今年も年末が近づいてきました。前回はパワハラを題材にしましたが、今年は「働くこと」に関する規制の動きが目立った一年だったように思います。
一番はいわゆる「フリーランス保護法」ですが、他にも、14日以上の連続勤務を規制する動きもあります。
このお話は、議論が固まってきた段階で紹介させていただこうと思います、今回は案外知られていないかもしれない「本業と副業とをどちらも雇用契約にしていた場合の割増賃金の考え方」についてご紹介させていただきます。
エンジニアを中心に、働き方改革の観点から複数の会社の掛け持ちを許容したり、本人の研鑽のために副業をある程度前向きに受け入れる事業者も増えてきているようです。
ところで、ある企業では、副業を柔軟に認めつつ、ただ一点、「副業が業務委託契約か雇用契約か」については常にこだわっていました。
「副業先の契約形態がどのようなものか」という点は、実は労働法の世界では大きな差を生む可能性があります。
特に賃金に関わってくることですので、よく注意をしておく必要があります。
労働時間の考え方や賃金の数え方については労働基準法に定めが置かれているのですが、そのうちの一つとして、次のような規定があります。
(時間計算)
第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
ここでいう「事業場を異にする場合」というのは、同一事業主の異なる事業場において労働する場合だけでなく、事業主を異にする事業場において労働する場合も含まれると解釈されています。
そして、「労働時間」は通算されてしまうので、本業で十分に働いた後に副業先で従業員(労働者)として働く場合には、副業先で数時間程度しか働いていない場合でも、割増賃金が発生する可能性があるということになります。
なお、本業のA社との労働契約が先、副業先のB社が後、という場合、解釈論としては、後で契約を締結した事業主(B社)は、契約の締結に当たって、当該労働者が他の事業場(A社)で労働していることを確認した上で契約を締結すべきであるから、割増賃金を負担しなければならないのはB社、とする見解が有力です。ただし、通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた事業主も含め、延長させた各事業主が割増賃金を支払う義務を負うことになります。
ただし、これは「労働」時間を通算するという話なので、副業先が業務委託契約であれば、労働時間ではなく「委任に基づく業務」ということとなって、通算するカウントとはなりません。
そのため、冒頭に紹介した企業においては、労働契約ではなく委任契約とすることによってこういった問題の発生を防ごうとしていると考えられます。(労働契約前提の副業申請があった場合に、それ自体を一概に否定するわけではないことにしつつ、その代わり、副業先での勤務時間を確認して通算しても超えないように管理する、といった方法もあり得るところです。)
自社の従業員が副業を開始することによって、自社側の勤務時間部分に割増賃金支払義務が生じうる可能性があることを知っていただく趣旨で、今回話題とさせていただきました。
もちろん、従業員による副業申請のグリップの仕方を誤り、大切な従業員との関係性を壊してしまうような硬直的な対応は望ましくない一方で、従業員側としても、意図せずして会社に経済的な損失が発生することは避けたいと考えることと思われます。
弊所では、こういった問題に直面した場合の適切な対応策についての御相談も承っていますので、気になる点などありましたら弊所までご相談ください。