報道で既にご承知の方もいらっしゃると思いますが、これまで法人登記には代表者の住所が記載されていたところ、今年の10月1日から、一定の要件のもと、非公開とする措置を採ることができる変更が行われる予定です。
今回はこの件についてご説明します。
法人化については、以前の記事(「法人化することの意味」)にてお話したところですが、そのメリットの一つとして、経済的な信用力が上がるということが挙げられます。
この背景には、一個人よりも組織と取引をする方が、代金を回収できなくなるリスクは低いだろうという社会通念があるように思われます。
さて、法人を設立する場合には、税務上の手続だけでなく、登記手続も必要で、我が国において会社として存在していくためには、法人登記(設立登記)をする必要があります。
一個人が突然、自分は会社の代表であると称して、実際には存在しないはずの会社の印鑑を作成し、それを使って取引をするようなことがまかり通ってしまえば、会社制度に対する社会的・経済的信用は損なわれてしまいます。
このような事態を回避するため、我が国では、法人登記の形で、会社に関する一定の事項を公開する仕組みが採られています。
こういったコンセプトから、いつでも誰でも(特にその会社と関係があるわけでもない人でも)、法人登記に記録されている情報を入手して、会社が法人として実在するかを確認できるようになっています(法務局で取得する方法のほか、インターネットでも取得することが可能です。)。
ところで、この法人登記には、会社の資本金の額や事業目的、役員構成といった事項のほかに、代表者(主に代表取締役)の住所(自宅住所)が掲載されています。
代表者の住所は、例えば、会社が銀行から融資を受けるに際して代表者個人を連帯保証人とする場合の事前調査にあたって使用されたり、会社から何らかの被害を受けた際に、会社だけでなく代表者も裁判の被告にするための手掛かりとして使われています。
このような用いられ方からすると、代表者の住所を公開することは、一定の社会的必要性がある一方で、代表者の自宅が特定されることから、プライバシーの観点から問題があるといった指摘がなされています。さらには、代表者の住所が公開される仕組みになっているために法人化を敬遠する例もみられるとの指摘もあるようです。
このような指摘を踏まえ、会社のニーズに応じて、代表者の申出によって、当該代表者の自宅住所を非公開とする措置を採ることができる仕組みへと、制度変更がなされることとなりました。
非公開措置を講じた場合、金融機関から融資を受けるに際して不都合が生じたり、不動産取引にあたって必要書類が増える等の一定の支障が生じることが想定され、非公開措置を申し出るにあたっては慎重かつ十分な検討をするよう注意喚起がなされていますが、代表者の自宅を記載しなければならないという点を理由に法人化を見送ってきた方にとっては、一つの検討機会になろうかと考えられます。
弊所では法人化のご相談も承っておりますので、お気軽に御相談ください。