株式の売買をする場合と、例えばM&Aのように全くの第三者が株式を買い受ける場合では、契約書を作るまでのプロセスも、契約書の内容も違ってきます。株式の譲渡をする際には、会社法実務に経験のある弁護士に依頼して契約書を作成することを強くオススメいたします。
そして、株式の売買をした際は、株式譲渡契約の作成だけではなく、上記1.でお示しした株主名簿の書換えをしてもらわなければなりません。そして何より重要なのが、会社において株式譲渡承認をしてもらうことです。日本のほとんどの株式会社は、「非公開会社」つまり発行する全ての株式に譲渡制限が付された会社です(このような株式を「譲渡制限株式」といいます。)。譲渡制限株式が譲渡されても、会社の譲渡承認がなければ、会社は株式を譲り受けた人を株主として取り扱う必要はありません。裏返せば、株式を譲り受けた人は、会社の譲渡承認を受けなければ、会社に対し株主総会での議決権を始めとする株主権(前回の記事参照)を行使することができないのです。ですから、譲渡承認は株式譲渡契約が有効となる条件に設定されることがほとんどです。譲渡承認の権限は、代表取締役、取締役会、株主総会と定款や会社の形態によって様々です。このような手続への対応も含め、トラブルなく株式譲渡をクローズするためには、弁護士が関与することが望ましいです。
3.自己株式の取得
「金庫株」という言葉をご存知の方も少なくないと思います。これは会社が自社のお金で買った自社の株式のことを指します。法律上は、このような株式を「自己株式」といいます。
かつて、自己株式の取得は禁止されていました。なぜなら、実質的に資本(=出資金)の払い戻しになるためです。株式会社では、合名会社や合資会社と違って社員=株主が会社の債務を全部引き受けることはありませんから、自己株式の取得を認めると、会社の存続が危うくなり、債権者等の利害関係者に不測の損害を与えるおそれがあります。このため禁止されていたのです。
もっとも、買収防衛策や財務指標の改善など、自己株式の取得にはプラスの面もあります。このため、現行会社法が施行される前の2001年の商法改正で、自己株式の取得が容認されました。
非公開会社が自己株式を取得するためには、「配当可能利益の範囲内」という金額面での要件と、株主総会決議という手続面での要件など、様々な要件を満たす必要があります。この要件を満たさないまま自己株式を取得した場合、これに一定の関与をした取締役は、会社が自己株式取得のために支出した額に相当する金銭を填補する義務を負います(会社法462条1項)。
対立する株主との争いを終わらせるため、その株主の保有する株式を買い取るという手段をとることがありますが、これを会社のお金でしてしまうと、様々な問題が発生することがありますので、注意が必要です。
前回と今回の2回にわたり、「株式」に関する解説をさせていただきました。この理解を踏まえて、次回は「株主総会」のお話に進んでまいります。株主総会は会社の最高意思決定機関です。株主総会で決めなければならないことは実は沢山あり、株主総会を有効なものにするために踏まなければならない手続も多いです。次回も是非ご覧下さい。
(次回に続く)
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