損害保険業界に対する行政機関の動きは最近活発なところですが、その一つの表れとして、2024年10月31日に、公正取引委員会による行政処分が行われました。
いわゆる共同保険に際し、保険会社同士で入札保険料の情報共有などを行っていたという事件に対する処分となります。
処分対象は大手4社と代理店1社であり、カルテル・談合が複数件(合計9件)認定されました。大手4社に対しては排除措置命令だけでなく課徴金納付命令も出されています。
ちなみに、課徴金納付命令というのは、名称のとおり、課徴金という罰金のようなものを国に納めるよう命令するものですが(罰金は司法権に基づく金銭徴収、課徴金は行政権に基づく金銭徴収という違いがあります。)、もう一つの排除措置命令は、違反行為をした企業等に対して速やかにその行為をやめさせ、市場における競争を回復させるのに必要な措置を命じることです。
今回の排除措置命令では、①既に違反行為を取りやめていること及び今後はカルテル等を行わないことを取締役会において決議せよ、②このような決議を行ったこと等をこの処分に関係する他事業者や自社社員に周知せよ、③今後今回共にカルテル等を行った事業者と同様の行為を行わないようにせよ、④違反が再発しないようにするために定期的な監査等を実施せよ、といった内容が含まれています。
「公正な競争環境を取り戻すために、障害となる事項を排除するために必要な措置を命じる」ものであることから、排除措置命令と名付けられている、と考えてよいでしょう。
さて、今回報道でも指摘されていますが、この処分に合わせて「共同保険に係る独占禁止法上の留意点等について※PDF」というものが公開されたという点が少し特殊なものとなっています。
通常、行政処分では、その処分において認定された事実関係を踏まえ、処分結果を公表することはあっても、敢えて別文書によって注意喚起を行うということはあまり行われていません。それにもかかわらず、上記の「留意点等について」が公表されたのは、より踏み込んだ対応がなされたといえそうです。
「留意点等について」は、ガイドラインの一種であり、これによって新たなルールが作られたわけではありませんが、上記のとおり今回9件という多数の案件が一度に認定されていることも、敢えてガイドラインが発出された要因となっているものと考えられます。
「留意点等について」では、共同保険が損害保険の安定的な提供のために有用となる場合があると考えられる一方で、競争関係にある損害保険会社が、組成過程において、他の保険会社の保険料等の情報に接し、協調的行動がとられやすいとの観点から、共同保険の際に保険料等の談合をしてはならない、契約締結後に次の同種契約締結に備えて他保険会社と情報共有を行ってはならない、といったことが示されています。
そして、損害保険代理店に対する言及もあり、談合にかかわった場合には代理店自身も処分対象になり得るということのほか、「各損害保険会社が乗合代理店を通じて情報を共有し、保険契約者の意に反した競争制限的な行為につながることの無いよう十分な留意が必要である」とされています。
「留意点等について」は、比較的ボリュームも少ないため、お時間があればぜひ一読していただき、また、無用なトラブルに巻き込まれないためにも、普段から各種ガイドラインにも目配りされるとよいでしょう。 内容が難解であることも多いですので、もしお手軽に今回のような新たに出されたルール・ガイドラインの内容についての詳細が知りたい、ということでしたら、遠慮なく弊所までお問い合わせください。