最近のニュースで、厚生労働省は、2024年8月9日付でプレスリリースを行い、「賃金のデジタル支払い」について、PayPay株式会社へ指定を行ったと報じられました。
賃金の支払については、労働基準法24条1項で次のように定められています。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならな い。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
この規定は、給料(賃金)は通貨で直接支払わなければならないとするものですが、労働者の生活保障の観点から、ここにいう「通貨」は現金(日本銀行券や貨幣)を指し、仮想通貨やポイントなどの通貨でないものや、ドル等の外国通貨による給料の支払いは認められていません。
また、直接払とされているのは、賃金の代理受領による中間搾取を防止して、労働者が確実に賃金を受領することを保障する趣旨ですので、例えば親権者や受領の委任を受けた代理人に対して支払っても、その支払いは無効となります。
本記事をご覧になっている方の多くは、銀行口座への振込によって給料を受け取っていることから、口座への振込払いが原則的方法のように感じられるかと思われますが、これは先ほど挙げた労働基準法の条文にある、「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるもの」として、労働基準法施行規則において、労働者の同意を得た場合に採ることができる方法として定められたもので、法的には例外的な位置づけとなります。
今回の厚生労働省による指定は、近年における電子マネーの普及を受け、銀行口座への振込払いと同様に、資金移動業者を介した賃金のデジタル払を「賃金について確実な支払の方法」と扱う方針としたものといえます。
今回指定されたのはPayPayですが、今後は楽天ペイやauPAYといった他の資金移動業者についても広まっていく様相です。
賃金のデジタル払いは、労使協定や労働者の同意が必要ですので、今後利用がどこまで広がるかが焦点ですが、PayPayの関係会社であるソフトバンクグループ10社では既に社内で募集を行っており、最短で9月25日分から給料をデジタル払いで受け取ることができるようにしているとのことです。
弊所では、賃金に関する事項をはじめ、労働事件も取り扱っておりますので、気になる点等ございましたら、お気軽にご相談ください。