前回より、会社の基本法である「会社法」についての連載をスタートしました。連載2回目の今回は、「株式」について掘り下げていきます。
そもそも株式とは何でしょうか。一般的な会社法の教科書では、「株式会社における構成員としての地位」と書かれていることが多いです。「会社のオーナーとしての地位」と言い換えても良いでしょう。ちなみに、前回【「会社法」知ってますか?】でも言及していますが、有限会社は現在株式会社として取り扱われますので、今も「出資」と規定している有限会社の定款は、「株式」に読み替えられます。他方、会社法では、株式会社以外に合名会社、合資会社、合同会社という形態も規定されており(これらを総称して「持分会社」といいます。)、持分会社の構成員=オーナーを「社員」といいます。
同じように見える、株式会社のオーナー「株式(株主)」と持分会社のオーナーである「社員」には、制度的には決定的な違いがあります。持分会社の場合「オーナー=経営者」であるのに対し、株式会社では「オーナー≠経営者」であることです。持分会社ではオーナーである社員は原則として会社の代表権を持ち、会社の経営者としての権限と責任を負います。しかし、株式会社で会社を経営する権限と責任を負うのは、オーナーである株主が選んだ経営者=取締役です。その中で、取締役の中から選ばれた代表取締役が代表権を持ちます。株主が自身を取締役に選任することも可能で、中小企業はほとんどこうなっているのが実情ですが、株式会社の原則形は「オーナー(株主)≠経営者」です。株主自身は単なる出資者で、それ故に自分で経営の能力を持っているわけではないので、プロの経営者である取締役を選任して会社の経営を任せ、利益が上がれば配当に与る、という仕組みになっています。このような仕組みは、個人事業主では調達できない多額の資金を市場から調達し、会社を大規模化しやすくするために取り入れられたものです。同時に資本家が持っている余剰の資本(お金)を流動化させる意味合いもあります。不特定多数の人が少しずつ株式を保有している上場企業と、証券会社等を通じて株式投資をする投資家をイメージするとわかりやすいですね。
他方、株式会社と持分会社でも、会社の経営に関する最終的な決定権を持つのがオーナーであるということは共通しています。持分会社は経営権を持つ社員の合議によって意思決定をして、その社員が自分たちで執行する仕組みになっています。株式会社の場合、不特定多数の人が株主になることもありますので、その株主が全ての意思決定を話し合いで行い、株主が自分で業務を執行することは現実的ではありません。このため、株主は会社の存亡や会社の在り方に関わるような重大な意思決定や、会社の舵取りを任せる人の選解任の場面にだけ表に出ることになっており、それ以外の経営上の意思決定や業務執行は全て取締役の専権事項です。中小企業の場合はオーナー社長が意思決定と業務執行を自分でする例が多数ですが、制度の目線から見れば、偶々オーナーと社長が一致しているからそれが可能なだけ、ということになります。
このような株式会社における「オーナー(株主)≠経営者」の関係を、「所有と経営の分離」といいます。
ここから得られる帰結は、「会社は誰のものか」という問いに対する答えです。かつて「ハゲタカファンド」や「敵対的買収」という言葉が流行ったときに、これが論争になったことを覚えている読者も多くいらっしゃるでしょう。勿論、会社経営上の理念として、会社は公のもの、お客様のためにあるもの、従業員とその家族の幸せのためにあるもの、社長が夢を実現するためのもの、色んな考え方があって良いと思います。ただ、法的に「会社が誰のものか」は完全に決まっています。会社は「株主のもの」です。例えば不動産登記簿を見れば土地の所有者が書かれているのと同じように、会社は株主が所有しているのです(物に対する所有権の概念とは厳密には異なります。)。株主が会社を所有しているから、大きな経営方針、特に誰に会社の舵取りを任せるか(役員選解任)とその報酬の決定、誰を会社の仲間に入れるか(新株発行)、会社の決算承認、会社を畳むかどうか(解散・清算)等について決めることができ、裏返せば株主以外の人にはこれらを決めることはできないのです。
前置きが非常に長くなりましたが、結局のところ何が言いたいかというと、株主総会はものすごーーーーーーーーーく大事だということです。役員の選解任や新株発行、会社の解散といった会社の存亡や基本的な在り方に関する意思決定をする機関を「株主総会」といいます(読者の皆様も十分ご承知のとおりです。)。その株主総会で権利行使をすることができるのは「株主」です。既述のとおり、株主とは「株式」の所有者です。ですから、会社は常に、自社の株主は誰で、何株持っているのか、その株主は株主権を行使できる状態なのか(健在なのかどうか、亡くなったならば相続人は誰か)などを把握しておかなければなりません。詳しくは株主総会の回で述べますが、これを怠ると、重要な意思決定が後からひっくり返されてしまい、取り返しのつかない自体になる恐れすらあります。
株主には、会社法で様々な権利が認められています。株主が会社に対して行使できる権利を総称して、「株主権」といいます。株主権の中核は、やはり株主総会での議決権です。これについてはまた別の回で触れる予定です。その他にも株主総会招集請求権、株主総会における議題提案権、株主総会取消訴訟を提起する権利、株主代表訴訟を提起する権利、役員の解任請求権、役員の違法行為差止請求権、議事録等閲覧請求権、会計帳簿閲覧請求権等多くの権利が株主には認められています。ご覧になっておわかりのとおり、株主には代表取締役をはじめとする取締役が会社を適正に経営しているか、おかしなことをしていないかを監視し、ときには是正させるための様々な権利を付与されているのです。これは株主が1株でも持っていれば認められる権利や、一定の割合を持っていて初めて行使できる権利もありますが、いずれにせよ経営陣を選任した多数派だけではなく、少数派(反主流派)の株主でも行使できる権利です。経営陣は、株主にはこのような権利があることを十分理解しておく必要があります。複数の株主の間で意見や感情的な面で対立が発生したときに顕在化しやすいです。
また、株主の権利は完全に平等であり、会社は株主を徹底して平等に扱わなければなりません(ただし、保有する株式数や割合に応じて平等であるという趣旨です。100株の株主と200株の株主とで、配当金や議決権の数が倍になるのは当然です。)。詳しくは別の回で触れますが、特定の株主だけを優遇したり無視したりすると、責任問題になるおそれがあります。もっとも、会社は「種類株式」といって、株式の権利の内容に差を付けた株式を発行することができます(定款の定めが必要)。種類株式の代表的なものは、「その種類株式を保有する株主による種類株主総会の承認がなければ、普通株式の株主総会の決議が有効とならない」という株式で、講学上は「拒否権付株式」と呼ばれます。権限の強大さから、「黄金株」と俗に呼ばれることもあります。外にも「優先株式」といって配当金を優先的に貰える株式や、「劣後株式」といって配当金を貰える順番が最後になるものもあります。優先株式は、議決権行使の制限とセットになるとが多いです。
「譲渡制限株式」も種類株式の一つです。譲渡制限株式とは、株式を第三者に譲渡するに当たって、会社(株主総会、取締役会、代表取締役のいずれか)の承認を必要とし、これがなければ譲受人が会社に株主であることを主張できないという内容の株式をいいます。発行する全ての株式が譲渡制限株式になっている会社を「非公開会社」といい、日本の中小企業の大半を占めています。譲渡制限株式がないか、あっても一部にとどまる会社を「公開会社」といいます(厳密には、譲渡制限株式が種類株式に該当するのは、公開会社が一部の株式を譲渡制限株式としている場合であり、発行する全ての株式が譲渡制限株式である場合は、種類株式とは言わずそれが普通株式となります。))。株式の譲渡には色々な論点があるため、回を改めて触れる予定です。
ところで、読者の皆様の会社では、「株券」を発行されていますでしょうか。かつて旧商法の時代は、現行会社法が制定される数年前まで、どんな小さな会社も、どれだけ大規模な会社でも、株券を発行するのが法律上の原則とされていました。そして、株式譲渡の際には株券の授受が必須でした。ただ、特に中小企業では、親族経営の会社が多いこともあり、株券が作成されない例が多々ありました。このような実情を踏まえ、平成18年施行の現行会社法からは、株券は発行しないのが原則となり、定款で定めることにより株券を発行することとしても良い、という建て付けになりました。
これが何を意味するかというと、株式譲渡の際には、「株式譲渡契約書」と「株主名簿の書換え」が決定的に重要になるということです。詳しくは次回で触れる予定です。
以上、今回は「株式」を中心にお話ししてきました。株式とは会社のオーナーとしての地位であり、株主と株主は同じ会社の共有者同士、という関係になります。その株式を会社はどのように管理していくべきなのか、特に株式譲渡、株主名簿の作成・管理、自己株式の取得について、次回でより詳しく説明してまいります。どうぞお楽しみに。
(次回に続く)
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