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事業承継、一緒に考えてみませんか?⑤

※ 前回(事業承継、一緒に考えてみませんか?④)からの続きです。

 今回は、事業承継に向けた5つのステップのうちのステップ4「M&Aの工程の実施」をさらに深掘りしていきます。

 事業を第三者に承継するとなった場合、「相手探し」が最初のハードルになります。中には、既に付き合いのある同業者など、先に相手が決まることで第三者承継の方向に進んでいくこともありますが、第三者承継という方針が先に決まった場合は、そこから相手探しをすることになります。

 相手探しの方法には、大きく分けて、M&Aのマッチングを専門とする民間のプラットフォームを利用する方法、取引先金融機関を通じて探す方法(この場合も専門業者を併用することがよくあります。)、公的団体(事業承継・引き継ぎ支援センター)を利用する方法などがあります。どれを利用するのが正解、ということは特にありませんが、どの機関を利用する場合でも、どのようなサービスを提供してくれるのか、どこまで関わってくれるのか、費用が幾らかかるのかなどは、納得がいくまで説明してもらうことが重要です。

 この相手探しは、各種プラットフォーム等に登録した事業の買い手候補者の目に留まって、「この事業を買いたい」「後を継ぎたい」と思ってくれるかどうかにかかってきます。多くのプラットフォームでは、「ノンネーム」つまり匿名のまま、業種、地域、事業規模、従業員数といった情報と、譲り手からのPRのみが公開されます(オープンネーム方式を採用するプラットフォームもあります。)。ここで買い手候補者の目に留まるには、このような指標などから、経営の健全性が確保されていて、継続的に収益を得られる可能性があると見られるかどうかが重要です。そのための方法の一つとして「磨き上げ」のステップがあります(事業承継、一緒に考えてみませんか?②)。当然ながら、普段から経営体質の改善を心がけておくことに越したことはありません。

 相手探しに成功したら、次はお相手との契約交渉が始まります。具体的には、①承継のスキーム(「株式譲渡」「事業譲渡」の例が多いですが、吸収合併などの事例もあります。)、②譲渡対価、③クロージング条件、④役員・従業員の処遇、⑤前提条件が異なった場合の処理等が協議され、その結果が契約書に落とし込まれます。

 とはいえ、スーパーで食料品を買うのとはワケが違いますから、これらの契約の条件を決めるに当たっても、様々な調査検討が必要になります。そのため、トップ会談を経て「事業承継に向けて同じ方向を向いて行きましょう!」という趣旨の「基本合意書」という書面を作成し、想定される承継のスキームや譲渡対価の目安、最終契約までにクリアしなければならない課題や実施すべき調査の内容、最終契約又は契約不成立までに双方が守らなければならない義務などについて定めます。併せて「秘密保持契約書」(よく「NDA」と略されます。)も締結されます。

 そして、この基本合意書が締結された後、多くの事例で「デューデリジェンス」(略して「DD」)という調査を実施します。このDDは、さらに財務DD(財務状態が帳簿上適正に表示されているか否かの調査)、法務DD(法務リスクに関する調査)、ビジネスDD(買収による買い手の事業と譲り手の事業のシナジーなど、ビジネス上の効果に関する調査)等に分類されます。財務DDは主に公認会計士や税理士、法務DDは弁護士の守備範囲です。これらDDは、M&Aに当たっても必須とまでは言えず、小規模なM&Aなど、事例によって実施しない場合や、実施しても略式にとどめる場合もあります。しかし、この結果次第で、そもそも最終契約を締結すべきか否かに加え、譲渡対価、クロージング(M&Aの実行)条件が変わってきますから、これらを定めるために非常に重要な手続であることは間違いありません。

 例えば弁護士による法務DDで調査の対象となるのは、

 ・譲り手が本当に株式の所有者なのか

 ・従来株主総会や取締役会が適正に開催され、株主総会や取締役会で議決しなければならない事項がきちんと議決されているか

 ・どのような取引先とどのような取引をしているのか、その取引は事業承継後も継続可能なのか

 ・現有の負債はどの程度か、簿外債務がないか

 ・役員や従業員はそのまま継続雇用が可能なのか(特に事業継続上カギとなる人物について)、従業員との間で未払残業代など労使
  紛争の火種になるような事情はないか

 ・許認可を維持できるか

 ・コンプライアンス上の重要な問題がないか

などといった項目で、更に上記の項目の中でも細目が多岐にわたります。短期間で大量の資料の読み込みや関係者からの聞き取りを実施してレポートにまとめなければなりませんので、フルスペックで実施するとどうしても相当額の費用がかかってしまいます。このため、中小規模の案件や予め相手方のことがよくわかっている案件ではスコープを絞って実施することも多くあります。

 このようなDDの実施を経て、最終契約の段階に移行します。

(次回に続く)

※弊所では、公的な事業承継の支援機関や民間の事業承継マッチングプラットフォームと連携して、事業承継問題に取り組んでいます。

 事業承継にご関心をお持ちの際は、お気軽にお問い合わせください。

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