皆様は、「ギグワーカー」という用語を御存じですか。
ギグワーカーは短時間かつ単発で仕事をする労働者のことで、最近急激に増えだした働き方です。
英語の「Gig Worker」をそのまま日本語読みした用語ですが、「Gig」とは、ライブハウスやクラブ等の小さな会場で行われる、一度だけ、あるいは短時間の演奏のことを指しています(バンド系音楽系雑誌でGIGSというものがありますね。)。
この音楽用語に由来する「Gig Worker」は、雇用のような継続的なものではなく、業務委託の方法による働き方として、日本ではさらにインターネット上のプラットフォーマーからの依頼を受け、単発の仕事を請け負う者を主に指すような使い方がされています。
例えばウーバーイーツの配達員や、ライドシェアの運転手が代表例で、他にもスポットでプログラムの保守・運用を行うエンジニアも含まれます。
今回、このギグワーカーを話題として取り上げたのは、厚生労働省がギグワーカーの待遇改善を図るとの報道が出されたからです。
ギグワーカーは、上記のとおり業務委託契約に基づき活動するもので、民法上の契約分類では委任契約や請負契約に該当し、労働契約(雇用)ではないため、労働法による規制が適用されないというのが一般的な整理となります。
そのため、例えば、①長期間の業務委託取引があったのに、ある日突然契約が解除されたとしても、業務委託契約の契約条項に反していない限り違法性はないないと判断されたり(労働契約であれば解雇をすることは容易ではありません。)、②雇用であれば、社会保険を会社と従業員とで折半して負担することとなっているのに対し、業務委託では働き手(受託者・受注者側)が国民健康保険料として満額負担をすることになったり、③雇用であれば労働者の保障制度となる最低賃金制度が業務委託では適用されない、といったように、働き手の側が不利な仕組みとなっていると言っても過言ではないものと考えられます。
しかし、働き方が日本でも変わってきており、これまではアルバイトのような形で雇用先とは別の場所で働くことを「副業」と呼んでいたのが、主と副を区別せずに「複業」という呼び方も出てくるなど、労働観やそれに基づく用語に変化が生じてきています。
他方、企業側でも、雇用の場合は企業側が一定の負担をする内容になっていますので、雇用ではなく業務委託によって労働力を確保したいと考える企業も増えてきているようです。
このような社会の変化に伴い広まってきたギグワーカーですが、アメリカではギグワーカーの労働条件が非常に悪く、例えば「ショッパー」と呼ばれる買い物代行サービスのギグワークでは、仕事を求めて競争が生じ「race to the bottom」(底辺への競争)と呼ばれる低賃金化に向かっていることが指摘されています。このような背景もあり、一定条件を満たすギグワーカーを従業員とみなす規則を設けたと報じられました。
今回の厚生労働省による指針も、ギグワーカーの保護に向けたものとして注目されます。
ギグワーカーと比較して専門性が高い業務や長期の案件に携わるフリーランスについては、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が令和6年11月に施行されます。
現在外注をしていたり、今後個人への外注を検討していく場合に、具体的にどのような点に留意すべきかはケースによって変わってくる可能性が高く、専門家のアドバイスを受けることが有益であると思われますので、その際は弊所までご相談ください。